第21話 C級ダンジョンの罠 ③
「ふざけんなよ、なんで連戦をしなきゃいけないんだよ!」
悲痛の叫びを上げるけど、敵はまったく待ってくれない。
それは当たり前のことなんだけど、無性に腹が立ってきた。
「もー、やってやるよ。が、その前にアレを試してみるか」
それは巨大サハギンから手に入れた、保安官バッヂの効力だ。
保安官の威厳を用いて、相手を硬直させる。
「全員動くな、大人しく手を上げろ!」
こんなのでいいかと試してみる。
すると、ピタリと全員が動きを止めた。
「これは楽だわ。バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、リロード、バン」
舐めぷでもいけそうな反則技だ。
笑いをこらえ、さっきと同じ100体以上もの敵を討ち果たした。
「でもさすがに連続100体はしんどいな、よいしょっと」
肩で息をしながら水を飲み、疲れた体を癒すため地面に座り込んだ。
HPやMPは大丈夫だけど、緊張感が半端ない。
動きまわる俺を止めようと、ゴーレムも必死。
動きは遅いが、次の次を考えての良い動きをしてくるんだ。
だけどそれを許すほど俺はマヌケじゃない。
その先の先を行き、決してゴーレムを近寄らせない。
それが出来なきゃ終わりだからな。神経つかい過ぎちまう。
こうなると、いくつ部屋があるかも分からないし、十分に休んでから次へ行くしかないぞ。
そう覚悟をして、足を投げ出し大の字になり一息をつく。
──ガタンッ!──
「な、なんだ?」
誰もいないはずのこの部屋で、あり得るはずのない音がした。
全身が粟立ち、恐る恐る首だけ起こして扉を見る。
「やられた……開いているよ」
遠目で見えた次の部屋の異変。
すでにモンスターが湧き始めていて、こちらへめがけて迫ってきている。
跳ね起き、MP回復薬をコーラで流し込む。
頭の動きが鈍る前に、糖分を補給しておかないと後で後悔するハメになるからだ。
「どうあっても、続けさせたいんだな。……ふふふ、あんま社畜をなめんなよ。完徹3日は当たり前だぜ!!!」
倒すペースも落とすもんか。
なんなら、記録更新を狙ってやるぜ。
【♫レベルが上がりました。……レベル上限に達しましたので、以後経験値はストックされます】
「やっぱりかーーー! 仕方ない持続型の回復薬をたらふく飲んで……【限界突破弾】」
【レベルの上限が解放されました】
200以上の魔石が飛んだ。アイテムも失くなった。
それと同時に俺の心のタガもはずれたよ。
「うおおおお、全員うごくな。そうだ、抵抗するじゃねえ。バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン」
少しの休息と持続MP回復を織りまぜて、制圧と回収を繰り返す。
そして8回目の魔石回収をしていたら、チリ取りの中に光る物が混じっていた。
シンプルな飾りけのない金の指輪だ。
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『幸運の指輪』
ほんの少しだけツイている気がする指輪。
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「微妙だな、おい!」
文句は言うけど、ありがたく装備させてもらう。
これでドロップ率が上がっちゃうかも。
期待しちゃうとすぐに試したくなるよな。
疲れた体に喝をいれ、次の部屋に飛び込んだ。
「いるいる~、もしかしてオリハルコン100個出てくれるかもよ」
そんな淡い期待で、最高調にまで上がったテンションで撃ち続けた。
そして……ついに。
「オリハルコンが一個もないとは、どう言うことだよ!」
よく探したが欠片も見つからなかった。
人気がない理由が理解できました。
何かご褒美ないとやってられないぞ。
【♫限られた短時間内での1000体討伐達成。その偉業によりスキルの進化が進みます】
通知音のあとに聞きなれた声が聞こえてきたよ。毎度おなじみの神からのご褒美です。
「あっ、また愚痴を聞いてくれていたんですね、神様。毎回ですが、あざーーーっす」
これこそ天の恵み。心まで満たされるぜ。
まぁ俺と神様の仲だから、挨拶はそこそこにして、スキルを確認させてもらう。
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『バン・マンVer4』
射程距離の延長と、連射による火力と威力を兼ね備えたスタイル。
弾数 30発
リロード 弾数×MP1
Ver1からVer4までの切り替えは可能。
攻撃威力: +500、+魔力×12
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うほっ、これはアサルトライフルって感じかな。
でも連射って、結局クチでい言うからフルオートとは違うし、なんか騙されている感覚だよ。
それでも恒例の試し撃ちをやってみる。もちろん連射を想定してだ。
「えっと、今までみたいのだと、イメージが合わないな……巻き舌でやってみるとするか、よし!」
