第26話 昇格事前クエスト ③

 ずいぶんと奥まで進んだが、正直することがなくて暇だ。

 基本的に魔法の一撃で終わるので、俺は当然だがヒーラーのちびっ子も出番なしだ。


 ぺ・ポコがひと息入れる時も、イさんが既に飲み物を渡している。

 俺たちの活躍できる場が全くない。


「あはははは、欠片ばかりですねえ。ぺ・ポコのスキルでも賢者の石はきついか~」


「ケッ、どうせバカ官僚が欲しがっているだけだろ。そんなの適当に流しておけ!」


「あははは、それは最終ユーザー。君の目的は償いだよ、間違えるんじゃない」


 そんな内情を喋っていいのかと心配になるが、どこ吹く風の2人である。


 そうして1、2階層の敵はあらかた狩り尽くし、目当ての賢者の石はでてくれない。

 残るは最終層のみだ。


「うーん、やはりD級だとダメだね。ボスに賭けるしかないのかなぁ」


 敵をたおす度に、必死な顔をして確認していくイ・ニョウドウンさん。

 対してぺ・ポコはそれに軽蔑の視線をむけ、不機嫌な顔で進んでいく。


 それを横目にちびっ子が耳打ちをしてくる。


「クズ人間の性格も悪いですが、コモン社のやり方もひどいですからね。囚人に身が入らないのも仕方ないですよ」


 急速に成長した韓国コモン社。


 時勢に乗った手腕だと評価される半面、ハンターから訴えられることが多く、何かと裁判が絶えない会社だ。


 囚人ハンターをこき使ってのこの事業も、コモン社の得意分野で、各国真似をする所も出てきている。


 だけどぺ・ポコが罪を犯したのは事実で、同情の余地はない。


それに今日一日だけの付き合いだ。

 今回は俺らも自分の役割を果たす、それに専念するとしよう。




 そうして3階を始めた途端に、琥珀色の石が出た。


「準・賢者の石が来ましたー!」


「「「おおおおおおお!」」」


 わき上がってくる嬉しさに吠え、力一杯のハイタッチを交わす。

 ぺ・ポコはニヒルに控えめな感じだが、ほころぶ口元を隠せれていない。

 なんだかんだ言っても、自分の力を示せて嬉しいみたいだな。


「チッ……」


 俺の視線に気づき背をむけた。

 聞こえない程の舌打ちをしているが、照れ隠しのヘタな男だ。


「もう失礼だよ、ぺ。ごめんね、アイテムが出たら、彼にも減刑のボーナスが入るのに素直じゃないんだよねえ」


「ふん、300年の内の一年が減るだけだ。大して変わらん」


 その言葉で思い出した。


 賢者の石が凄いってのは分かる。

 でも、その価値や使い道がいまいちだ。

 格好悪いと思いつつも、俺も好奇心に勝てずちびっ子に聞いてみた。


「ちなみに賢者の石って、いくらになるんだ?」


「確かな事は言えないけど、オークションで数十億円は普通ですよ」


「おぐおぐおぐぐぐ?」


 言葉にならない雄叫びをあげてしまった。


 出るか出ないかで、俺の未来は大きくかわる。

 そう考え興奮した俺は、思わず幸運の指輪をイさんに差し出していた。


「これ、運が上がるアイテムでさ。良かったら使ってよ、ね、ね、ね!」


「あははは、いらないですよー」


 手に押し込めようとしても、かたくなに受け取れないと断ってくる。

 ゴリゴリの前衛だけど力負けなんてしていられない。

 俺と家族の未来がかかっているんだよ。


「そうじゃなくて、それがあるとマズイんですよ」


「へっ?」


 ぺ・ポコのスキルは強力だけど、アイテムの干渉があると効果が失くなるそうだ。

 そう告げられ、俺は慌てて指輪を引っ込めた。


 そうなるとやはり出来ることは何もない。

 2人についていき、とうとうボス部屋のひとつ手前の所まできた。


 あのあと3階層は全滅で、デーモンクリスタルしか出ていない。

 あとはボス戦だけで、こうなったら神様に祈るしかないぞ。


 俺は異界の神様とはズブズブの関係だ。

 真剣に頼めば聞いてくれるはず。それを信じて一心不乱に祈りを捧げた。


