第25話 昇格事前クエスト ②

 国際共闘アタック当日、ダンジョン前。


 ここはグレムリンが出るダンジョンで、まだ集合時間になっていない為か、俺が一番早く到着していた。


 ちびっ子とはあの合同アタック以来だな。


 あの子はレベル的にはすでに54と、Aランクの域に達しているが、忙しかったようでこの昇格クエストに手が出せなかったそうだ。


 ギルメンの世話を焼いてばかりで、小さいのに偉い子だ。


 そうこうしていると、ちびっ子が大きく手を振り走ってきた。


「シュータ様ーーー!」


「さ、さま?」


 変な掛け声に唖然としていると、ちびっ子がタックルかの如く抱きついてきた。

 超高速での体の芯に響く衝撃。油断していた分、肺の空気を全てもっていかれた。


「ぐええええええええ!」


「あああ、ごめんなさい。ヒール!」


 ちびっ子は自分のあやまちに気づき、動揺している。

 それを頭を撫でて、少しだけでも静めてやる。


「ごほっ、ごほっ。元気なのはいいが、この前とえらく対応が違うな。いったいどういう変化なんだ?」


 するとモジモジとしながら、これまたちびっ子らしからぬ可愛らしい声をだしてきた。


「もう、あんな格好良く救っておいて、その言い方はイジワルですぅ」


「えっ!」


 潤んだ上目遣いに戸惑ってしまう。

 これはいつも他の人に向けられていた恋する乙女のマジ顔だ。


 それが初めて俺に向けられているよ。


 むむむ、嬉しんだけれど、俺は子供には興味がない。

 ストレートに言うのも失礼だし、どう扱っていいのか悩む。

 なので取りあえず、頭をガシガシとなでておいた。

 ちびっ子が嬉しそうにしているし、ひとまず正解だったようだ。


「それはそうと、ちびっ子。よくこの案件を受ける気になったな。特殊すぎるし大丈夫か?」


「メンバーに受刑者がいるって件ですか? もし何かあったらシュータ様が守ってくれますし、何も心配はしてないです」


「ははは……」


 すると一台のタクシーが止まり、中から2人のイケメンが降りてきた。

 2人とも中性的で絵になり、見惚れてしまう。


 俺らが今回のメンバーだと確認すると、挨拶をしてきた。


「お待たせしました。ボクは韓国コモン社から来ました、監視員のイ・ニョウドウンといいます。そしてこちらが囚人のぺ・ポコです」

「ケッ……」


 手錠をされていないのには少々驚かされた。

 そんな目線に気がついた監視員のイさんが、にっこりと笑ってくる。


「心配いりませんよ。彼は私のスキルで支配下に置かれています。人に危害を加えるどころか、私の許可なくしてはスキルの1つも使いませんよ」

「ケッ……」


 イさんが柔らかな動きで、相方の肩に手をおき寄りかかる。

 それをぺ・ポコさんは嫌がり振り払った。


 微妙な関係の2人のようだ。

 踏み込んだら、飛び火で大火傷をしそうだ。


 それにしても、対照的な2人がやってきたものだ。

 全身黒ずくめで大きな鎌を背負った、陽気なイ・ニョウドウンさん。


 もう一人は派手な色使いの魔法使いローブをまとった、愛想のわるい囚人のぺ・ポコさん。


 すると陽気なイさんが、確認したいと言ってきた。


「彼ぺ・ポコのスキルを活かすため、ラストアタックは盗らないで下さいね」


「ああ、アイテムドロップ率を100倍にするスキルだったな。心得ているよ」


「はい、それがあるから彼は生かされていますし、罪滅ぼしの機会があたえられるのです」


「ケッ、なにが罪滅ぼしだ。俺から搾取するヤツラがよう」


 忌々いまいましそうに唾を吐くぺ・ポコ。かれは反則級スキルの持ち主だ。


 だがそのスキルの原因で、殺人をおかし終身刑をくらっている。

 で、そのスキルを使い遺族への償いをするのだから、因果応報と言わざるをえない。


「では、入る前に彼への呪縛を解きますね」


 ダンジョンに入って、すぐの不慮の事故を防ぐためなので、俺らは了承すると伝えた。


「ふう、やっと窮屈な鎖が外れたぜ」


 解除されたぺ・ポコの目つきが鋭くなる。

 だがそれだけで、イさんがひと睨みをして押さえつけた。


「ははは、ご安心を。私の〝声〞が聞こえる限り、彼に自由はありませんよ」


「ケッ、お前さえ死ねば自由なのによ」


 ギスギスして関係を見せられて、少し疲れを感じる。

 今更ながら、このクエストを受けたことを後悔してきて、ちびっ子は大丈夫なのかと視線をむける。


「しょーもないですよね?」


 ちびっ子は2人を見つめていたが、やがてつまらなさそうにソッポをむいた。


「いくら顔が良くても、中身がクズではダメですね。その点シュータ様はどちらも100点満点ですから、比べ物にはならないですよ」


「こ、こら、そんな事を言うんじゃないよ」


 ぺ・ポコのしたことは知っているけど、今日一日ともに行動するのだからとちびっ子をさとす。

 変ないさかいは避けたかったけど、手遅れのようで、ぺ・ポコはこちらを睨んできている。


「なんだと日本人が。ガキでも容赦しねえぞ、コラッ!」


「そのガキに言われているのは、何処の誰かしら?」


 即答されたぺ・ポコの顔色がみるみる赤くなる。

 牙をむき、火の玉を手のひらに作りだした。


 俺は慌てて彼をなだめた。


 もしゲートに強い衝撃を与えてしまうと、ダンジョンが崩壊して、スタンピードが始まってしまう。


 よくダンジョンテロで使われる手口だが、俺まで犯罪者になんかになりたくない。


「ぺ・ポコさん、日本語お上手ですねえ、感心しましたよ。それと時間が勿体ないので、早く中にはいりましょう、あはは、あはは、あははは」


「チッ……」


 渋っていたが唾をはき、イラつきながらゲートをくぐってくれた。先が思いやられそうだよ。



 中は洞窟タイプで、出現するのは悪魔系のグレムリンだ。


 そこからは目まぐるしいぺ・ポコの狩りが始まった。


 流石はBランクアタッカー。

 魔法をつかい、流れるように見える敵を全て狩っていく。

 そして出たアイテムを、イさんが集めていく。

 互いに邪魔をせず、よく連携がとれているよ。


 そして6体目で早くもアイテムが出た。


「デーモンクリスタルの欠片ですか。売値は20万円でしたから、そこそこですね」


 俺とちびっ子は度肝抜かれた。

 ドロップ率が1/1000だと言われているアイテムを、いとも簡単に出して平然としている。

 やはり反則級なスキルだよ。


「あはっ、そんな顔をしないで。これからが本番ですよ」


 イさんは嬉しそうに再開の合図をだす。

 それにぺ・ポコは見向きもせずに、淡々と狩っていく。


 ときおりぺ・ポコの怨み節の独り言を聞かされながら、俺たちの昇格クエストが進んでいった。


 なんだか居心地がわるく、落ちつかないクエストだよ。

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