第一話

 白狐のコトは人間の肝が大好きであった。しかし妖狐は生きている人間の肝を喰うことがほとけ……特に大日如来から禁じられたのだ。代わりに死んだ人間の肝を喰うことが許されたのだ。そのためコトはなるべく人間が死んだ直後の新鮮な肝を喰うのが大好物であった。

 コトは稲荷神社でさつまいもの豊作を願う少女の願いを聞いた。ここは川越藩主が十代将軍徳川家治へさつまいもを献上したところ評判がよかったので新田開発した場所である三富さんとみの名産品となったのだ。コトは神通力で少女に伝える。


 ――その願い、かなえてやってもいい


 「えっ!?」


 ――その代り少々の代償が伴うぞ?


 「あ、はいっ!」


 少女が嬉しそうに稲荷神社から走り去る。

 少女の家の近所に臨終間際りんじゅうまぎわの老人が居た。

 その家に突如人間に近い姿でコトは姿を現す。


 「おまえ……さんは……!」


 「すまない。近所の子がそなたをにえとして要望した。安心するがよい。そなたの肝は死んでから頂くとする」


 その言葉に耐え切れなかったのか老人は息を引き取った。コトは贄が死んだのを見届けると老人の胸を貫き、肝をえぐり出す。そしてうまそうに肝を喰う。


 「なかなかの美味」


 食した後にえぐった箇所に手を当てると死体の傷が一切消えた。そしてコトは瞬時に消えた。

 このありさまを節穴からそっと見ている人間がいた。

 コトが居なくなるとやがて大声を出した。


 「で、出た~!」

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