まだ開いていない扉に向けて発砲する。
どうせ、敵は湧いてくるんだから、扉ごしで挨拶だ。
「いくぜ、ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!」
クチと連動しているから、マジで小銃の連射の速さ。10秒もかからずに撃ち尽くした。
何故か肩に射撃反動がくる。その反動も大きくなっていて、両手でないと安定しない。
だけど威力はハンパなく、いとも簡単に扉を破壊しつくし、完全に中がまる見えだぜ。
「リロード。ほわぁ、すげー気持ちいいけど、撃ち続けたらMPを馬鹿みたいに喰うぞ」
爽快感で脳が痺れている。
MPの節約とで悩まされそうだぜ。
──ドガンッ!──
「おっ、試すのにちょうどいいのが湧いてくれたよ」
次の部屋に一際大きなゴーレムが、片手片膝をついて現れた。あれが今回のボスのようだ。
煙をまとっているが微動だにしない。
俺が入室してから動きだすタイプだろう。
と、ゴーレムの方から小さな音が聞こえてきた。
少しずつ大きくなっていき、ようやく聞き取れる。
『……す、……ろす、ころす、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺すーーーーーーーー!』
「へっ?」
違ったよ。待機状態ではなくて、怒りにうち震えている状態だった。
どう見ても無機質なゴーレムなのに、目が血走ってガンギマリ。
食いしばる口から血のようなオイルが垂れているよ。
そして俺を視界にとらえると、周りが震えるほどの咆哮をあげてきた。
『よくもおおおおおお、俺っちの手下を殺ってくれたな。この血も涙もない悪魔め!』
「えっ、仕掛けてきたのはソッチだろ」
『うっさい、うっさーい。だとしても1000体は殺りすぎだろ。普通は100もいかない内に死ぬのが礼儀なんだぞ。そんな事も知らないなんて、説明書を読んで出直してこいやーーーーーー!』
ゴーレムらしからぬ感情のこもった口調。
イッてる表情と重なってムッチャ気色が悪いんだ。
言っている事もハチャメチャだしさ。
なんだか凶悪なボスというよりは、何処かのワガママお坊っちゃまみたい。
どうせ爺ちゃんとかに甘やかされて、なんでも思い通りにやってきたんだろうな。
『くそー、くそー。絶対、爺ちゃんに言いつけてやるかんな』
当たってたか。はあ~、面倒くさい相手だよ。
無視をしても構わずしゃべり続けているし、さっさと片付けるか。
『……と言うことでカス人間よ。我が家訓に従ってお前は肉だんごに決定だ。ボール遊びには使ってやるよ、グヒヒヒッ』
拳を振り上げて、ドスドスと駆けてくる。
その顔はニヤケていて、ボコる自分を想像しているんだろう。
つくづく甘いゴーレムだ。
「そんな家訓いらねえよ、バンッ!」
『ぎゃーーーーーーーーーーーーーー!』
周りの空気を巻き込む渦が見えるほどの魔力を帯びた弾道。
ドガンッと核を貫いて、体もそのまま粉砕した。
「うほおおお、痺れるーーーー!」
ゴーレムのガラガラと音を立て崩れていくその様をジッと見届ける。
反省するとしたら、ボスの話なんか律儀に聞かず、始めからこうしておけば良かったよ。
それにしてもモンスターハウスと知った時はどうなるのかと焦ったが、結果は大量の魔石と装備品を手に入れた。
それと達成条件が知らされない進化も出来たので、言うことなしだ。
今度こそ本当に終わったのだと、大の字に寝転び全身の力を抜いた。
「ふう、これで帰……」
「シュータさーーーーーん!!!」
「えええ!」
首を向けると、何枚もむこうの扉から走ってくるエミリさんの姿が見える。
風のように部屋をぬけ、俺が起き上がる間もなく枕元にまで来た。
「もう大丈夫よ、後は私に任せて!」
剣を構え辺りを見回し、俺が喋ろうとしてもシッと制してくる。
臨戦態勢を見るからに、これは多分勘違いをしているよな。
俺はエミリさんの腕に触れ、ソッと剣をおろさせた。
「エミリさん、ありがとう。でもボスは倒しました。肩の力を抜いて下さい」
「えっ、ボスって、モンスターハウスは?」
説明するよりと、大量の魔石を見せる。
すると気が抜けたのか、エミリさんは座りこんだ。
「よ、よかったわーーーーーーー!」
そして引き寄せられたかと思ったら、強く抱き締められ振り回される。
骨が折れる音がしているけど、このご褒美タイムをもう少しだけ楽しむことにした。
これだけでも、連戦をやった甲斐があったよな。
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番場 秀太
レベル:34
HP :335/335
МP :602/675
スキル:バン・マンVer4
〈攻撃威力:2300〉
筋 力:40
耐 久:70
敏 捷:100(+50)
魔 力:150
装 備 早撃ちのガンベルト
保安官バッジ
幸運の指輪
深淵のゴーグル
ステータスポイント残り:220
所持金 0円
借 金 6,520,000円(▲400,000円)
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