救いの無いこの世界で ──2──
「……取り敢えず運行状況を調べてみるか。 電光掲示板も真っ暗だから、難航はしそうだが」
「無人車両走ってると良いなぁ」
期待半分、諦め半分。
あまり希望を持たず、俺達はホームを見て回る事にした。
「ふむ、一応走ってはいるみたいだな」
目を付けたのは張り出してある電車のタイムスケジュールではなく、駅員室の運行パネルだ。
見てみると点滅している明かりが徐々にこちらへと近づいてきていた。
「あと二駅か。 これなら乗れそうだ」
「ならちょっと待とっか」
時間は恐らく15分程度。
大量殺人からゴスペルとの戦闘に、ミカエルとの負け戦からの逃走と、ここまでの行軍で流石に疲れが足に現れてきている。
そこで俺達は電車が来るまで休憩をとろうと、自販機に硬貨を入れた。
「ほら、咲。 カフェオレだったよな」
「さっすがー! よくわかってるー!」
覚えていてくれたのが余程嬉しかったのか、咲はニコニコしながら一口含む。
「六花、あそこで座ろうよ」
咲が指差したのはホームに横並びで置かれた簡素な椅子。
とはいえ、田舎ではまず見ないちゃんと椅子なので少し新鮮だ。
その席に座り、待つ事十分。
ふと咲があの話を振ってきた。
「そういえば、一つ訊きたいんだけど良い? ミカエルって天使が言ってた、世界が滅ぶのを知ってた話についてなんだけど……。 あれってほんとにほんとなの?」
いつか訊かれるとは覚悟していたものの、いざ問われると心がざわつく。
が、ここで嘘をついても仕方ないと、俺はゆっくり頷いた。
「本当だ。 三日前にミカエルから話を訊いててな。 すまん、言わなくて。 軽蔑したか?」
「んーん、軽蔑なんかしないよ。 相談はして欲しかったけどね」
うぐっ。
「それも含めて悪かった」
「……ふぅ、もう良いよ。 だいたいわかったし。 それに……訊いててもどうしようも無かったと思うしね、こんな事。 というか、そんな話多分信じなかったかも」
もしかしたらそれも話さなかった理由の一つだったのかもしれない。
信じてもらえなかったらツラいから。
「でも今度からはちゃんと相談してね。 わたしも一緒に考えるから」
「咲……」
こんな時だというのに、俺と咲は指を絡ませ握り合う。
いや、逆か。
こんな世界になってしまったからこそ、お互い寄り添い合いたいのだ。
自分達が抱えてしまった様々な問題から目を逸らしたくて。
そしてようやく通じ合った心をもっと通わせたくて。
「六花……」
俺達は自然と引き合うようにキスを────
「え……嘘。 もしかして、生きてる人!? やっと生きてる人に会えた~! よかったぁー!」
冗談だろ。
「は? おいおい、マジかよ! 咲、キスは後だ! あそこ見てみろ!」
「わかってるよぉ、タイミング悪いなぁ。 良い報せではあるけどさー」
まさか生きている人が居るとは思わず、俺達は一旦キスをお預けし、その人物の元へと駆け出した。
「な、なんかごめんね。 邪魔しちゃったかな。 でも気づいたらこんなだし、訳がわからなくて~! ふえーん!」
トイレから出てきたのは年若い女性。
服装からしてOLだろうか。
桃色のショートヘアーをミニポニーテールにしている可愛らしい人だ。
めっちゃ泣いてる。
「いや、邪魔とかじゃあ……。 俺達も生存者を探してて。 なあ、咲」
「まあねー。 邪魔されたのはほんとだけどー」
お前、そこまで言わなくても。
よっぽどキスをしたかったのか。
男冥利に尽きるってもんだが、このギスギス空間は嫌。
「ごべんねえ! 空気読まなぐでぇ! 上司にもよぐおごられでだんだよぉ! お前はすぐ泣くし空気読まないから、一緒に仕事じだぐないっでぇ! ふええん!」
「あっ! ちょっと俺の服で涙拭かないで! ……おいいいっ、拭くなぁっ! ちょ、離せや! 離せぇぇい!」
「なんなの、この人。 こんな人が生存者とか嘘でしょ」
なかなか辛辣な言い方だが気持ちはわかる。
生き延びていた人を見つけられたのは嬉しいが、この人こんなんでこの先大丈夫なのかと、とても心配になる。
「ああもう、落ち着いてくれって! ほら、深呼吸。 もう大丈夫だから落ち着こうか、置いていかないから」
「うん……ごめんね。 ちょっと落ち着いた……」
「女の子なら誰にでも優しいよね、六花ってー。 はんっ」
ヤキモチ焼かれるのは嬉しいが、今は後にして欲しい。
「君、六花くんって言うんだ。 私は
春風さんは自己紹介すると徐に手を握ってきた。
いきなりなのもあるが、咲以外の女性に触れた事がないのでちょっとドキマギ。
「あ、ああ……よろしく」
「わたし、こういういかにもな女子女子してる女嫌いなんだけど」
同族嫌悪かな。
お前も大概だぞ、鏡見て。
ほら、そこに鏡あるから。
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