第二話

 妖狐が人間の肝を食うという噂はたちまち瓦版かわらばんを経て一気に川越中の噂になった。それだけではなかった。


 ――人間の肝を食った狐の肝を食うと長寿になるらしい


 コトはそんな噂を聞き流すかのように三富の大地に呪力を放つ。


 ――これでさつまいもの実も大きくなるであろう。


 川越の商人は廻船問屋かいせんとんやを介して江戸へいもや狭山茶を運ぶ。ますます川越は豊かとなり商売繁盛となった。

 コトは夜の川越の街に狐火きつねびを出して人間に警告を発した。それでも人間の噂が止まらなかった。コトは武蔵松山(現・東松山)の稲荷大明神である箭弓やきゅうに仕える妖狐であった。噂は当然箭弓の耳に入ってしまい、東松山の稲荷神社へ出向くと箭弓から「人間に気を付けるのじゃ」という警告を受けた。


 「ところで今日は持ってきたかえ?」


 「こちらに」


 コトが桐の箱を開ける。それは人間の肝を干したものであった。コトは桐箱をうやうやしく箭弓の前に差し出す。


 「これがないと我々の呪力が回復せぬからの」


 「箭弓様、もっともっと人間を狩りましょうぞ?」


 「何度も言うが人間に気を付けるのじゃ。奴らの力をあなどるなかれ」


 「はっ」

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