救いの無いこの世界で ──3──

「そういうなよ、咲。 折角生存者見つけたのに」


「だって~」


「君、咲ちゃんって言うんだね! これからよろしくね、咲ちゃん!」


 強いなこの人!

 あれだけ拒否されたにも関わらず、春風さんは咲とも握手をする。

 確かに空気は読めていないが、咲にはこれくらい強引な方が良いのかも。

 なにげに俺以外には当たり強いからな。


「あー、はいはい。 よろしくよろしくー。 わたしはよろしくするつもりないけど」


「えへへ、こんな可愛い子と仲良くなれて嬉しいなぁ」


 と、なかなか前途多難な二人に苦笑を浮かべていた最中の事。

 自動音声が流れてきた。


「まもなく東京駅ー、東京駅ー。 Aトレインが間もなく到着いたします。 黄線から離れていただきますよう……」


「おっ、来たか。 おい、二人ともそろそろやめろよ。 電車が…………なんだこの変な音」


 アナウンスを聞いていると、線路の暗がりから金属が擦れる音が聞こえてきた。

 しかもその音は段々大きくなってきており、俺の嫌な予感も益々……。


「…………ああくそ、まずい! お前ら、逃げろ!」


「だーかーらー! おばさんに可愛いとか言われてもなんも嬉しくないから! わたしは六花にだけ可愛いって…………どしたの、六花。 いきなり叫んで」


「逃げろ……って、なにから? というか、この音なんなのかな」


 二人にも一応聞こえてはいるようだが、この音の意味を理解しておらず、ボーッとしている。

 そこで俺は、このままでは取り返しが付かなくなる、と。


「すまん、二人とも! ちょっと我慢してくれ!」


「きゃっ!」


「うわわ!」

 

 二人を壁の死角に押し倒した。


「いたた~! 六花、強引すぎ! こういうのはベッドの上で……!」


「ええっ! もしかして、私もエッチな目に!? だ、ダメですよぉ六花さん。 まだ出会ったばかりなのに、早すぎますぅ。 こういうのは、もっとお互いをよく知ってから……」


「バカか、お前ら! 今それどころじゃないんだよ! あれ見てみろ!」


 俺は二人の胸ぐらを掴み、壁から出ないよう線路を見せる。


「うわっ……! もうなんなのさ…………おおぅ」


「ふぐぅ! もうなんなんですか…………ひぇ」


 それを見た途端、二人の顔色が真っ青になっていった。


「……うそ……嘘うそウソ! 冗談でしょ! 流石にあれはヤバイって、六花! 死んじゃう! 今度こそ死ぬ!」


「ひいいいん! もうダメなんだぁ! 私ここでやっぱり死ぬんだぁ! 死にたくないよぉ、うわーん!」


「だーかーらー、さっきから言ってんだろうが! ヤバイってええええ!」


 俺は再度二人を押し倒し、守るよう覆い被さる。

 線路の向こう側から来ているあれ。

 車輪から火花を散らし、鉄のひしゃげた音を撒き散らすあれから守る為。

 脱線して突っ込んで来ている電車から二人を守る為には、こうするしかなかったのだ。


「ああもう、こんなんばっかだな本当に! 恨むぞ、神様よぉっ!」


「「きゃああああ!」」

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