第3話

 60年代。漁師の息子として湘南に生まれた貴弘は、父が捕った魚を売り歩く仕事に従事していた。貴弘の兄である裕貴ひろたかは悪友の光彦、勇と共に“3人組”と呼ばれる地元では有名なチンピラであったが、取り巻きの少年、竜が提案した民宿襲撃計画から3人の運命は道を逸れていく。


 70年代。18歳になった竜は持ち前の凶暴性で街の支配権を握っていった。学校を出て警官として働いていた貴弘はひょんな繋がりから竜を尊敬するようになる。


 一方、穏健派の相棒銀次の死により竜の行動はタガが外れていく。些細な因縁から竜に恋人を犯され家族を殺された堅気の男、純也は竜への復讐を誓い、敵対する備後びんご一味に加入。元軍人で射撃の名手である純也の加入により備後一味は勢い付き、力関係が崩れた湘南は戦争状態へと突入する。


 江ノ島で定食屋を経営するフランス人のピネルは娘である海子を幼稚園に送迎中、反竜メンバーの爆破テロに巻き込まれてしまう。幸いにもピネルの傷は浅かったが、海子は彼の目の前で命を落としてしまい、ピネルの心には大きな傷が残った。


 一方で、過去に過激派組織の活動家をしていた黒田純生くろだすみおは、現在では江ノ島警察署捜査課長になっていた。爆発物の鑑定結果を知った黒田は「警察内部に内通者がいる」と考え、内々に事態を解決するよう目論む。


 警察の捜査はテロから3週間経過しても目立った進展がなかった。犯人への報復を考えるピネルは、 テレビ番組に出ていた黒田の経歴を知り、彼の事務所に電話を掛ける。テロの被害者ということで取り次いでもらうことはできたが、犯人の正体や手掛かりについては「何も知らない」と返されるばかりだった。ピネルは従業員のつとむに「店を譲る」と告げると姿を消し、バンに偽装を施すなどの準備を終えると、その足で黒田のいる江ノ島署へと向かう。ピネルが刑事課を訪問すると、受付で追い出されそうになるが黒田に部屋まで通される。しかし、犯人については「何も知らない」と言われるばかり。


 ピネルは「そのうち気が変わる」と言い残し、その場は大人しく引き下がって見せたが、トイレに簡易の時限爆弾を仕掛けて事務所を出た。その爆弾の爆発の規模は小さく人的被害こそ出なかったが、ピネルは「気が変わりましたか?」と黒田に電話を掛ける。黒田は激怒し、部下にピネルを見つけ出すように命令を下す。ピネルの居場所はすぐに判明する。

 寒川町さむかわまちってところにある廃墟だ。寒川町(さむかわまち)は、神奈川県の湘南地域北部に位置し、高座郡に属する町。相模国一之宮である寒川神社が町の中央に鎮座する。

 黒田の部下はピネルを取り逃がしてしまい、黒田は広範囲の捜査を決断する。また、警察学校の同期で神奈川県警に配属されたばかりの沼田冬彦を呼び寄せテロの犯人探しに協力させる。


 ピネルは黒田を追跡し、愛人の麦子との逢瀬の場所や、沼田との待ち合わせ場所である喫茶店を難なく突き止めていく。喫茶店に仕掛けた爆弾は事務所に仕掛けた物以上の威力だったが、被害者が出ないように工夫もされていた。翌朝は、黒田のチームが乗る車に仕掛けられた爆弾が爆発し、横転する。チームはピネルが喫茶店近くの雑木林に潜んでいることを察知し捜索に出るが、チームの紅一点、夢美ゆめみは仕掛けられた罠にかかり負傷してしまい、ピネルの追跡は断念せざるを得なかった。黒田は片腕である留萌右近るもいうこんの進言を受けて、狙撃の名手である沼田にピネルの相手をさせることにする。


 1971年1月31日 - 朝日放送で桂三枝(現:六代目桂文枝)司会のトーク番組『新婚さんいらっしゃい!』が放映開始。

 その日の晩、黒田に送られてきたピネルの身上調査結果には、彼がかつてテロを企てていたことが明らかになる。一方で喫茶店に黒田の同志、佐伯裕貴が訪ねてくる。彼の正体は過激派組織の急進派であり、黒田は裏で過激派組織と繋がり続けていた。しかし、ピネルと海子が遭った先日の爆破テロは黒田の思惑とは違った形で決行されたものだった。2人の主張は相容れず、喧嘩別れする形で裕貴は帰っていく。黒田は書斎で眠る愛犬を連れて寝室に向かおうとするが、愛犬は深く眠らされており、そこへ隠れていたピネルが姿を現す。ピネルは胴に巻きつけた爆弾と拳銃で黒田を脅した。ピネルは黒田から、次の爆破テロでは犯人が分かるように罠が仕掛けられていることを聞き出すと、24時間の猶予を与えてその場を去った。


 翌日、東神奈川〜磯子を走る横浜線が爆破される。東神奈川駅を出発してすぐに事件は起きた。しかし、黒田の用意していた罠は見破られており、犯人を見つけ出すどころか黒田と沼田への疑いが強まってしまった。頭を抱える黒田だが、江ノ島の実家にいる妻の安否を部下に尋ねたところ、彼女が沼田と密会したこと、その後に佐伯裕貴と連絡を取っていたことを知らされる。さらに、監視カメラの映像から裕貴が爆破テロの犯人と繋がっていることを知った黒田は、江ノ島署の取調室で裕貴に銃を突きつけて犯人の情報を暴露させる。5人の犯人の中には黒田の愛人、麦子の名前も記されていた。


 江ノ島に到着した沼田はすぐさま稚児ヶ淵にやって来た。江の島南西端の幅50mほどの隆起海食台。大島、伊豆半島、富士山が一望でき、1979年(昭和54年)かながわ景勝50選の一つに選ばれた。夕暮れ時には富士山の方角に陽が沈む光景を見ることが出来る。回遊魚が釣れる磯釣りのスポットとしても知られる。島の裏側にあるため、徒歩では峠を越える必要があり往来に時間が掛かる。稚児ヶ淵は足元が滑りやすく、転倒した際は海に転落する可能性が高い。外洋の荒波が直接打ち寄せる。

 ピネルと沼田はすぐに相対し、2人は激しい格闘を繰り広げる。沼田はピネルの裏拳に屈した。ピネルは彼を縛り上げ、犯人の情報に加えて沼田の従軍経験について聞き出すと、すぐに彼を解放した。

 黒田は新たな待ち合わせ場所である七里ケ浜近くの廃校にやってきた沼田を問い詰め、沼田から妻に、妻から裕貴に情報が流出したことを確認する。


 明くる日、爆破テロの犯人たちが拠点とするアパートを黒田のチームが取り囲んだ。部屋に複数の狙撃銃の銃口が向けられている中、ピネルはアパートへと潜入していた。ガス漏れの点検を装って犯人たちの部屋へ入ることには成功したが、荷物を改められたところで銃の所持が露見し、銃撃戦が開始される。ピネルが犯人5人のうち麦子以外の男4人を殺害すると、彼が部屋を出ると同時に黒田のチームが突入してきた。チームは麦子から次の爆破テロの計画を聞き出し、横浜にある石油工場での大惨事を防ぐことに成功する。


 2月末、激しい雪が降る苗場にある山荘に黒田はいた。暖炉に焚べた薪がパチパチ音を立てた。黒田の元を訪ねたピネルは黒田を斧で切り裂いて殺しながら、加山雄三の『お嫁おいで』を歌いながらどこかへ姿を消した。

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