 そんな俺の祈るなか、ボス部屋の扉を開くと、異様な光景が広がっていた。


 ここまでの赤茶色い壁とはちがい、青白い照明で照らされた部屋。

 その中央に立っているのは、グレムリンなどではなくて、D級では出現しない高位のアークデーモンだった。


「なんでBクラスのモンスターがここに?」


 イさんが呟いたとおり、このダンジョンでは異常事態が起こっている。


「ダンジョンのバグアップだわ、早くこの場から離れましょう」


 ちびっ子がすぐさま警告をする。

 通常の2ランクも上のボスになっているし、じきに全体のザコモンスターも置き換わるはずだ。


 だけど、これにイさんは笑いかえした。


「バグアップは予想外だけど、これでドロップの確率は上がったんだよ。ボクらにとって願ったりだよ!」


「このメンバーでやるつもりって、アンタ馬鹿なの?」


 ちびっ子はまさかといった表情で、全滅するわよとイさんをいさめた。

 だがそれでもイさんはぶれずに、まっすぐとアークデーモンを見つめている。


「決定権は君にはないよ、ボクがやるといったらやるんだよ?」


「いいえ、アンタこそ勘違いしているわ。国際協定において、全ての決定権は全員の合意により成り立つわ!」


 ちびっ子の言うとおり、多数決や独裁はあり得ない。

 自分の命を、誰かの意見に任すはずがない。


 それにボス戦だと、普通はちゃんとした編成でやるものだ。

 いくらレベル54とはいえ、ちびっ子はヒーラーで、盾役がいなくてはその力をふるえない。


 あのEXステージの悪魔を見ている俺からしたら、このアークデーモンもカワイク思えるが、通常のより格上らしい。

 危険この上ないってことだ。


「あの鱗とたてがみを見なさいよ。アンタの鎌で切り裂けるレベル? それにあの爪を受けきれるの?」


 アークデーモンからにじみ出る魔力は本物だし、いままでの相手とはレベルが違う。

 ちびっ子の正論に怒髪天のイさんだが、言い返せずに黙って首を横にふった。

 俺らは少しほっとした。


「そうだよな、ここまで来て俺がやったらダメだよな」


「どうされましたか、シュータ様?」


「いやいや、なんでもないよ。あははは」


 正直な所、あれなら俺1人で簡単に勝てる。

 だけどいろいろ考えると、それをみんなに言うべきじゃない。

 イさんも諦めているし、このまま帰るのが一番だ。


 それに今回の目的はアイテムだから、俺がトドメを刺したら意味がない。

 それどころか訴訟問題になってしまう。


 そんな心配は必要なく、イ・ニョウドウンさんは折れてくれた。

 だが、すぐにでもメンバーを揃えて再挑戦をすると意気込んでいる。


「待っていろよ、お前を倒して賢者の石は手に入れてやるからな!」


 イさんがそう宣言し、拳を突き出したその時、辺りに異変がおき始めた。


 この部屋の赤茶色の壁が次々と、ボス部屋と同じ色に変わっていっている。


「な、何がおこっている?」


 誰の声ともわからないけど、皆同じ気持ちだ。理解不能なことが起こっているんだよ。


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 番場 秀太

 レベル:34

 HP :575/575

 МP :1055/1055

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:3140〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+50)

 魔 力:220


 装 備 早撃ちのガンベルト

     保安官バッジ

     幸運の指輪

     深淵のゴーグル

 ステータスポイント残り:40


 所持金 5,500円

 借 金 33,920,000円

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