第18話 更なる成長 ③

「覚えていろ、バン・マン。お前を絶対に許さないからなああああああ!」



 なんとなく遠い所から、わめき声が聞こえてきた。

 でもエミリさんに掴まれた腕が熱く、今はそれどころじゃない。


 人気のない場所まで来て、エミリさんと一息ついた。


「シュータさん、迷惑かけてごめんね。本当に爆炎の連中には困っているのよ」


 両手をあわせて片目をつぶって謝ってくる。

 その姿があまりにも可愛すぎて、つい本音を出してしまう。


「いえ、こんな役得があるんですから、チャラ男ッチには礼を言いたい位ですよ」


「えっ?」


 しまったとあたふたするが、エミリさんの優しさでそれは軽く流してもらえた。


「……あっ、そうだわ。今度また何かあるといけないから、私の連絡先を教えておくわね」


 と、すでに書いてあるメモを渡された。

 それの意味するところを深堀してしまう。

 手元からエミリさんへと視線をうつすと、少し目をそらされる。


 息をするのを忘れてしまう時間が流れていく。


 くっついた唇を引き剥がすと、渇いた喉でむせた。


「エ、エ、エミリさん。なななな、何もなくても連絡していいですか?」


 大きな瞳で見つめられる。

 やっちまったよ、後悔で大量の汗が吹き出てきた。

 俺は自分で全てを終わらせたことを悟った。


「ご、ごめんなさい。えと、いまのは忘れ……」


「あっ、連絡ください。わたし待っていますから」


 首をかしげて、クスリと柔らかく笑い覗きこまれる。

 拒絶されていなかった。


「はいーーーーーーーー!」




 年寄りじゃないが、良いことがあると人生にハリが出てくるものだよ。

 声もよく通るし、それに釣られて弾の威力も上がっている気がする。


 今日来てるダンジョンは、水棲モンスターが出る場所だ。

 造りもフィールドタイプの湿地地帯で、足場になる陸地がすごく狭い。


「そこだ、ばん!」


 コロン、ポチャン!


