第11話 ギルド加入 ③

 俺とエミリさんとの間にはズレがある。

 モテないと自覚する闇の俺が、おもいっきり警鐘を鳴らしてくるよ。


「どうしたの、何か不安なの?」


 いや、違わないか。


 うすうす感じていましたよ。俺の勘違いってことに。


 まず俺の名前も知らなかったよな。

 よく知らない相手のことを、好きになるわけないよ。

 それ以前にさ、トップギルドの代表が俺を誘うなんておかしいもん。


 どうせ、あれだよ。何かの試験で、俺が使えるか見定める気だろ。


 はい、いつものモードに戻ります。

 というか、勘違いしている事を気づかれなくて良かったよ。

 それを悟られる方がもっとハズい。

 ここは大人の対応だよな。


「はいはーい、すぐ行きまーす」




 中はジャングルで、視界の悪いフィールドタイプだ。

 エミリさんがここの説明をしてくれている。


「ここはD級でも、防御力のあるジャイアントボアが出てくるのよ。少々の攻撃ではその突進力は止められないわ。むやみに正面に立たないでね」


 なんだか話が入ってこない。

 とりあえず狩れば良いってことだよな。


 よし、切り替えるか。


「じゃあ、狩っていきますね、バン!」


 木のかげで様子をうかがっていたジャイアントボアの土手っ腹にヒット!


 難なく一発で倒し、近寄って魔石を拾う。


「エミリさん、これって俺の物にしていいですか?」


 礼儀と思い聞いたのに、エミリさんはポカンとしたままガン見をしてくる。


「えっ、えっ、え? 不味かったです?」


 ギルド独特のルールかも。ちゃんと確認して良かったよ。


 だけどエミリさんは固まったまま。

 微動だにしないから、俺の方が困ってしまう。


 ツン、ツン、ツンとつついてみる。


 でもつつく場所には気を遣うよね。

 もちろん、胴体はもっての他。

 即座に通報で、ネットニュースのトップだよ。


 控えめに指で。……反応なし。


 ……ならば手の甲は。……これもダメ。


 そ、そうなると二の腕?


 一気に鼻息荒くなる。


「つ、つつきますよ? ほ、本当にいきますよ?」


 つつくフリをしても反応がない。どうしよう? い、行くか。


「シュータさん、凄いじゃない!!!!」


「ぐわっ!!!」


 不意に動かれ腰が砕けました。


 エミリさんが目の前に迫ってきた。

 髪の毛が俺の頬にあたり、匂いと感触で心臓がはねる。


「ねえねえ、今のどうやったのよ?」


 エリミさんが俺に興味を持っている。

 全然脈なしだったのに、まさか俺の事を?


 でも待つんだ、シュータ。同じあやまちを繰り返すんじゃない。

 きっと『そんなつもりじゃなかったんです~』とかまされ大怪我するぞ。


「えっと、普通にスキルですよ?」


 そうそう、それでいい。サラッと流せ。


「全然別物じゃないの。何か切っ掛けがあったの? うー、隠さないでおしえてよぅ」


 クールビューティーのエミリさんが、飛んだり跳ねたりと。

 公式でもこんなエミリさんは見たことがない。

 レアどころか初物です。


 闇の俺よ、頼むから引っ込んでいておくれ。


「そ、それ程でも~。ただスキルが進化しただけですよ?」


 立ち上がり、眉間に爪をあて伏し目がちに答える。

 爪をめり込ませる痛みで、ニヤつくのを無理やりおさえる。


「進化って聞いた事もない現象だわ! もしそれが本当なら、どれほど過酷な努力をしたの?」


「いえいえ、努力だなんて。ただ無我夢中で撃っていただけです。ノリが良い相手のおかげで、俺の力じゃないんですよ」


 下手に嘘をつくと笑ってしまいそうで、ありのままを話す。

 すると、エミリさんはボソリと『なんて奥ゆかしいの』とつぶやいた。


「えっ?」


 うるるんな瞳で近いです。

 俺の方がテンパって、取り留めのないことばかり話してしまう。


「シュータさんのことを、尊敬……してもいいかな?」


 赤らめる頬にどんな感情があるかは知らない。

 好きとは違うって事は分かる。

 だから、正解じゃないかもしれないが、俺は柔らかく笑ってうなずいた。


「そんな事で喜んでもらえるなら嬉しいよ。そうだ、(稼ぎたいし)これから全て俺一人でやっていいかな?」


「は、はい!」


 なぜか完璧に主導権を取りました。


 エミリさんは俺の一挙一動に釘付けで、着弾する度に拍手をしてくる。

 これって、ものすごく気持ちいい。


「次がきたようだ、さがっていて。バン!」


「えっ、体の半分がなくなったわ!」


「まだまだー、バキューン!」


「一番硬い眉間をだなんて嘘でしょ!」


「バン、バン、バン、バン、バン、ババババババーン!」


「なんて身のこなしなの。それに範囲攻撃なみの連射って! 対人、集団戦ともに死角がない……む、無敵だわ」


 気持ちいいーーーーーーーーーーーー!


