第19話 C級ダンジョンの罠 ①

 エミリさんから貰ったメモ紙は、とうぜん家宝にしている。

 その家宝とスマホを、自室のテーブルの上に置き、今日も時間だけが過ぎていく。


「なんで電話番号なんだ?」


 他のSNSやメールもあるのに、これはハードルが高すぎる。


 登録してあるエミリさんの番号を選択。

 あとは通話ボタンを押すだけだが、その勇気がでない。

 何度スリープ機能を阻止したことか。


 だがすでに深夜、もう無理だと自分のヘタレを呪いながら画面をとじた。


「トゥルルルルルルルル」


「ヒィッ!」


 間違って通話を押してしまっていた。

 切るかそのままかの脳内緊急会議が始まった。


 あっさり決議されたのは、3回鳴らして出なかったら切る案だ。

 これなら失礼じゃないし、自分に言い訳がつく。

 かけたという実績は残るんだ。


「ルル……もしもし」


 ぎゃーーーー、1回目で出たー!!!!!

 役に立たない議会です。


「や、夜分にすみません……シュータです」


「あっ、起きていましたので大丈夫です」


「……」

「……」


「あの、今日ボス戦でアイテムが出まして、そ、それを伝えたくて電話しました」


「えっ、今日会ったときに言ってくれればよかったのに」


「あっ、そ、そうでした。すみません」


「……」


 大失敗で叫びたいのに、また沈黙だ。

 あの時は浮かれていて考えもしなかった。

 その時の俺と今の俺を殴りたい、ドゴッ!


 それ以上に話すこともがなくなり、心も萎えてしまったよ。

 切りたくないけど切るしかない。


「あの、シュータさん。そのアイテムってどんな物なんですか?」


「え、え、えっとですねえ……」


 エミリさんの一言に救われた。


 それから何回か沈黙はあったけど、楽しくおしゃべりすることができた。

 俺にとって夢のような時間だよ。



「私、そろそろ寝ますね」


「もうこんな時間に! ごめんなさい。今日はありがとうございました」


「いえ、こ、こちらこそ」


「エ、エミリさん」


「は、はい」


「またこの時間にかけてもいいですか?」


「えっ…………それはちょっと」


 血の気がひいた。


 浮かれていたのは俺だけってことだ。

 それを長々とつまらない話に突き合わさせて、きっと番号を教えた事を後悔しているに違いない。

 そして、次に会ったときにはゴミを見るかのように、よそよそしく避けられるんだよ。


 あああ、闇の俺が頭をもたげてきたよ。


「シュータさん、もう少し早い時間帯にして下さい。お風呂とかあるし、なにかと……」


「えっ、いいんですか?」


「はい、待っています」


 春です。暖かい追い風が吹いています。

 このあと2時間、鏡の前でポーズをとり続け、この幸せをかみしめた。




 あれから数日がたち、俺たちは毎日のように連絡を取り合っている。

 話す内容も増えてきて、毎日が楽しくてしょうがない。


「純愛バーン!」


「ぎゃあーーーーーー」


「熱烈バーン!」


「ぐおおお」


 俺、浮かれています。

 といっても相手のボスであろうと、足元をすくわれるヘマはしない。


 楽々と一撃で倒しゲートをくぐる。




「たっだいまー」


「番場ハンター、調子が良さそうですね」


「まーねー♫」


 カウンター奥にいる人も、大量の魔石に慣れてきて、近頃じゃちっとも驚いてくれない。


 逆に早く査定することに力を注ぎ、どうだって言わんばかりに金額を提示してくる。


「わっ、すごい。やりましたね番場ハンター。今日は新記録ですよ」


「「おおおお!」」


 周りのどよめきに軽く挨拶をするけど、内心は嬉しくてしょうがない。

 実は借金もこの1ヶ月で300万円近く返しているもんな。


 結衣からはダンジョン産のアイテムの購入を、考えてもいいと言われている。

 だから益々、稼ぐことが楽しくなってきているんだ。


「よーし、明日もやるぞ」


 明日行くダンジョンを決めるため、総合案内場に足をはこぶ。


 端末でも情報は得られるんだけど、ここには多くのハンターが集まり、打ち合わせや情報交換を行っているんだ。


 どこそこの昆虫系はやばかったとか、あの道具は必要だとか、ためになる事ばかり。


 それに人気すぎるダンジョンだと、獲物の取り合いになるので計画も立てやすい。


 そんな中うしろから、2人組みのヒソヒソ話が聞こえてきた。


「あそこのC級、穴場だったよな」

「ああ、ゴーレムだから毛嫌いしていたけど、ドロップ率よすぎだろ」

「これで連戦が出来るメンバーがいれば、もっと稼げるぜ」


 来ました、美味しい情報が。

 2人に悟られないよう、視線はそのままにして耳に意識を集中させる。

 そして、ゆっくりと一歩さがる。


「明日は行けないから、誰かに横取りされないか心配だぜ」

「がははは、G村なんて辺鄙へんぴな所、誰も見向きをしねえだろ」

「バカ、名前をだすなよ」

「すまん、すまん」


 はいー、G村のC級ダンジョン突き止めました。


 この人達には悪いけど、明日は美味しい所を頂きますか。


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 番場 秀太

 レベル:28

 HP :335/335

 МP :675/675

 スキル:バン・マンVer3


 〈攻撃威力:1025〉


 筋 力:40

 耐 久:70

 敏 捷:100(+50)

 魔 力:150


 装 備 早撃ちのガンベルト

     保安官バッジ


 ステータスポイント残り:20


 所持金 435,500円

 借 金 6,920,000円(▲560,000円)

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