第10話 ギルド加入 ②

 突然のちびっこの乱入で、俺の恋愛生活スタートにケチがついた。


 抗議しようとする俺を押しのけてくる。

 冷やかな目ですげえ雑な扱いをしてきたよ。


「エミリさん、あの人をギルドに入れるつもりですか?」


「そうよ、サーヤちゃん。この人にも活躍の場は必要よ」


 はい、照れ隠しーーー。

 本当は俺との仲を深めたいのにさ、無理に仕事の話につなげているよ。

 エミリさんってか~わ~い~い~。


 でも2人の仲を、周囲にべらべら喋る人でなくてよかったよ。

 シャイな俺にはちょうどいいよ、うん。


「エミリさん、この人って例のバン・マンですよね? さすがに入れるのは反対です」


 ぬお、このちびっ子は人の恋路を邪魔してきている。


 でもちびっ子なりに、必死にやっているようだ。

 下からガン飛ばしてくるが、なんか小動物みたいな可愛いさだ。

 それに妹の結衣と同い年くらいで健気だし、頭でも撫でてなだめてやるか。


「な、何をするのよ、バン・マン。私は美少女Bランクハンターよ。万年Eランクが失礼でしょ」


「むむ、お兄たんは既にDランクだぞ。ちびっ子こそ、このプレートが見えないのか?」


 つい結衣と話すように接してしまう、イカンイカン。


「「Dランクですってーー!」」


 あっ、エミリさんも驚いていて、えらい近くまで詰め寄られた。


「あなたパーティーを組めたの?」


「い、いえ、ソロで細々です」


「ソロって、D級はパーティー推奨よ?」


「はははっ、スキルが俺を助けてくれますから、キランッ」


 指鉄砲を眼前にかまえ、たっぷりと見せつける。


 どうやら俺の魅力を再発見したんだな。開いた口がふさがっていない。

 それとも前のままの俺であって欲しいのか、どちらにしても俺は応えるよ。


 と、反対にちびっ子は男梅のような表情だ。美少女ハンターはどこに行った?


「Dって余計に反対です。組まされるDランクの子が可哀想ですよ!」


「ちょっとサーヤちゃん、そこまで言わなくても……」


「いいえ、今回だけは譲りません!」


 エミリさんにつらい想いをさせている。

 俺とギルメンとの間で、恋と仕事の板ばさみだ。

 なのに、それでも俺をかばい続けている。


「理由もなしにDランクに上がれないわよ。彼の言う通り、レベルアップで強くなっているのかもよ?」


「はん、信じられませんね。クズスキルはどう足掻いても、底辺から上がれません。それにこれ以上の不良債権抱えると、ギルドが崩壊しちゃいますよ」


 えらい言われ様だな。

 だけどこちらには天使がいるんだ。

 何を言われてもヘッチャラさ。


「サーヤちゃん。彼がDランクに相応しく有能だって分かればいいのね?」


「……もしかして、ウチらの昇格試験を受けさせるつもりで?」


「ええ、私が見届け役をするわ」


「むぅ……そこまで言うなら。でもひいきは無しですよ?」


 んんん、何か話がまとまったみたいだ。


「任せなさい。じゃあ君、名前なんだっけ?」


「は、はい、番場秀太です」


 照れ隠し?


「じゃあシュータさん。明日、私と2人でD級ダンジョンに行きましょ」


 あ、あ、あ、あ、あ。


 デ、デ、デートのお誘いだぁ!

 しかも人前で大胆なエミリさん。


 こんな幸運あっていいのか?

 もしや俺は死ぬのかも、いや、死んでもいい。

 逆に死にたいくらいに幸せだよ。


 ど、どど、どうする?

 いや、行くのは決まっているよ。

 借金が倍になるよと言われたとしても、絶対に行かせてもらいます。


 だが返答の仕方がわからない。

 掲示板に質問するにも時間がない。

 ぬおおおお、シュータ大ピンチ。


「エミリさん、この人ビビってますよ。やはり予想通りの底辺ですよ」


 ぬおおお、またちびっ子がしゃしゃり出てくる。

 大人の恋愛にうといとはいえ、ほっぺをつまんで罰ですね。


「痛い、痛いって。このー、見た目で判断したことを後悔させてあげるわ」


「ちびっ子こそ、(長期彼女いない歴の)この俺を舐めるな。(エミリさんと付き合うためたら)どんな事でもやってやるぜ!」


 バチバチと睨み合いに、エミリさんが入ってきた。


「シュータ君、えらいわ! 明日はボス戦まで行くから、しっかりと準備をしておいてね」


「は、はい。シュータ、頑張ります!」


 人生で初のデートだ。

 なんとしてでも成功させるぜ。

 今までとは違う番場秀太をお見せします。



 次の朝~


「あれ、お兄ちゃん。シャツなんか着て、いつものヨレたTシャツはどうしたの?」


 ドキッ!


「きょ、今日は(デートだから)気合を入れようと思ってね。に、似合わない?」


 じーっと見られるプレッシャー。

 軍服だとマジで尋問を受けてるみたいだよ。


 結衣は鋭いから困ったぞ。


「いいじゃん、ガンベルトとですごく似合っているよ」


 セーーーーーフ。


「こうやって腕まくりをしてさ。……うん、格好いいよ。この数日で体格も良くなってきているから、見違えたよ」


 年が離れた妹に褒めてもらうとデレるよな。

 これならエミリさんにもウケるはず。

 結衣の言葉は自信になるぜ。


「じゃあ、行ってくるよ」


「はーい、返済はしておくから、いっぱい稼いできてねぇ」


 持ち金のほとんどを結衣に預け、元気いっぱい出発だ。



 待ち合わせのD級ダンジョン前。


 エミリさんのほうが先に来ていた。

 待ちきれなかったんだね、わかる、わかる。


 そ、そうだ。女の人は服を褒めてもらえると喜ぶんだったよな。

 忘れるところだったよ。


「エ、エミリさん。きょ、きょ、今日のドレス、す、す、素敵ですね」


「ドレス? ……ああ、この防具はいつも使っているダンジョン産の逸品よ。なかなかの防御力で、気にいっているの」


 あ、あれ?


 ここでエミリさんは頬を染めるはずなのに、何かがちがう。


「それよりシュータさん、武器は何を?」


「あっ、これがありますので大丈夫です」


 指鉄砲を見せて、爽やかにニコリ。

 ガンベルトが映えるような角度は習得済みですよ。

 夜中2時まで特訓がきいてます。


「……なるほど。では中で見せてもらうわね」


 あ、あれーーーー。結衣に褒めてもらった服もスルー?

 やはり……何かちがう気がする。


「どうしたの、早く入るわよ?」


 むむむ、この展開は予想していませんでした。


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