ミカエル=エスカリヴォルグ ──前半──

「誰、あの天使。 六花は知ってるの?」


「ああ……まあな。 なにしろ俺を選ばれし者とか言って、連れていこうとした神の遣いだからな。 ちなみに、人類を滅ぼすって言っていたのもあいつな」

 

「えっ! あの人が! そ、そうなんだ……」


 指を指されたのがよっぽど嫌だったのか、ミカエルは俺を睨み付けてきた。

 機嫌悪そう。

 ……元からあんな感じだった気もするが。


「ミカエル様、ありがとうございます。 よもや既にあそこまでの領域に足を踏み入れているとは思わず……」


「構わん。 声天仕の筆頭たる貴様は計画の要だ。 下がるがよい、後は私が相手をしよう」


 仲間にはめっぽう優しいミカエルは微笑を浮かべ、剣を作り出す。

 そんな彼女に恭しく頭を下げた天使は、亀裂に飛んでいくが……。


「承知しました、ではわたくしは先に奏響塔カルツォンに戻っております。 救済楽団カンタービレと今後の方針を練りますので。 ……ところでミカエル様。 人類は後いかほどで浄化完了となりますか?」


 ミカエルの隣を通りすぎる際、一瞬止まって物騒な事を言い出した。

 流石に全人類が全滅はしていないだろう。

 地球上には何十億人という人が居るのだ。

 たった一回の歌で、それだけの大量殺人が出来る筈が……。


「正確な数値は割り出している最中だが、おおよそ八割は浄化出来たと推測している」


「は、八割だと!?」


 あり得ない。

 たった一時間未満で八割だなんて。

 どれだけの数の人間が居ると思ってるんだ。

 

「予測よりも少ないですね。 過去、最も生き残ったのではないでしょうか」


「うむ、ゆえに調整局タクトも困惑している。 本来ならば九割以上は救済する予定だったのでな。 睡眠をとっていた者が予想よりも多く、神語ロゴスワードで脳に干渉しきれなかった者が一割と少し。 残る過半数の者は、人間独自が産み出した音楽が干渉を阻害したのが理由だという話だ」


「なるほど……それで二割も。 神語による脳波過剰増幅を邪魔されたのなら、仕方の無い事でしょう。 なればそれも課題として楽団に持ち帰らせて貰います。 また後程お会いしましょう、ミカエル様」


「ああ」


 ミカエルが小さく頷くと、天使はこちらを一瞥し、そのまま亀裂へと侵入。

 何処かへと姿を眩ました。

 

「ゴスペルめは行ったか。 ではこれより粛清を開始する。 が、貴様らはここで待機していろ。 こやつらは私自ら粛清する、下がっているが良い」


 続いてミカエルは、従者らしき数多の天使に何故かそんな指示を送る。

 彼女らは意思無き人形の様なものなのだろうか。

 

「御意に」


 ミカエルの指示になんの感情も表さない天使達は、何食わぬ様子で後ろに下がっていく。

 そして最後の一人が下がった直後。


「待たせたな、舞鶴六花。 折角の再会だが貴様は我々にとって不穏分子だ。 よってここで始末させて貰う。 【神々の譜面ディバインズコード=光剣ハ終幕ヲ彩ル《エクスカリバーエクステンション》】」


 振り上げた剣を合図に、光で創られた十二本の剣が出現。


「ッ!」


「いぃっ!」


 ミカエルが握る剣を振り下ろすと同時に、光の剣がまるで矢の様に降りかかってきた。


「くそっ! 応戦するぞ、咲! 【リフレクション】!」


「う、うん! 上段……回し蹴り!」


 俺と咲は、今出来うる最大の自衛手段で対抗しようと試みる。

 だが結果は見るも無惨。


「うおおおお! ……なっ!」


「うぐぅっ!」


 剣を一本、二本、三本と受け止めたリフレクションは粉々に。

 咲の回し蹴りも弾かれ、地面に激突した剣が巻き起こした爆発により、二人して数メートル吹き飛ばされてしまった。


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