第三話

 コトは肝を喰ったあとは人間にお礼を返していた。そのためか川越の稲荷神社は参拝客が絶えなかった。江戸の王子にある王子稲荷神社に出かけては仲間の妖狐らと共に人間に化けて江戸の街を遊ぶこともしばしばであった。当然肝を喰う時も……。

 よく妖狐らは王子稲荷神社から江戸の街を見下ろし……人間らを冷笑するかのように見つめていた。王子稲荷神社は武蔵野台地の東の果てにあるので江戸の街並みがまるで下界のように妖狐には見えるのだ。

 コトは狐の姿で川越に帰るのは危険なので人間の姿で王子稲荷神社の傍にある河岸かしから舟に乗って川越に帰る。たった三刻さんこく程度で江戸から川越に着くのでそのほうが楽でもあった。もちろん江戸に行くときもだ。そんなある時……王子から帰るときに仲間の妖狐からとんでもないことを聞いた。


 「飢饉が来るぞ。人間の肝をいっぱい喰えるな」

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