神が隠した秘密

第16話 更なる成長 ①

【♫レベルが上がりました】

【♫レベルが上がりました】

【♫レベルが上がりました】


【♫レベル上限に達しましたので、以後経験値はストックされます】


「ぎゃーーーーーーーー!」


 限界突破するかのYes、Noランプが点滅しているよ。

 あんなにも気をつけていたのにさ。

 よりによってC級3匹っておかしいだろ。


「バン・マン、どこか痛むの?」


 ちびっ子が心配そうに覗き込んでくるけど、俺は今それどころじゃない。

 結衣にどう言い訳するか考え中なんだ。


「いや、お、おれ帰るわ」


 気力がわかず、ふらつきゲートへ向かう。


「えっ、どこ行くのよ。それに魔石を忘れているよ?」


 ちびっ子が胸元へ渡してくるが、ため息まじりで押し戻す。


「みんなで分けてくれ。どうせ貰っても無駄になるものだ」


「受け取れないよ。それにお礼だって……」


 何かを言っているが、もういいや。

 手だけを振って帰還ゲートをくぐった。




 その後は記憶がないんだけど、いつのまにか家にいて、結衣の膝で大泣きをしていた。


「うわーん、やっちまったよ。俺のバカバカバカーーっ」


 とっても柔らかく、じわっと湿った温かさが、俺のとがった心をとろけさせてくれる。


「だから気をつけてって言ったのにぃ」


 いつもの口調だが、どこか優しさにもホッとするよ。

 母さんは台所だし、2人とも俺への気遣いが暖かいよ。


「だって、あそこでC級くるなんて反則だ。そんなの予想できないよ」


「あらあら~」


 悔しくて泣きながら、ハンバーグに食らいつく。

 四杯のご飯に怒りをぶつけることで、ようやく落ちつく事ができた。


 財産を霧散させる覚悟もきまり、気負わないようソファーに腰かけた。


「よーし、いまから限界突破させるぜ。で、明日からまた出直しだ」


 その左腕に押し当てる右手を、結衣が不意につかんでくる。

 ニヤリと何かを企んでいる顔だ。


「どうせやるなら、色々試そうよ?」


「試す?」


 無くなってしまう財産だ。

 どう無くなるかを見極めようと言ってきた。


「うん、ズルが出来るか見たいのよ」


 さすが我が妹、頭がいい。

 抜け道、裏技が大好きで、きっといい案を見つけてくれるはずさ。

 お兄たんは信じているよ。


「試すのはこの4つよ」


 ①アイテムを購入し譲渡する

 ②現金を譲渡する

 ③電子マネーを譲渡する

 ④魔石を譲渡する


 おおお、よく分からないが、言われた通りに協会へ出向き、一部の魔石の換金と電子化をすます。


 そしてそれぞれ半分を結衣にあげた。


 家でその全てを床に並べ、一家3人で検証を開始させる。


「じゃ行くぞ、撃つからな」


 コクリと頷く結衣、やけに挑戦的な表情だ。

 まだまだ幼いが、この子は人生を楽しむことを知っているよ。


「オッケー、この中の1つでも残れば、私たちの勝ちよ。そこからの切り崩しも楽しみだわ」


 母さんだけはニコニコしている。

 三者三様、俺は2人みたいにできないな。

 ひきつって笑うのが精一杯だよ。


「さあ、神を騙せるかしら。お兄ちゃん、やっちゃって!」


「お、おう。いざっ、限界突破弾、バン!」


 財産と引き換えを選択し、目をつぶり撃つ。



【♫レベル上限解放、貯まっていた経験値が消費されます】


 レベルは上がらず、それ以上の通知音は聞こえてこない。


 見ると案の定、俺の分の全てが消えていた。

 ここまでは以前と同じ。ここからが勝負だ。


 結衣が残りの全てを確認し、母さんと2人で待つ。

 結衣は険しい顔が続いていたが、フッと鼻で笑ったよ。


「おおお、もしや?」


「いや、ダメね、全滅よ。神様もいい仕事してくれるわよ」


 投げられたスマホを慌てて受け取る。

 譲渡した分だけキッチリと、物もお金も一円の誤差なく無くなっていた。


「こうなると、全額を借金返済にあてるのが得策ね」


 うん、悔しがっても変わらない。

 それにスキルの進化が進んだし、返済スピードは上がるはず。


「で、明日からは、C級ダンジョンに潜ってもらうわよ。その破壊力を無駄にしないでね」


 はい、お兄たんは結衣の操り人形です。

 どうなりと好きなようにして下さい。




 C級ダンジョンは、モンスターの強さと共にダンジョンの難易度が上がる。