「エミリさん、あまり前へ出ないで。残りも俺が片付けるからさ」


「はい、シュータさん」


 俺の株は急上昇。

 エミリさんによる俺の解説が止まらない。


 人を引っ張る魅力があるだとか、細かい状況判断が光っているとか。


 盛りすぎだけど否定はしないよ。

 だって勢いある時に行かないと、俺みたいなヘタレははじけれないもん。


「おっと、エミリさん危ないよ。足元には気をつけて」


 よろける彼女の腕をつかみ、引き寄せる。あくまで優しくふんわりとね。


 すると固まったエミリさんと目があった。


「あ、ありがとう、ポッ」


 気持ちいいーーーーーーーーーーーー!


 これが夢にまで見た、女性をリードするってやつだ。

 しかも相手はあの白銀霊ギルマスの神花エミリさん。

 表情を崩さないようにするので必死だよ。


「シュ、シュータさん。もしかしてD級ボスも、ソロでいけたりするの?」


「ええ、何体も殺ってますし軽いものですよ。良かったら見せますよ?」


「うん」


『うん』だってさ、エミリさんかわいい。


 ちょっと声が震えていたし、よろめいただけなのにそのリアクションもいいよ、うん、すっごくいい。


 こんなカワイイの見せてもらって幸せだよ。幸せすぎて今の俺ならDはおろか、Sクラスだって倒せるぜ。


「でもここのボスはロックボアといって、装甲が厚いの。攻略のカギは、岩で覆われていない部分を狙うのがいいわ」


 俺の事を心配しているその心遣いにキュンとくる。


 でも。


「その必要はないよ。こいつも一発で決めるよ!」


「えっ、無理よ。あの固さはCクラスよ。並みの攻撃力では傷もつけられないわ」


「ああ、並みならね」 キランッ。


 そう伝えエミリさんの肩をたたき、ボスのエリアへ足を踏み入れた。


 既にボスは鼻息あらい。


 だけど、そこまでだ。

 駆け出す前に終わらせるぜ。


「すまんな、これも愛のためだ。バーン!」


『プギーーーーーーッ!』


 宣言通りワンキル、コロンと魔石が転がった。


「宝箱なしかぁ、残念」


「す、凄いわ、本当に一発だなんて。シュータさん最高よ!」


 うおおおお。エ、エミリさんが抱きついてきた。

 Sランクの腕力で骨がポキッと逝った。キツい。

 でも骨折だってご褒美です、あざーっす。


 協会に帰る道でも、俺を熱っぽく見つめてくるよ。マジでうれしい、夢みたいだぜ。


 そして、エミリさんはちびっ子を見つけると興奮し、まくし立てるように話し出した。


「だから本当にすごいのよ。シュータさんならチームを任せても大丈夫よ」


「エ、エミリさん、待って下さい。何があったか知りませんが、この人はまだ低レベルですよ。レベルの壁だってありますし……」


「いいえ、サーヤちゃん。私はシュータさんを信じるわ。絶対に英雄に至る人物よ」


 えええええ! ちびっ子と一緒に目が飛びだしそうだ。


 見つめる俺にエミリさんは『そうだよね』と同意を求めてくるよ。

 そこまで言ってくれるのは嬉しいけど、ナ、ナゼ?


「どうしたんですか。もしや変な術をかけられました?」


 ちびっ子は信じられないと、俺のことにらみ杖をかまえてきた。


「インチキでしょ?」


「もー、サーヤちゃん。だったら今度の合同アタックの時、シュータさんに1チーム任せてみなさいよ」


「えっ!」

「えっ?」


「ええ、絶対にシュータさんなら問題ないわ」


 エミリさんの俺への想いが止まらない、ごくり。


「そうでしょ、シュータさん?」


「はい、軽いものです。はははははー」


 誰が天使に逆らえる?

 食いぎみに、ボリューム大で叫んじゃったぜ。


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 番場 秀太

 レベル:13

 HP :160/160

 МP :280/280

 スキル:バン・マンVer2


 〈攻撃威力:212〉


 筋 力:20

 耐 久:35

 敏 捷:30(+50)

 魔 力:65


 装 備:早撃ちのガンベルト

 ステータスポイント:0


 所持金 224,800円

 借 金 9,650,000円(▲300,000円)

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