逃走 ──後半──
「そうそう、シンプルに行こうよ! んで、もう一つシンプルに行かない?」
咲はそう言いながら、神の柱とは反対方向を指差す。
彼女が指したのは公園の入り口だ。
「一旦逃げた方が良いと思うんだよね。 戻ってきたらそれこそヤバいし」
「咲、お前って奴はほんと…………天才か? それ採用」
俺の幼馴染みはいざと言う時、本当に頼りになる。
ただ惜しむらくは……。
「ふへっ、困ったなぁ。 可愛い上に頭が切れるとか、完璧にもほどがあるよね。 最高かよ、わたし! これだから絶世の美少女は…………あれ、六花なんで無視するの? おーい……おーいってばぁ! ……もおおおお! なんで勝手に行っちゃうんだよぉ! 待ってよ、待ってってばー!」
すぐ調子に乗る性格じゃなかったら尚良いんだがな。
「うんわぁ、どちゃくそ死体だらけ」
「お前、よく平気だな……。 俺もう吐きそう……」
公園を出てから、俺達は直ぐ様話し合った。
内容はもちろん今後の方針についてだ。
出た案は幾つかあったが、重要と思われる物をひとまずピックアップ。
生存者の捜索、家族の生存確認。
そして情報の入手の三つだ。
俺達が真っ先に選んだのは情報の入手である。
これはテレビやネットを使えばすぐになんとでもなると思ったからだ。
だが実際にやってみると、残念無念。
電気はまだ死んでいない為使えはしたものの、SNSの更新は一切無し。
テレビは番組を変えても画面は白いまま。
電話も通じない、と何一つとして得られるものはなかった。
そこで俺達は、最も気にかかっている家族の生存確認を優先し、東京駅へと向かうことにしたのである。
「あそこが東京駅かな。 広そうだなー」
俺達の足音以外は無音の東京都内。
ほんの数時間前ではあり得ない静けさの大都会を、死体を避けながら歩いていると、遠方に横に大きい歴史感ある建物が見えてきた。
間違いない。
あの一見したらホテルにしか見えない建物こそが、かの東京駅だ。
「そういえばここまで来といて今更なんだけど、電車って走ってるのかな。 ここに来るまで生きてる人、一人見なかったし、動いてない気がするんだけど」
それは俺も脳裏によぎったが、一応希望はある。
この間テレビで得た情報が確かなら。
「いや、行ってみないと絶対とは言えないけど多分大丈夫だ」
「どして?」
「先週ニュースでやっててな。 前から噂されてたAI制御の電車が、先月から運行開始したんだとよ。 だから乗れる可能性がある」
そう自信ありげに言ってやると、
「ほんと! ほんとに!? そっか、じゃあ乗れるんだね!」
咲は太陽のような明るい笑顔で走り出した。
「なら早くいこうよ! お母さん達に会いに!」
軽い足取りで、静まり返る駅へと。
人が支配する時代の終焉を迎え、役目を終えた建物の合間を縫って。
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