第2話 祭り前の出来事

 雀の鳴き声が聞こえてくる中、私は目覚める。

 当然目の前にはまだ寝ているはなびが居る。

 その寝顔を見ていると、胸が苦しくなる。

 何故だろう。

 二日経っても未だに理解できない。

 そうして、はなびも目覚める。

 「ん……」

 私と目が合った。

 数秒間、ずっと私とはなびは見つめ合ったまま。

 そして

「きゃっ!?」

 と、寝ぼけていたはなびは、完全に目が覚め、後ずさる。

「おはよう。はなび」

「お、おはよう。なつ」

 どういう状況なのか理解できないはなびは、辺りをキョロキョロと見回す。

「あ〜ここ、私の部屋。昨日縁側で寝ていたからここまで運んだんだ」

「私が……きのう……」

 昨日の事を思い出したはなびは、耳まで真っ赤に染まった。

「私、子どもみたい……恥ずかしい……」

 恥ずかしさのあまり顔を布団で隠すはなび。

「しかもなつと添い寝って……まだ心の準備が……」

 どんどんと声のボリュームが小さくなるはなび。

 こんなに恥ずかしがるはなびは、初めて見た。

 美麗な顔が照れ顔になるってこんなに可愛いんだね。

「な、何か変な事、した?」

「何もしてないよ。ただじっと見つめていただけ」

「そ、それでも恥ずかしいよ」

 はなびの顔が更に真っ赤に染まる。

 いつ見ても可愛いな。

 って見惚れてる場合じゃない。

 私は、壁時計を見て現在時刻を確認する。

 現在十時三十分。

 もうこんな時間なのか。

 私は、パジャマから普段着に着替え、ワンピース姿の照れ顔のはなびを連れてリビングに行く。

「お母さん、おはよう」

「お、おはようございます」

「やっと起きたのね。おはよう。ってはなびちゃんどうしたの? その顔」

「な、なんでもない……です」

「あんた、何したの?」

「別に変な事してないよ」

「ほんとに? 怪しいわね」

「この目を見てよ! 変な事してない純粋な目だよ!」

「いや、見ても何も昨日、はなびちゃんと添い寝したんでしょ?」

「ギクッ」

「友達と仲良くするのはお母さんとして嬉しいけど節度を弁えなさい」

「え~? だってはなび、好きだもん」

「その"好き"って、友達として?」

「それはもちろん友達としての"好き"だよ」

「はぁ……。まぁ、同性の恋は認めるし許せるけど……はなびちゃんはなつのこと、好き?」

お母さんの質問に最初は返答を渋っていたが、照れ顔からいつもの美麗な顔に戻って

「はい。好きですよ。友達として、そして……私を好きでいてくれる友達として好きです」

と、はなびは胸に手を当てながら言った。

はなび……私のこと、そんな風に思ってたんだ……。

更に私の胸はぎゅっと苦しくなった。

これは、何かの病気なのだろうか。

でもそんなに痛くはない。

ただ、はなびのことを思うだけで胸が苦しくなる。

初めての感情だから何なのか分からない。

「そう……。なら今日の祭りでバシッと決めなさい」

 お母さんは、私の背中を勢い良く叩く。

「お母さん、痛いよ〜」

「まあ、これだけやれば勇気でるでしょ」

 どうやらお母さんは、私とはなびの関係性を応援しているようだ。

「うん、ありがとお母さん。勇気出たよ」

「頑張んなさい」

 そう言ってお母さんは、もう一度私の背中を叩く。

「だから痛いって!」

「喝を入れるためよ」

 私とお母さんのやり取りを見てたはなびは、終始ポカンとする。

「祭りって?」

「そういえば、はなびちゃん知らなかったわね」

「祭りっていうのは、毎年お盆に開催される祭りのことだよ」

「その祭りって、今日あるんですか?」

「ええ。お盆だからね」

「私は二年ぶりだから楽しみなんだ〜」

「私も行っていいんですか?」

「当たり前じゃない。二人で楽しんできなさい」

「は、はい!!」

「一緒に楽しもうね〜」

「うん!!」

 これではなびと祭りに行く約束をした。

「それで、祭りは何時から始まるの?」

「祭りは午後一時から始まるよ」

 神社の屋台は午後一時からやっていて、本格的に人が集まるのは午後四時からだ。

 午後四時からの屋台は人混みが凄いので、私たちは午後一時に祭りに行く。

 そして辺りが暗くなったら盆踊りや花火が始まる。

 私は、花火がよく見える穴場スポットに、はなびを連れて行き、そこで私の本音を言う予定だ。

 私がはなびの事をどう思っているのか、そしてはなびは私の事をどう思っているのかを聞く。

「祭りに行く前に風呂に入ったら?」

 と、お母さんが提案する。

「そうだよ! はなび、昨日お風呂に入ってないでしょ?」

「確かに。私、なつとお風呂に入りたかったんだ」

「私もはなびとお風呂に入りたかった! 昨日はシャワー浴びただけだからお風呂入ろう〜」

「うん!」

 そうして私たちは、早めの風呂に入る事になった。



 現在、脱衣所。

「はなびと一緒の祭りすごい楽しみ!!」

「私も。友達と初めての祭り……」

