第14話 合同アタック ②

「シュータさん、いまスキルアップの通知が来たであります!」


 意外と早かったな。MP回復薬を惜しげもなく使った甲斐がある。


「ついにやったな。で、変化はあったか?」


 お壁ちゃんより俺の方が緊張をして、ゾワッと全身汗ばんだ。


 慣れない手つきのお壁ちゃん。だが、その動きがいきなり止まり固まっている。

 つついてみても反応なし、揺さぶってもダメ。

 焦らされるのは勘弁だ。


「こうなったら、カモンVer1。大阪名物クチでバーン」


「あうあうあう、殺られたでありますー……って違うであります!」


 立ち上がり、なぜか敬礼で返してくる。

 変なノリだけどやっと反応してくれた。


「シュータさんそうでなくて、スキルが大変なのであります。見て欲しいのです!」


 では、ちょっと失礼して、お壁ちゃんのプレートに触れてステータスを見せてもらった。


 ────────────────────

『ドカント・ウォールLv2』


 如何いかなる攻撃も、完全に防御する絶対防壁。消費MP50

 防壁の発現と同時に、周囲の敵のヘイトが自分に向く。


 防壁の出現時間 1.1秒に延長


 ※ボーナス 最大MP+500(スキルレベルアップ毎時に付与)

 ────────────────────


 うわっ、化けた。ボーナスのMPがとんでもないぞ。


 これならステ振りの心配がいらなくなった。

 それどころか、将来的に他の人よりも、高ステータスになれるよな。


「やったな、お壁ちゃん。これで皆を見返せ……るな」


 あんなに元気印のお壁ちゃんが泣いている。

 やっぱカラ元気だったか。


 恥ずかしい事じゃないんだけど、背中を向けて隠してくる。


「お壁ちゃん、気合い入れる?」


「お、お願いするであります!」


 震える肩に両手をそえ、熱気を込めて握ってあげる。

 それを何度か繰り返すと、大きく肩で呼吸をして返してくる。


「シュータさん、どんどん行くであります!」


「おう、とことん付き合うぜ」


 そして、レベル3の壁にもぶち当たらず、着々と経験値をつんでいく。


 レベル4にもなり、少し遅めの昼食をとる事にした。

 火おこしはお壁ちゃんに任せて、俺は食事の準備。

 と言っても、スープとホットドッグなので、5分もせずに頬張っている。


「シュータさんには感謝しかありませんです、はいー」


「ははは、たまたま縁があっただけさ」


「シュータさんと組ませてくれたサーヤさんにも感謝です」


「そうだな……あれ、俺たちってちびっ子と待ち合わせしていたよな?」


「たしか、ヒトフタ、マルマル時でありますね。……ああああああああ!」


 その悲鳴の意味を、俺も瞬時に理解した。

 待ち合わせを忘れていたよ。完全に遅刻だ、どうしよう。


 急いでホットドッグをスープで流しこみ、方向を確かめダッシュする。もう肺が潰れそう。


 頼むから時間よ、ちびっ子の周りだけ止まっておくれ。




 ボス生息エリア、古代樹前。


 サーヤ視点


「いつまで待たせるつもりよ、あのお笑い芸人!!!」


 単独行動をさせたのが間違いだった。

 人を率いる難しさを教えるつもりが、裏目にでたわ。


 時間潰しに周りのザコ狩りも、獲物がつきた。

 それにつれてギルドメンバーの不満が顕著になってくる。


「あーあ、暇だなぁ」

「あの2人弱すぎでしょ。こんなに時間がかかるなんて見こみないよ」

「そうですよ、サーヤさん。俺らだけでボスをやりませんか?」


 その選択肢は当然だ。

 道中危なげもなく来たし、2チームもいるからね。

 それにいざとなったら、私が介入すればいい。


「そうね、ただE級とはいえ気を抜かないでよ」


「はーい」


 古代樹にある穴が、ボスの巣になるはずだ。

 フィールドダンジョン特有の、区切りのないボス戦。


 打ち合わせ通りの配置につき、戦いにそなえる。

 まずは遠隔攻撃で誘いだし、取り囲む作戦だ。


 合図を待って、魔法使いのひとりがファイアボールを放つ。

 見事に穴の奥へと着弾し、中から虫の悲鳴が聞こえてきた。


「来るぞ、みんな構えて!」


 チームリーダーのかけ声に引き締まる。

 良い連携だ、万にひとつも負ける事はないだろう。


「あれ、3匹いるぞ。よし、真ん中は俺が引き付ける。左右は盾さん、よろしくな」


「待って、リーダー。体の色が金銀銅のカブト虫よ。あれってCクラスのオリンビートルじゃない?」


「ほ、本当だ。やばいぞ、格上モンスターへの変異だ! バグアップが起こったぞ!」


 この場の全員に混乱と緊張が走る。


 突如おこったダンジョンの突然変異。

 滅多にないのに、よりによってこの合同アタックで起きるとは。


 私はその呪縛を振り払い、杖を掲げて指示をだす。


「みんなこっち集まって、防御魔法をかけるわよ! ほら、早く!」


 鉄壁防御の金、スピードの銀、パワーの銅。

 3匹そろっているとは、下手をしたら全滅もありえるわ。


 たった一発の攻撃で、盾役のHPの大半が削られる。

 すかさずヒールでフォローするも、ギリギリだわ。


「全員、防御体勢をとって、少しずつ後退するわよ!」


 弱々しい返事が返ってくるのは責められない。心が折れかけているか。


 私はBランクとはいえ、所詮は回復職だ。一人でなら勝てるとしても、誰かをかばいながらでは分が悪い。

 維持をするだけで精一杯、打ち払うのは無理だわ。

 せめて仲間の誰かに、押し戻す一撃でもあれば逃げられるのに。


「も、もうイヤだ。オ、オレは逃げるぞ、うわーーーーーー!」


 前衛のひとりが背を向けて走りだす。

 それを待っていたとばかりに、オリンビートルが追いかけ、角でかち上げた。


「ぎゃーーーーーーーー!」


「ええい、ヒール。隊列を崩さないで、つけこまれるわよ!」


 しかし既に前線は崩壊し、次々と犠牲者が増えていく。


「ぐあああ!」

「ヒール、ヒール」

「いやー、助けてー!」

「ヒール!」


 まずい、敵は弱い所を心得ている。

 前衛に軸になる者がいればと、内心グチる。


「サーヤさん、危ない!」


 銅色のオリンビートルが、歯を剥き出しにして笑っていた。

 目の前に迫られるまで気づかないとは、失態だわ。

 これで私が倒れたら、……全滅。

 私があげるのは後悔の叫び。


「誰か、みんなを助けてあげて!」


 応える者もいないのに、なんて愚かな事を。


「おいおい、何気なにげにピンチじゃないか。バン、バン、バン!」


 カブトの角がとび、胴体もはじけ飛ぶ。

 オリンビートルは死に消え去った。


「えっ、誰なの?」


 見上げるとバン・マン。


「お壁ちゃん、向こうを助けてやりな」


「りょーかいであります。ドカント・ウォール!」


「ギギギギギッ!」


 それにあの落ちこぼれの盾役の女の子も。

 何が起こっているのか分からない。

 呆けたまま座りこんでいると、頭をガシガシと撫でられた。


「俺が来たからには安心しろ。誰も絶対に死なせねえぜ」


 不覚にも大粒の涙をこぼしてしまったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る