最終話

 天明てんめいの大飢饉は東北の穀倉地帯を中心に襲った。東北だけでなく関東にも飢餓が襲う。コトは人間を喰える事はうれしいのだが、餌となる人間が減少しては困るので大地に呪術を放つ。幸いさつまいもは冷害の時にも強い。だが人間は恐怖におびえた。死ぬ間際に妖狐が着て肝を喰うと。もっともコトは肝から得る妖力が無いと長生きできない。あと三百年は生きられるので、若いうちに妖力が尽きて死にたくなかった。

 やがて飢饉は収まり江戸も小江戸川越も落ち着きを取り戻した。文政六年、コトは白狐の姿のまま雪の日に出る。白狐にとって雪の日は雪から呪力を得られる特別な日なのだ。しかし、この機会を街の人は見逃すはずが無かった。木刀を持って隠れる町の衆。コトは安心しきっていた。雪とじゃれあっていた。その時……。


 「今だ!!」


 周りから木刀で次々殴られるコト。そして自分が今までしてきたことを人間に去れる時がやってきた。狐の悲鳴が木霊こだまする。コトはこのとき最後の呪文を唱えた。


 「やったぜ!これが狐の肝だ。三人で山分けだ!」


 三人は狐の肝を喰った。三人の力がみなぎる。三人の体に異変が起きたのはすぐだった。うめき苦しみ倒れる。それだけでなかった。川越中で狐火が出るようになった。


 ――仲間を殺すとはいい度胸だ


 毎日のようにおどろおどろしい声と狐火が出た。川越中で大混乱となり、その後……川越の町人は雪塚稲荷神社を作り怨霊おんりょうを沈めたという。すると狐火は出なくなったという。


<おしまい>

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