 だから出たアイテムは、漏れなく水の中へ落ちていく。


 それを拾う為のタモが、ダンジョンの入り口で売られていた。

 安物だが長めのものが、ひとつ1万円。俺にとったら目の玉が飛び出る衝撃だ。


 他のハンターは一度通り過ぎるも引き返して、仕方ないさと買っていく。


「ど、どうしよう」


 家まで引き返すなら買う方がマシ。

 だが、手持ちはいつもの500円しかない。


 どうにか売り子の少年に頼み込み、魔石5個(15,000円分)と交換してもらった。


 タモを片手に奮闘する大人たち。

 シュールだけどみんな真剣だ。

 倒しては水底を覗き見て拾っていく。


「検証のためとはいえ面倒くさいな、はぅ」


 結衣の指示で幽霊に続いて、水中生物にも俺のバン・マンが通用するかのダンジョンアタックだ。


 結論、通用する。


 苦戦すると言われた、半魚人のサハギンでさえ一撃だ。

 Ver3だと肉片も残らない。


 だけど鬼軍師から、事前に釘を刺されているんだよ。


「いい、『わーい死んだ』じゃダメよ。水中だと、どれくらい威力が落ちるのかを見極めてよ」


 うちのかわいい鬼軍師は抜かりがない。

 と言うことで、Ver2に落として実験だ。


 だけどこれもすぐに結果が出た。

 階層をどんどん進めても、全く威力は変わらない。


 しかも新発見もあった。


 サハギンの魔法で〝水鉄砲〞がある。

 それがたまたまこちらの攻撃に重なって、同じ軌道でぶつかり合った。


 すると、向こうの魔法は霧散して、俺の弾は着弾した。

 しかも威力も変わっていない。


「すげえ、攻撃が盾になれるかも。これは結衣に報告だな」


 何度か同じ事を繰り返して、変わらない結果に満足した。

 弱点が1つずつ無くなっていくぜ。


 実験は成功したけど、魔石の回収に手間取るダンジョンだ。

 あまり長居をするメリットもないので、ボスを倒して帰ることにした。



 最深層にたどり着くと、ワンフロアがまるまるボス部屋だ。


「他のパーティーはいないみたいだな」


 念のために、MPとアイテムの確認だけはしておく。

 いつも殺っているC級ボスだから、万にひとつも心配はない。


 エリアに足を踏み入れると、水面に泡が立った。

 そして大きな水柱とともに、海馬アシカにまたがった巨大サハギンが出てきた。


 ハットをかぶり、口には黒い髭がある。

 手綱たづなを操るその姿は威風堂々とした出で立ちで、こちらを見下している。


『チャプチャプチャー、チャッチャプチョンガ!』


 独自の言語を発し、手の平を突き出してきて横へ払いのけた。

 戦闘開始の合図のようだ。


「と言っても、すぐに終わらせるけどね……って……あれれ、う、動けない!」


 体が萎縮し移動どころか、指の1本でも動かせない。

 全身の毛穴が開き、恐怖で汗が噴き出してきた。完全に相手の手中に堕ちてしまった。


『チャプッチャーチャププチャプ? チャチャチャチャチャー』


 それを見たボスは高笑いをし、さらに何か喋っている。

 そしてボスはゆっくりと近づいてくると、銃剣を突きたててきた。


「痛っ!」


 刃先が刺さり血がシャツをにじませる。

 サハギンはそれを見て、嬉しそうに手を叩いている。


 間違いない、動けないのはサハギンのスキルのせいだ。

 何か手はないかと必死にもがく。


 時間にして5秒たらずだが、突如その不思議な呪縛が解けた。


「チャプ?」


 相手が手を突き出すよりも早く、指鉄砲をサハギンに向ける。


「バン、バン、バン、バン、バン、バン!」


『チャーーーッ!』


 眉間や喉を集中的に狙い撃つ。

 ボスが倒れるとアシカも共にどさりと倒れた。


「あっぶねー、紙一重だったーーーーー!」


 実力の差ではなかったよ。

 ボスと俺をけたのは、先に相手が危険だと判断できたかの違いだ。


 ホッとした目に映ったのは、大きな魔石と宝箱。

 開けると小さなバッジが入っていた。


 これってあのボスサハギンがつけていた物だ。


「こ、これは天からの啓示か?」


 ───────────────────

『保安官バッジ』


 保安官の権威ある号令により、一度だけそこにいる全ての相手を、一時的に拘束する。


 威圧耐性、麻痺耐性、石化耐性のアップ

 ───────────────────


 このタイミングで手に入ったのは、神様から俺に踏ん張れというメッセージに違いない。

 俺はバッジを握りしめ、上空を見上げた。


「あざーーーーーーーっす、これで俺、頑張れます!」


 神様のこの配慮にうち震えた。

 最敬礼で感謝の気持ちを伝えるが、あらわしきれない想いに涙が流れる。


【……】


 答えるだけ無粋だと、神からの言葉はない。し、しびれるぜ。


 だが言葉にしなくても、神からの熱い想いは伝わった。


「感謝するぜ、神様。このネタでエミリさんに電話をするよ。ヘタレな俺とはおさらばだ!」


 もう一度、深々と90度の最敬礼をし、誓いともいえる意思表示をする。

 マジで俺は彼女に電話します。


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 番場 秀太

 レベル:23

 HP :285/285

 МP :455/455

 スキル:バン・マンVer3


 〈攻撃威力:750〉


 筋 力:40

 耐 久:60

 敏 捷:60(+50)

 魔 力:100


 装 備 早撃ちのガンベルト

     保安官バッジ

 ステータスポイント残り:20


 所持金 500円

 借 金 7,480,000円

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