第13話 合同アタック ①

「お兄ちゃん、なんでTシャツに戻しているのよ?」


 目ざとい妹に見つかってしまった。


「えっと、(エミリさんがいないから)これでいいんだよ。(ちびっ子に見せてもしょうがないから)楽な方で行くつもりさ」


 じーっと舐めるように見てくる。

 なんだか見透かされているようで怖い。


「ほら、シャツに着替えて」


「え~、見逃してくれよぅ」


「ダーメ、せっかく格好良くなったんだから、イメージ戦略も組み込むわよ」


 目をそらすも、顔をグイッと鷲づかみにされ引き戻される。

 まっすぐ見つめられる。これは譲らないときの目だ。

 はい、わかりました。お兄たんは結衣の操り人形です。


「それと勝手にレベル20にはならないでよ。その前に、有り金をすべて返済にあてるからね」


「はーい」


 エミリさんとのダンジョンデートから数日間、レベリングと借金返済に明け暮れた。


 各地のD級ダンジョンを、行ったり来たり。

 おかげで借金の残りがだいぶ減りました。

 それとレベルは17にまで上がっている。


 子供扱いでも不満ありません。

 ここまで来たのも結衣のおかげで、任せておけば間違いなしですよ。


 ────────────────────


 番場 秀太

 レベル:17

 HP :185/185

 МP :355/355

 スキル:バン・マンVer2


 〈攻撃威力:250〉


 筋 力:20

 耐 久:40

 敏 捷:40(+50)

 魔 力:80


 装 備:早撃ちのガンベルト

 ステータスポイント残り:10


 所持金 500円

 借 金 8,330,000円(▲1,320,000円)

 ────────────────────



 E級ダンジョン、ゲート前。



 今日はギルド白銀霊のメンバーによる、合同ダンジョンアタック。

 低ランクのメンバーで、E級を攻略しようとしているんだ。


 E級だからどんなに乱獲しても、レベルが上限に達することはない。

 まるっと3つも上がりませんよ、はっはっはー。



「そろそろ時間ね、最終確認をするわね」


 ちびっ子は今回の総指揮をまかされて、はりきっている。なんともかわいいヤツだ。


 Bランクのヒーラーで、ギルドの古参としてのプライドなのか、俺への圧力がチト強いけどな。


「モンスターは昆虫タイプ、俊敏さと硬い外骨格が特徴よ。それをこの3チームで攻略します」


 それで俺は1チームを任されると言われたけど。


「あのー、質問いい?」


「なによバン・マン。後にできないの?」


 イラつくちびっ子の鋭い眼光。

 そのよく通る声にみんなが反応する。


「えっ、あの人が例の役立たず?」

「ああ、お笑い芸人らしいけど、コネでギルドに入ろうとしているらしいよ」

「うわ、サイテー」


 内緒話なら、聞こえないようにやって欲しいよ、ぐすん。

 それは置いて、メンバーの確認をしなくては。


「ああ、大事な事だからな。そっちは6人の2チームだよな。でも俺の所は1人もいないぞ。他のメンバーはどこなんだ?」


 ちびっ子は肩をすくめ、遠くをみて指差した。

 するとドタドタと走ってくる人影が。


「遅れてすみませーーーーーん!」


 冷ややかにしていたちびっ子が、この子だと目で合図してきた。


「えっ、1人だけ?」


「そうよ。じゃあ正午にはボス前で集合よ。遅れるヘマはしないでね」


 そう言うと、他の2チームはさっさと中へ入っていった。

 残された俺ら2人で見つめ合う。


「リーダーさんですよね、自分は岡部ルナであります。今日は一日頑張るであります!」


 耳がキーンのデカイ声。

 背のびをして敬礼をしている。元気一杯の女の子だ。


 俺も軽く自己紹介をし、作戦を練るためこの子のスキルのことを聞いてみた。


「自分のスキルは『ドカント・ウォール』といい、物理・魔法の全てを絶対防御するものであります。そしてその時にヘイトも稼ぐであります」


「多段階の効果って、激レアだな」


 内容も盾役として恵まれたスキルだな。

 本人もそれに誇りを持っていて、『おかべさん』と呼ばれたいそうだ。


「ですがその効果は、たった1秒しか保たないのであります、はいー!」


「そっかー、連発させるのは大変だね?」


 これにお壁ちゃんは頭をふる。


「消費MPが50もありまして、自分の最大MPと同じであります」


「へっ?」


「ですから単発でありますー、はいーー!」


 俺と同じ残念スキルだ。なのにスッゴく明るいな。


「今はみんなに迷惑だと言われますが、いつかはギルマスと肩を並べ、世界を救うのが夢であります、はいー」


「いいねぇ、じゃあ一緒に頑張ろうか」


「はいーーーーー!」


 なんだかお壁ちゃんが気に入った。

 となると、ダンジョンでパワーレベリングだな。


 レベルアップよりスキルを育てるため、ドカント・ウォールをどんどん使わせる事にした。


 その為にまずは、俺のガンベルトを貸して、自然MP回復速度を上げる。

 ただそれだけでは不十分なので、持続型MP回復薬も使っちゃえ。


「シュータさん、そんな高いお薬は勿体ないです。身分不相応であります」


「それ貰い物でさ、賞味期限が間近なんだ。だから気にしないでいいよぅ(ウソ)」


「そうでありますか、はいー」


 単純なお壁ちゃんは、これでブレーキが壊れた。


「いくであります、ドカント・ウォール!」


 これでMPはゼロになり、ヘイトはMax。

 向かってくる大きな蜂を前にしても、お壁ちゃんはどっしりと構えている。


 その度胸に感心しつつ、そこを俺が撃ち取る。


「よし上手い、バーン!」


 跡形もなく弾けて魔石を残す。


「す、すす、凄いであります!」


「お世辞はいいから、回復薬を飲んで」


「は、はいであります」


 戦闘の度とはいかないが、2回に1回はMPが貯まり、すかさずお壁ちゃんはぶっ放す。


「ドカント・ウォール」


「ナイスだよ、お壁ちゃん」


 はにかむ姿が初々しい。褒められるのが慣れていないみたいだな。


 しばらく戦っていると、お壁ちゃんのレベルが上がった。


「おお、これで2回分に増やせますです!」


 だけど、ステ振りに俺は待ったをかけた。

 お壁ちゃんは驚き敬礼をしてくる。


「スキルがレベルアップするまで我慢だよ」


 お壁ちゃんのスキルは、MP頼みの神スキル。

 レベルを上げスキルポイントを全振りすれば、使える回数は〝1〞増える。


 しかしその分、他のステータスが上げれない。

 それはレベルが上がれば上がる程、不利になる事を意味している。


 結果ハンターは廃業、時間の無駄でしかない。


「何かしら変化はあるだろうし、それからでも遅くないよ」


「おお、さすがクズスキルの始祖。言われる言葉に重みがありますです、はいーーー」


 言い方ーーーー、泣くぞ。



 そして2時間後、その時がやってきた。


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