第24話 昇格事前クエスト ①

 親父殿が帰ってきて、嵐のような一晩だった。

 怨む気持ちはないけれど、今後はちゃんと働いてもらう。


「それにプレゼントを貰ったしな、逆さ吊りだけは勘弁してやるか」


 ダンジョン攻略と親父殿の面倒の両立。

 大変だけど、結衣や母さんだけに負担をかけられない。

 しっかりと長男である所を見せないといけないよ。


 そろそろ親父殿を起こすため、リビングの方にきた。

 そこには既に結衣がいて、何かを見つめ震えている。


「結衣、どうしたんだ。腹が減って漏れそうなのか?」


 まだまだ子供な妹に癒されて、最高の朝を味わっている。

 だけど振りかえったその表情は、能面みたいに固まっていた。


「お、お兄ちゃん大変だよ、お父さんが蒸発しちゃったよ」


「なにーーーーーーーーーーー!」


 と、手に持っていた手紙を一旦握り潰し、呪いをこめてから渡してきた。


 ~皆さんへ。ダディの研究心に火がついた。あの準・賢者の石は貰っていくよ。有効に使ってやるから安心しなさい。


 P.S.借金が3000万円増えました。秀太なら頑張れるはずだ、ファッイトー!~


「ななな、なんで、あれは子供のおもちゃじゃないんだぞ!」


 準・賢者の石はどこを探しても見つからない。ショックで目の前が真っ暗だ。

 借金がチャラどころか数倍に膨れ上がったし、その重圧がえげつない。


 そこへ母さんが起きてきた。

 眠そうにしていたが、手紙を渡すといつものように笑いだす。


「あらあら~、あの人らしいわ。でも、もう少し一緒にいられると思ったのにね」


 やはり、母さんは達観しているよ。

 俺や結衣には真似できない。


 そうさ真似なんかしたくない。

 怨む気持ちはないなんて、前、言、撤、回だ。

 あの人は絶対に許さないぞ。


「それよりもお兄ちゃん、あれって売る約束をしていたんでしょ?」


「あっ……」


 顔面蒼白、受け付嬢さんの笑顔が崩れるのを容易に想像できた。

 これには結衣も打つ手なしと、サジを投げてくる。


「ど、どうしよう……オレ殺されかも」




 そこからは記憶が定かでない。

 いつの間にか協会の受け付嬢さんが側にいて、地べたの俺を抱えている。

 それと髭のおじさんが必死になって話してくる。


「協会としましては、あくまで協力を願う形なので、絶対に責めたりはしませんぞ。本当です。だから番場ハンター、もう泣かなくていいですぞ」


「本部長の言う通りです。これで安心できたでしょ? 体を売、おっと。身売りをするなんてもう言わないで下さい」


「そうそう割腹自殺かっぷくじさつなんて、もっての他ですぞ!」


 あっ、そうだ。ここはダンジョン協会の応接室。

 で、俺をガラス細工かのように、気を使ってくれているのは、ダンジョン協会の本部長さんだ。


 状況から察すると、俺はかなり醜態をさらしたみたいだよ。


「す、すみません。いま正気に戻りました」


 2人が俺の瞳を覗き込み、目に光が戻ったと安堵してくる。

 本当に、本当にすみません。闇の俺がやらかしたみたいです。


「それで番場ハンターは、何をそんなに嘆いていたのですか?」


「そこからなんですね……お恥ずかしい」


 この後ちゃんとお話をし、きちんと本部長に納得してもらった。


「そうですか、身内だと訴えることもできませんからな」


「困った親父殿でして、はい」


 だけど落ち度はこちらにある。

 許すと言われているが、何かできないかと食い下がった。


 これに困り顔で笑っていたけど、受け付嬢さんが明るく柏手かしわでをうってきた。


「それでしたら、番場ハンターの昇格クエストを兼ねて、政府から来たあの件を頼んでみてはどうですか?」


「おおお、佐々木くん冴えてるね。それなら一石二鳥だな」


 本部長は真剣な面持おももちで、事の詳細を話し始めた。


「じつは日本政府に韓国企業から、日本のダンジョンに韓国人ハンターを派遣したいと要請があったのだよ」


 とっぴな話にまず驚き、ついで国際協定を思い出した。


「あれ、どの国も外国籍のハンターはダメなのでは?」


「そうなんだがね。表面上は研修にして、本音はアイテム収集を目的とした来日になるんだよ」


 うわ、なんだか特殊な事案だな。

 俺がひるんでいると、受け付嬢さんが話を引き継いだ。


「韓国側が望むのは真性の〝賢者の石〞です。これがドロップしやすい悪魔系のダンジョンが、先日D級ですが埼玉に出現したのです」


「えっ、ちょっと待ってください。話の流れだと、ドロップアイテムの権利は俺にはないのですか?」


 アイテムは必ずドロップする物ではないが、出た時は儲けが大きい。

 3000万円の借金で利息だけでも大変だから、そこは大事になってくる。


「いえ、そこは世界ダンジョン協定に沿います。向こうからの要請なので、権利は全て日本人ハンターの物です。しかし、買い取りの優先権利は彼らとなります」


 うーむ、政府がからんでくるし、正直に言ってめんどくさい。

 そんな想いが表に出たようで、受け付嬢さんがにじり寄ってきた。


「わかりますよぅ、繊細な案件ですしねえ。普通受けたくないですよねえ?」


 もともと丁寧な受け付嬢さんだが、どんどん腰が低くなっている。


「ですが、番場ハンターならお強いですし、責任感はあるし、おまけに格好いい。これ以上の人選はないんです!」


「変なヨイショはやめて下さい」


「いえいえいえ、女子の間で噂になっていますよ。超新星のニューヒーロー、腕の血管がセクシーだってワーキャーですよ」


「えっ、うそ!」


 寝耳に水、キョトンとする俺に、受け付嬢さんは更に教えてくれる。


「そそ、ものすごい勢いですよ。これで政府の仕事をこなしたら、その人気はとんでもない事になるでしょうね」


 な、なんていい人なんだ。この俺にこんな素敵なチャンスをくれるだなんて。

 俺の知らないところでの人気を教えてくれるし、この人の言うことを聞いていれば間違いないかも。


「お、俺やります。ぜひやらせて下さい!」

 

「でもお忙しいでしょ、無理をされるのは……」


「いえ、やりたいんです。お願いですからやらせて下さい」


「……そうですかぁ、ではここにサインを!」


 すかさずサインをし、かたい握手をかわした。

 ニヤニヤと満面の笑みの2人を見ていて、俺もなんだか嬉しくなった。


「それともう1人、昇格クエストを受けるハンターがいます。同じギルドの薬師寺サーヤさんです」


 薬師寺って初めて聞くなと考えていると、ピンクヘアーのヒーラーだと伝えてくる。


「もしかして、ちびっ子のことか!」


 あのの名字は初めて聞いたな。

 頼れるしっかり者だから、一緒となると心強い。ちょっと楽しくなりそうだよ。


 ──────────────────

 番場 秀太

 レベル:34

 HP :575/575

 МP :1055/1055

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:3140〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+50)

 魔 力:220


 装 備 早撃ちのガンベルト

     保安官バッジ

     幸運の指輪

     深淵のゴーグル

 ステータスポイント残り:40


 所持金 5,500円

 借 金 33,920,000円(+30,000,000円)

 ───────────────────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る