第17話 更なる成長 ②

「センパイ、その節は色々とお世話になりました」


「ぎゃははは、俺以外に誰も世話なんかしてくれないか、弱バン・マン」


 からめてくる腕を振りほどき、真っ正面に立つ。

 するとチャラ男ッチは、大袈裟に驚き笑ってくる。


「おー恐っ。少しレベルが上がっただけで、もう天狗かよ。そんなのじゃあ社会で通用しねえぞ」


 俺の方が断然知っているぞと、内心で呟く。

 挨拶ひとつにしても、このチャラ男ッチに負けるはずかない。


「社会人でいえば俺の……」


「それとよー、武器もろくそろえられねえのに、ベテラン気取りで恥ずかしいぞ」


 チャラ男ッチめ、話を被せてきやがった。

 基本的に相手の都合を考えない話し方に、イライラがつのってくる。


「で、何このガンベルト? 超ウケるんですけどーーーーー。なんで恥部をさらけ出すんだよ。お前もしかして、ドMなのか。ひいー、怖いーーーーー!」


 大事なガンベルトをつついてくるので、俺はさがって触らせない。

 それでもしつこく追い討ちをかけてくる。


「やめろ、これはダンジョン産の……」


 大切な物だと解らせるため、説明しようとするが、今度は大きく手をふってくる。


「ダンジョン産の嘘はダメだろ~。あっ、騙されて買わされたクチかあ。ダサッ! 鑑定して貰えば一発で分かるのによ、ぎゃははははは!」


 周りに聞こえるように、わざと大きな声ではしゃいでいる。

 俺が自力で手に入れた可能性など考えていない。


「違う、本当に……」


「ぷぷぷっ、もういい、それ以上自分をいじめるな。こっちが悲しくなってくるぜ」


 眉毛をハの字にさせて、あわれんだ表情を作ってくる。

 この時点で俺の方がキレそうだよ。


「お前さぁ、いまだにソロだろ。どうせ誰からも相手にされないだろうし、特別うちのギルドに入れてやってもいいぞ」


 むっ、なんだか急に手をかえてきた?


「今後一人じゃ無理がでるからな。俺が助けてやるぜ」


 うーむ……口は悪いが意外と優しいのかも。

 チャラ男ッチの態度の急変にむず痒くなり、頭をかく手を差し出そうか悩む。


 だけど毛嫌いするのもダメだなと、深呼吸をして少し反省をした。

 偏見をするなと自分に言い聞かせ、そのままのチャラ男ッチと向き合う。


 ニヤつくチャラ男ッチが握手のつもりか、手の平を上にして出してきた。


「10万だ、月に10万円を俺に納めろ。それでお前を守ってやるよ、へっ!」


 前、言、撤、回、怒。


 やっぱりチャラ男ッチ嫌いだわーーー。

 中高生のイジメと一緒で低次元。


 どう返そうかと考えていると、ふわっと優しい匂いが漂ってきた。

 この香りはエミリさんだ。


「あら、シュータさん。この前はありがとう。サーヤから話は全部聞いたわ」


 天使が降臨してきて、もうチャラ男ッチなんてどうでもいい。

 取りあえず無視して、エミリさんにあいさつをした。


「いやー、お役に立てて良かったですよ。それとお壁ちゃんの活躍が楽しみですよ」


 あの子の話をすると、エミリさんの笑顔が一層柔らかくなる。

 それにドギマギしてしまう。


「ええ、貴方に頼んで正解だったわ、これからも……」


「待て待てまてーーーー、エミリ、なにを楽しげに話しているんだよ」


 あっ、チャラ男ッチはまだいたのか。

 せっかくのエミリさんの綺麗な声に被せてくるなんて、めっちゃ罰当たりな人間だな。


 が、エミリさんは一瞥いちべつしただけで、俺との話を再開させた。


「シュータさんには頭が上がらないって、お壁ちゃんも喜んでいたわ。『師匠が、師匠が』ってもう大変よ」


「そうでしたか。レベルの壁が気になりますが、それでもあのスキルがあるし、高ランクと渡り合えるでしょうね」


 笑いそうなのをこらえ、俺も話を合わせていく。

 と、話の流れでエミリさんが、一歩距離を縮めてきたよ。

 ドキンと心臓が高鳴るが、向こうに見えるチャラ男ッチが気になる。


 どう見てもショックで半泣き状態だ。


 あわわっと金魚みたいに口をあけ、信じられないと呟いている。


「それでエミリさんにご報告があります、実は……」


「テメエー、弱バン・マン。誰に断ってエミリの名前を呼んでいるんだよ。ぶっ殺すぞ、コラッ!」


 あっ、こいつ終わったな。

 まるで恋人きどりの発言に、エミリさんは血管を浮き立たせて怒っている。


「爆炎さん、彼は私の仲間です。逆に何故あなたがキレるのよ?」


「うぐぐぐっ」


 言えねーわな。あなたに惚れているなんて、口が裂けても言えねーわ。

 叱ってほしいタイプだから、言ったらそのシチュエーションが崩れるものな。

 いびつな愛だと、それを楽しむのも一苦労だわ。


「それとあなたこそ、呼び捨てはやめて下さい。不愉快です」


 あっ、チャラ男ッチが震えた。

 ……絶対に楽しんでいやがるよ。

 それはちょっとしゃくにさわるので、少しだけ邪魔をしてみる。


 軽く腕を押し、直接触れて現実に引き戻してやった。


「て、て、てめえ何をしやがる。その軟弱な精神を叩き直してやるぜ!」


 これにはこらえきれずに吹いた。

 M男が硬派だなんて初めて知ったよ。


「爆炎さん。何度も言ったけど、シュータさんは我が白銀霊のギルメンです。しかも将来うちを支える重要メンバーだと考えているの。そのシュータさんに手出しをすると言うのなら、我がギルドにケンカを売っているととらえますよ?」


 これには俺もびっくり。

 つい最近出会ったばかりなのに、そこまで思われているだなんて。

 めっちゃ嬉しくて、無意識に小躍りしていた。


「ありがとうございます、エミリさん。あれからまたスキルが進化したんです。俺これからもっと強くなりますよ!」


「きゃー、マジでなの? すごい、凄すぎるわ!」


 キラキラと弾ける笑顔のエミリさんが、俺の手をとり喜んでいる。

 これこそ俺にとってエネルギーそのもの、かけがいない宝物だよ。


「ええ、威力はほぼ倍ですし、レベルだって21になりました」


 頑張りを伝えるだけで、エミリさんはまた跳ねてくれる。


 受付嬢さん、すみません。もっと癒してくれるものがありました。


「うごごごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、バン・マンてめえ生かしちゃおかないぞ!」


 チャラ男ッチはキレすぎて、違う方向へ吠えている。

 うるさいのは勘弁だし、エミリさんが手をとってくるので、気づかれないようにこの場を後にした。


 狙っていないのに『ざまぁ』だな。

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