第4話

 2022年12月5日

 苗場にある山荘に佇む4人と少女の死体。彼らは何者かに追われ、ここに偶然集まった。

 夜が明けると、ラジオやTVさえ繋がらなくなっていた。いよいよ、この世の終わりが来たと確信する貴弘。

 そして外に出られない状態の続く中、ストレスは少しずつ4人の関係を壊し始めていた。

 外には人肉を求め、彷徨う生きる屍たち…彼らに咬まれた者もまた感染する。

 貴弘は竜、光彦、若葉の順に見回した。

 竜はギャングのボスで69歳になる。貴弘より若いが80歳に思えるほど皺が目立ち、腰が曲がっている。

 光彦はかつては悪いことをしていたが、足を洗いガソリンスタンドで長年働き定年退職した今はスキーが趣味で1人で苗場にやってきた。貴弘の兄、裕貴の友人であるので当然、貴弘より年上だ。髪を茶髪にしてることもあり若く思え、俳優の神田正輝にどことなく似ていた。

 若葉はまだ4年生だ。彼女は別荘であるこの山荘によく来るらしい。バードウォッチングが趣味でヒヨドリやモズ、シジュウカラが近くに住んでるらしい。羽の標本を見せてくれた。鳥の糞を湯で溶かして、土の上にティッシュペーパーを置き上から流し、残ったものを虫メガネで見たりするらしい。

 少女の腹からは内臓がはみ出ていた。ゾンビにやられたに違いない。

 竜は災害とかは関係なく何者かがハッキングしたんじゃないかと疑い始めた。

 光彦はかつて、この辺で起きた事件を思い出した。

 1974年2月、光彦、裕貴、勇、沼田の4人が乗るジープが吹雪により立ち往生する。しかし何者かによって勇が連れ去られ、沼田がジェイソンの仮面をかぶった奴に斧で殺され、裕貴とはぐれて1人になった光彦は、食人鬼に捕らえられてしまう。


 彼らの野蛮で残酷な儀式を目の当たりにしながらも、光彦は食人鬼の1人、和美に気に入られる。彼女を利用して光彦は脱出。裕貴と共にスノーモービルに向かうが、食人鬼の執拗な追跡に遭い、捕まった和美は斧で殺され、裕貴も惨殺された。


 光彦は追撃してくる食人鬼をライフル銃で殺すと、その内臓を掴み出して食べた。

「あ〜腹が減った……」

 腹を満たした光彦はスノーモービルに乗り込むと、悪夢の苗場を後にするのだった。


 苗場の山奥でピネルはのうのうと暮らしていた。隣の家には明るい慶子とその妹で肉体的な障害のある聖子が引っ越してくる。ピネルはすぐに慶子に心を奪われるが、同時期、姉妹が母親の江美によって折檻を受ける現場を目撃しショックを受ける。江美の虐待の矛先はやがて慶子により鋭く、偏執的に向けられるようになり、ある時慶子は地下室に監禁され、江美と彼女に扇動された備後や純也たちによって凄惨なる凌辱と虐待を受け衰弱していく。ピネルは、ある時慶子を脱走させようとするが失敗に終わる。その後の慶子への虐待は髪を焼くなど悪化の一途を辿り、ついには死に至る。その後、ピネルは吊り橋から江美を川へ突き落として殺害するが、事故として扱われる。

 

 貴弘の目の前にある少女の死体は姉の死を目の当たりにし、精神的なストレスから少女の姿のまま歳をとってしまった聖子だった。


 竜は銀次の遺体を思い出していた。後頭部を銃で撃たれていた。もしかしたら、銀次を殺ったのは光彦なんじゃないか?

 竜は腹が痛むのを覚え、トイレに入った。便器に座った直後、尻に鋭い痛みを感じだ。コブラがひょっこり現れた。竜は全身に毒が回り死んだ。

 貴弘、光彦、若葉の3人は竜の悲鳴に体をびくつかせた。ドアの隙間からニュルニュルとコブラが姿を現した。

「逃げろッ!」

 光彦は叫ぶと同時にライフル銃を手にした。奴の銃の腕前は衰えており、若葉が流れ弾を喰らい腹から赤黒い血を流した。

「若葉!」

 貴弘は愛する女の身を案じながらも逃げることを選択した。光彦とともに雪道をひた走った。白樺並木は樹氷で氷結している。

 貴弘は医者を呼ぼうとスマホをスキーウェアのポケットから取り出したが、圏外になっていた。

 キシッ……雪が軋む足音がした。貴弘は恐る恐る背後を振り返った。

 備後が雪より冷たい笑みを浮かべていた。

 奴は斧で襲いかかってきた。

「銀次を殺したのはおまえだったのか!?」

 光彦は攻撃を躱しながら叫んだ。

 彼のことは死んだ竜から随分昔に聞かされていた。

「そうだよ。ケケッ、コブラの毒はメチャクチャ強いぞ」

 あの仕込み道具はコイツの仕業だったのか?あのコブラのせいで若葉は……貴弘は強い殺意を備後に抱いたが、あいにく武器を持っていなかった。

 もうダメだと絶望した瞬間、白い闇から食人鬼が現れ、備後の首筋にガブリと食いついた。

「死ねぃ!」

 光彦はありったけの弾丸を食人鬼に食らわせて殺した。どことなくピネルに似てるな〜と光彦は思った。

 命からがら山荘に戻ってくると若葉は既に事切れていた。

 翌日の昼過ぎ、ヘリが山荘近くに着陸した。

 スノーモービルで麓の街に降りた貴弘が通報したのだった。若葉、竜、備後、聖子、食人鬼の屍は研究所で司法解剖され、食人鬼の身元はピネルだと判明した。また、聖子を喰い殺したのもピネルだった。

 

 貴弘は苗場で起きた凄惨な事件をモチーフに映画を作った。

 2024年11月2日、本作を撮影し終えた直後の貴弘が、鵠沼くげぬま海岸で轢死体となって発見された。警察は、貴弘から性的暴行を受けた少年による犯行と断定し、逮捕した。しかし貴弘の遺体は、全身が殴打された上に、貴弘自身の車で何度も轢かれており、暗躍する派遣アサシンの暗殺とも噂されたが、真相は誰も知らない。


 

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bizarre〜猟奇〜 短編1万 鷹山トシキ @1982

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