世紀末の歩き方 ──後半──

「わかった、なら一緒に行くか。 ただし必ず俺か咲と一緒に行動してくれ。 それを守れるなら……」


「えへへ、ありがとぉ」


 安堵した春風さんは目尻に涙を溜めながら、子供のように笑みを浮かべる。

 そこへ咲が耳打ちをしてきた。


「六花、ほんとに良いの? 絶対足手まといになると思うんだけど」


「そう言うなよ。 今更帰すのもそれはそれで心配だし、このまま一緒に居た方が面倒無いだろ。 それに、一人で待たせるのも可哀想じゃないか?」


「なにそれ、なんかムカつく」


 咲は苛ついた様子で呟き、壁にもたれ掛かる。

 恐らく春風さんへジェラシーを感じているのだろう。

 腕組みをしながら爪先でゴスゴス地面を蹴っている。

 昔からこういうとこあるからな、咲は。

 他の友達を優先すると引きこもったり。

 だがそんな幼馴染みも18歳になってそれなりに成長しているようで。


「はぁ……わかったわよ。 勝手にすればいいじゃない。 どうなってもわたしは知らないからね」


「咲ちゃん……。 うぅ……咲ちゃんもありがとね……。 迷惑かけないように頑張るよぉ……うぅぅ……」


「なんでいちいち泣くかなー。 わたし、女だからってすぐ泣く女はだいっきらい……」


 なんだかんだ仲良くなってきており、何より──


「あ……あー! なにすんのよ、信じらんない! わたしの服で……! わたしの服で、鼻を、かむな! 離して! 離しな……さいよっ!」


「ずびー!」


「……いやぁぁぁ! わたしの服が鼻水まみれにぃぃ! こいつほんとに嫌いなんだけどぉ!」


 そうでもなかった。






「車を使って……」


「魔獣を誘き寄せる?」


 俺が提案した作戦はとてもシンプル。

 なんの捻りもない囮作戦だ。

 ただし囮にするのは咲じゃない。

 道路の数十メートル先に止まっている車にその役目を担って貰う。


「ああ、そうだ。 さっき話したあの車を使ってな」


「うーん、そうは言ってもどう使うの? わたしも六花も車の運転なんて出来ないじゃん。 この女ならともかく」


「え……私!? む、ムリムリムリ! 辿り着く前に見つかっちゃうよぉ!」


 いや、春風さんには期待してないから。  途中で転けちゃいそうだし。


「運転はしないから。 代わりに車のセキュリティを利用しようと思う」


「セキュリティ…………あっ、もしかしてゾンビ映画でよくあるアレ?」


 流石は17年来の幼馴染み。 

 寝る時以外の殆んど時間は一緒に生活していただけはある。


「アレ……?」


 もう一人はまったく解っていなさそうだが。


「アレって、なに?」


 春風さんの問いかけに俺と咲は目を合わす。

 そしてフッと同時に笑ったあと、俺達は合わせてこう言った。


「「車の警報器による誘き寄せ作戦だよ」」


 そう……アレとは、ゾンビ映画やゲームでありがちなアレ。

 車の警報器をわざと作動させてゾンビを移動させるお約束の手段ってやつだ。

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