第22話 C級ダンジョンの罠 ④

「でもエミリさん、どうしてここに?」


 貰ったHPポーションを飲みながらそう聞くと、むちゃくちゃ顔をしかめだす。

 地団駄を踏みながら、事の経緯を話してくれた。


 さかのぼること一時間前、ダンジョン協会でチャラ男ッチを見かけたらしい。

 やけに楽しそうで、よからぬ企みをしているのではと盗み聞きをしたそうだ。


「そうしたら、ここでシュータさんを罠にハメたって笑っているのよ。もう、あったまにきてその場でひっぱ叩いてやったのよ」


 Sランクのビンタか……奴にとっては瀕死でのご褒美か、南~無~。


「だから、助けなくちゃと思って、ここまで全速力で走ってきたの」


「えええっ、あの距離を一時間でですか?」


「なによー、人の事を化け物みたいに言ってえ!」


 車で2時間かかったぞ。普通に驚くことだけど、それ以上の追及は止めておく。


「でも、それもお節介だったようね。慌てて来て損しちゃったわ」


 クチを尖らせ寂しそうにうつ向き、ふっとため息をついた。

 微かに香るエミリさんの汗の匂いに、心臓がしめつけられる。


「い、いえ。俺は嬉しいです。エミリさんに心配してもらって心の底から嬉しいです」


「えっ、本当に?」


 今のその笑顔も嬉しいです。


「はい、だから帰りは一緒に車で帰りませんか? 俺の話も聞いて欲しいです」


「うん!」


 戦利品を回収した後ゲートをくぐり、嬉しいドライブデートを楽しんだ。





 ダンジョン協会のロビー


 中に入るとチャラ男ッチが、鬼の形相でこちらにやって来た。


「エミリ、よくもやってくれたなあ!」


 んんん、こいつ俺が目に入っていないな。

 うしろの取り巻きは気づいているのに、Aランクにしては状況判断にとぼしいぞ。


 これにエミリさんは無言で顎をしゃくらせる。

 それでもチャラ男ッチは気づかない。

 再度促うながしてみるが、それでもチャラ男ッチは鈍感の極みだ。


「エミリ、何が言いたいだ。ハッキリと言えよ!」

「雷門さん、アレみて下さい。ヤバイです」


 小声で取り巻きに耳打ちされ、やっと俺の方を見てきたよ。


「て、て、てめえ何故生きている?」


 俺はエミリさんの前に出て、チャラ男ッチと対峙した。

 上から下と舐めるように見て、ワンテンポずらす。


「何故って、そりゃ俺が強えからに決まっているだろ」


「ふざけた事をーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 面白い位に怒りまくっている。

 なんだかこれで気が晴れたので、そのままチャラ男ッチは放置だな。


「おい、弱バン・マン。話はまだ終わっちゃいねえぞ!」


 まだ何か喋っているが、カウンターで換金する方が優先だ。

 いつもの受け付嬢さんに挨拶をし、全ての魔石を取り出した。


「無視するんじゃ……ぎゃーーー、なんだその量は!」


「えっ、普通だよ?」


 魔石の山からひとつをつまみ、チャラ男ッチに投げてやった。

 両手で受け取りあっけに取られている。


「チャラ男ッチ、それは駄賃だ」


「駄賃?」


「ああ、案内の使いっ走りをしてくれただろ。少ないが取っておきな。それとこれからも俺のために頑張るんだぞ」


 チャラ男ッチは毛を逆立て怒り、バリバリっと放電しだした。


 名前通りの能力か。そのスキルを発動させるつもりだよ。

 が、俺も負けていられない。


「あれれ、違うのか? ならお前は殺人未遂で刑務所行きだな。Aランクといえど法は守らないとな?」


 これで更に怒り、狂ったように雄叫びをあげている。

 周りをお構いなしに雷のスキルを使い、フロアの備品を破壊していく。

 周りのハンターは逃げ、職員さんたちが立ち上がる。


「てんめえ、弱バン・マンのクセに!」


 これに動いたのは、後ろの2人だ。

 チャラ男ッチが飛びかかる所を、取り巻き2人に押さえ込まれる。


「雷門さん、大事な仕事の前ですよ。押さえてください」

「放しやがれ、あいつをぶっ殺してやる!」

「いいえ、マジでギルマスに殺られますよ!」


 それでもチャラ男ッチは収まらない。

 格下のBランク2人を吹き飛ばし、大きく息を吸い込んだ。


 だが、チャラ男ッチとの間に割って入る集団がいた。


「そこまでだ、雷門ハンター。これ以上の暴挙は許さんぞ!」


 ずらりと並ぶダンジョン協会の警備員が、チャラ男ッチに狙いをつけている。

 彼らは巨大な力を持つハンターに対抗するため、特殊装備で身を固めた部隊だ。

 いくらAランクといえど、もめたら無傷ではすまない。


「事情を聞きますので事務所へどうぞ」


 断固とした規律を求める言葉に、チャラ男ッチも大人しく従った。


「おい、弱バン・マンはいいのかよ?」


「はい、あなただけですよ、雷門ハンター」


「くそーーー、みんなグルかよ。覚えてろよ、弱バン・マン。いつか殺ってやるからな!」


 吠えるチャラ男ッチを放っておき、俺は続けてカウンターで換金待ち。

 それでもまだ何か騒いでいるので、チャラ男ッチを見ずに手だけを振っておく。


 ロビーは平穏を取り戻し、受け付嬢さんも仕切り直してきた。


「番場ハンター、この〝準・賢者の石〞も買い取りをさせて貰っていいでしょうか?」


 となりのカウンターからヒソヒソ話、こっちを見て驚いている。


「準・賢者の石ってマジかよ? あいつめっちゃくちゃツイテるな」

「だよな、久しぶりに出たんじゃねえ?」


 魔石の山の比じゃないザワメキ。

 ボスゴーレムで出たアイテムが、すごい注目を集めているよ。


 そんなに良い物なのか、エミリさんに聞いてみた。


「知らなかったのね。どうりであまり驚かないなと思ったのよ。あれは錬金術に使われる貴重な物で、買い取り価格も500万はいくはずよ」


「えっ!」


 驚きで危うく落としそうになる。


「「「ぎゃーーーー!」」」


 反応した悲鳴もハンパない。


「番場ハンター。壊れやすいので、マジで扱いには気をつけて下さい。それと是非こちらで買い取らさせて欲しいのです、どうでしょう?」


 受け付嬢さんの真剣な眼差しは、鬼気迫るものがある。


「わ、分かりました。でも一度家に持ち帰らせてもらいます。家族に俺がどれ程成長したかを、見せてやりたいんですよ」


「そ、そうですか。でも明日にはお願いしますよ」


 固い約束をさせられて、やっと解放されました。


 ちょっと緊張したけれど、こんな貴重な物、結衣もきっと喜ぶぞ。

 そんな事を考えながら、ウキウキ気分で家路についた。


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 番場 秀太

 レベル:34

 HP :575/575

 МP :1009/1055

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:3140〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+50)

 魔 力:220


 装 備 早撃ちのガンベルト

     保安官バッジ

     幸運の指輪

     深淵のゴーグル

 ステータスポイント残り:40


 所持金 2,673,000円

 借 金 6,520,000円

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