 はなびもウキウキしているのかいつもの美麗な顔が綻んだ。

「えいっ」

 嬉しそうなはなびを見て私は、ワンピースを脱ぐ彼女に後ろから抱きつく。

「ちょっとなつ! 何、急に!?」

「えへへ。いいでしょ〜」

「まあ別にいいけど」

 はなびの肌はとてもすべすべで柔らかく触り心地が良い。

「はなびの体、羨ましいな〜」

 私は、はなびの胸を揉みながら羨ましがる。

「んっ胸まで触るとは聞いてないっ!」

 はなびは、声を我慢しながら抵抗する。

「え〜? 女の子同士だからいいでしょ〜」

「もうっ! だったら……」

 次にはなびは、私の胸を揉む。

「私、胸が弱点なんだからっ」

 それを聞いたはなびは、下から上へ胸を揉む。

「んっ///」

 はなびの胸揉みに我慢できなくなった私は思わず声を漏らす。

「なつも可愛い声出すのね」

 はなびは、いたずらっぽい笑みで私の耳元で囁く。

「く、くすぐったいっ!」

 全身に身震いが起こる。

「ふふっさっきの仕返し」

 はなびの行動は段々とエスカレートしていく。

 でもそんなに嫌ではなかった。

「は、早くお風呂に入るよ……」

「もっとなつの体触りたかったのにな」

「何それ。お風呂でも私の体触れるでしょ?」

「確かに! じゃあ、やめるね」

 と、はなびは手を止めワンピースを脱ぎ始める。

ハァハァ……。後で仕返ししてやるんだから!!



現在、お風呂場。

「よし、じゃあ今からはなびの体を洗うよ〜!」

 浴槽に浸かっていた私たちは浴槽から出て、私は、はなびを椅子に座らせる。

「優しく洗うからね〜」

「んっ」

 私は泡が付いたタオルを使って、はなびの体を優しく優しく洗っていく。

 その間、はなびは声を我慢していた。

 とても可愛らしい。

 しかし何故か、はなびの体はさっきと比べて薄くなっていた。

「はい、終わりー」

「ハアハア……むっやったなー!」

 はなびは、私が持っていたタオルを奪い、私の体を洗っていく。

「ちょっ、ちょっと! くすぐったいっ!」

 はなびは、私の体を念入りにデリケートな部分まで洗っていく。

「そ、そこは自分で洗うって!」

「私が洗いたいから洗うの」

 そんな事を言いつつ、真剣な眼差しで洗い続けていく。

 はなびは、一体どんな気持ちで洗っているのだろうか。

 私の脳内がピンク色に染まる中、はなびは洗い終わり、シャワーで洗い流していく。

「どう? 私も負けてないでしょ?」

 はなびは、勝ち誇った表情で言った。

 どうやら私が背中拭きのプロと言ったからはなびも負けずに私の体を洗っていたらしい。

「私は、体洗いのプロって言われてるからね!」

「何それ。ほんとはなびは負けず嫌いだな〜」

 そうして体を洗い終わった私たちは髪も洗い終わり、再び浴槽に浸かり、体を癒す。

「友達とお風呂ってこんなに楽しいんだね」

「当たり前だよ〜。楽しいに決まってる」

 そう、本当に友達のはなびと居るのが楽しいのだ。

 しかし、昨日始めて会った女の子なのにこんなに仲良くなれるものなのか。

 私がすぐに人と打ち解けるのは自覚してるけど、はなび以上に仲良くなった友達はいない。

 もしかしてはなびの事を想うだけで胸が苦しくなるのと何か関係があるのかもしれない。

 今の私には分からないが、祭りのフィナーレである花火で思いの丈をぶつけたら分かるのかもしれない。

 定かではない。だが、一つだけ言える事がある。

 それは、私とはなびの出会いはまさしく運命、という事。

 そんな事を思いながら浸かっていると、はなびの体が段々と薄くなっていく。

 今まで気にしてなかったけど、やっぱり気になる。

 はなびの想い。はなびの過去。そして、はなびの正体。

 全部、祭りで分かるのかな。

 気になって気になって仕方がないのだ。

 そう思った私は、浴槽から出て

「長風呂は危ないしそろそろ出よう」

 と、はなびも浴槽から出る事を勧める。

 はなびは、「うん」と頷き、浴槽から出る。

 そして私たちはタオルで体を拭き、ドライヤーで髪を乾かし、祭りで着ていく浴衣に着替える。

 サラサラヘアーの黒髪ロングのはなびは、浴衣と相性抜群だ。

 同性の私もつい見惚れてしまう美貌。

 私は、この子と一緒に屋台巡りするのか、と期待に胸を踊らせる。

 二年ぶりの祭りは、決して忘れられない貴重な思い出になるだろう。



「行ってきまーす!」

「い、行ってきます」

 祭りに行く準備を済ませた私たちは、お母さんに伝え、玄関扉を開ける。

「行ってらっしゃい。思い切り楽しんできなさい」

 と、お母さんはまるで私の背中を叩くように後押しをした。

 お母さん、頑張るよ。

 私のこの気持ち、精一杯はなびに伝えるよ。

「じゃあ、行くよ」

「うん」



 そうして私たちは、祭りの会場である神社に行く事に。

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