 罠が凶悪化したり、階層が一気に増えたりと、一筋縄ではいかなくなる。


 ただしそれ以上のリターンが美味しい。

 ここからアイテムのドロップがあるからだ。

 まだまだ高級素材とはいかないが、それでも出たら稼ぎが上乗せされる。


「おほっ、二連続ってツイテるよ」


 金属片がでた。

 二束三文の鉄だけど幸先がいい。


 これは稼ぎたい今の俺にぴったりだ。


 だけど結衣が考えた長期的戦略は、スパッとC級を踏破して、ズバッとBランクへとレベルをあげるだ。


 C級でも稼げるが、B級ダンジョン以降は、夢のような暮らしが待っているそうだ。

 だからチンタラC級で遊ぶなと念をおされた。


「簡単に言うよなぁ、鬼上司が身内に替わっただけだぜ」


 レベルをひとつ上げるにも、途方もない経験値が必要なのに、その苦労を解ってくれない。


 これに結衣は、一日には24時間あるから大丈夫よと、笑顔で真剣に言ってくる。


 可愛い悪魔とはよく言ったものだ。

 数倍働いて稼げと言う。


 だがしかーーーーーーーーーーし、それは一般パーティーの場合だよ。


「俺にはバン・マンがある。ソロでの遠距離のワンキルは最高だよ。バン、バン、バーン」


 まずレベル21から貰えるステータスポイントに変化があった。

 区切りとなる度に倍増していくので、今回は10から20への増量だ。


 レベルが上がる程どんどん強くなる。


 すでにCランクモンスターだなんて問題はなく、Ver2でも充分だ。

 それでも威力の大きいVer3に切り替えているのは、何となく気分的な判断だ。


 あとVer3の時には、今まで3本だった指を2本だけ折ることにした。

 別に深い意味はなく、これも気分的な事だ。


 結衣に悪いが、遊び心はやっぱり大事だぜ。


「ペースが落とさなければ良いだけさ、ヒイーハー!」


 数え切れない討伐と、それ相応量の魔石たち。

 ソロならではの独り占めですよ。


 合同アタックから数日で、3つのダンジョンを制覇したし、今日も換金が楽しみです。




「たっだいまー」


 いつもの受付嬢さんのカウンターへ。


「番場ハンター、お疲れさまでしたね」


 このセリフを聞くのが、ここ最近で一番の癒しになっている。

 必ず誉めてくれるし、俺の苦労も理解してくれている。


「ぜんぜーん、こんなの軽いものだよ」


「差し引いて31万円ですよ。しかもボスのもありましたし、あまり無理をなさらないで下さいね」


「はーーーい」


 彼女に特別な感情は抱いていない。

 ただ誉められたいだけだ。

 俺は誉められて伸びるタイプ、怒られると土下座しちゃうタイプだからな。


「それと番場ハンター、また功績が規定に達しましたので、ランクアップとなりますね」


 ブロンズカラーのハンタープレートを受け取った。

 今までよりも重くて冷たい。


 周りからの拍手に応え、照れくさいのをごまかす。


「ちなみに初登録された中で、最速でのCランクに到達です。ただ協会としても期待していますので、ご自愛くださいね」


「やったなバン・マン、これからも頑張れよ」

「こんど一緒に攻略すっか? お前ならいつでも歓迎だぜ」


 より一層わきたつ周囲、祝いの言葉を返すのも大変だな。

 ひそひそ話も気になるが、これも有名税だと割りきっていく。


 と、いきなり後ろから頭を叩かれ、ヘッドロックをされた。

 むむむ、前にも同じことがあったよな。

 嫌な声も聞こえてきたぞ。


「ウェーイ、弱バン・マン。ちゃんとバンバン言っているかぁ~?」


 チャラ男ッチは、一切の加減なく締めつけてくる。


 今日も俺をバカにするつもりだりうが、そのたくらみを見事打ち砕いてやるぜ。

 それがセンパイへの恩返しだよ。



 ────────────────────


 番場 秀太

 レベル:21

 HP :185/185

 МP :455/455

 スキル:バン・マンVer3


 〈攻撃威力:750〉


 筋 力:20

 耐 久:40

 敏 捷:60(+50)

 魔 力:100


 装 備:早撃ちのガンベルト

 ステータスポイント残り:20


 所持金 310,500円

 借 金 8,000,000円(▲330,000円)

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