夏恋花火は今日も舞う

結木 夕日

第1話 出会い

 高校卒業と共に上京し、東京にある大学経済学部に通う二年生の私は、二年ぶりに実家に帰省する事になった。

「暑いな〜」

 私は現在、無人駅で電車を待っている。

 近くに日陰がないので、私は強い日差しにより蒸し暑くなっている駅で薄着のワイシャツと短パン姿で自販機で買った冷たいお茶をおでこに当てながら待っていた。

 早く涼みたいなと思っていると、突然強風が吹き込んでくる。

 あまりの強風に目を瞑った私は、暫しの涼みを感じる。

 強風が止み、目を開けると、サラサラヘアーの黒髪ロングの白いワンピースを着た儚げな少女が目に入る。

 その瞬間、私の胸はぎゅっと苦しくなった。

 これに名前を付けるとしたら一体何だろう。

 今の私にはさっぱり分からなかった。

 あの子も電車待っているのかな……。

 そう思い、人と話すのが好きな私は思わず彼女に話し掛ける。

「ねえ、どうしたの?」

 ビクッと肩を震わせた少女は、私の顔を見て驚いている。

 当然の反応だ。

 しかしすぐに少女は調子を戻したのか美麗な顔に戻って

「あなたみたいな人を待ってたの」

 と、長い髪を靡かせて意味深なことを言った。

「それって、どういう──」

 言葉の意味が理解できない私に対して少女は

「あなた、名前は?」

 と、質問してきた。

「えっ? わ、私の名前は、夏凪なつ。よろしくね」

「なつ…… ふふっいい名前ね。私は、はなび。よろしく」

「はなび? あ、お互い夏に関係する名前じゃん! ねねっ友達にならない?」

 私は、はなびという少女と仲良くなりたい……。

 きっと楽しいと心の中で思った。

「ともだち……?」

「そう、友達!」

 私は、顔を近付けて前のめりの状態で、はなびの手を両手で握る。

 するとはなびは、

「うん、友達。いいわね」

 と、微笑みながら言った。

「やったー!!」

 私は、嬉しさのあまりジャンプをする。

 はなびの手を握った状態なので、はなびもジャンプをする。

「あははっ」

「ふふふっ」

 今まで友達になった人は数多くいるけど、何故か、はなびだけ友達の意味が違っているように感じた。

 この瞬間はとても気持ちが高揚する。


 

 電車に乗ること数分。私の実家に着いた。

「ねえ……本当に泊まっていいの?」

「いいよー、だって私たち友達なんだから」

 電車ではなびと乗っている時、私は泊まっていいよとはなびに言ったのだ。

「でも……さすがに家にお邪魔するのは……」

「全然いいよ! むしろ大歓迎! さあ、入って入って」

 私は、やや強引に、はなびを家に入らせる。

「たっだいまー!」

「お、お邪魔します」

 二人の声に反応したのか、奥からお母さんが出てくる。

「あら、もう帰ってきたの? 意外と早いわね」

「うん。電車が来た時間が早かったからね」

「そうなのね。それで、こちらのかわいらしい子は?」

「駅で拾ってきた」

「捨て猫みたいに言わないでよ」

「は、はじめまして……はなびと申します。よろしくお願いします」

「律儀な子ね」

「でしょー!」

「なんであんたが自慢気なのよ」

「ふふっ」

 はなびは、口を押さえて微笑む。

「どうしたの?」

「なつとお母さんのやり取りが面白くて……つい」

「そうなんだっ やっぱりはなびは笑った顔かわいいね」

 そう言うと、はなびは顔を隠すように

「あ、ありがと……」

 と、照れて言った。

「それで、はなびちゃんもここに泊まるの?」

「そうそう。友達になったからね〜」

「あの……よろしいでしょうか?」

 お母さんは、悩む仕草をして数秒後。

「せっかくなつが拾った友達だから泊まっていきなさい」

「やったー!」

「ほ、本当ですか……?」

「本当よ。なつが泊まる二日間一緒にね」

「あ、ありがとうございます!」

 これでお母さんの許可を貰ったところで私とはなびは泊まる事に。



「私、荷物を部屋に置いてくるねー」

「うん」

 私は、はなびと泊まる部屋に自分の荷物を置く。

「よいしょっと」

 大荷物なので、かなりの力を要する。

「ふ〜」

 汗ばんだおでこを手で拭う。

 田舎の実家なので部屋は畳敷き、障子で二人が泊まれる広さがある。

 この部屋で、はなびと二日間泊まるのか。

 そう思うだけで、気持ちが昂ってくる。

 楽しみだなあ……。

 私は、はなびを待たせてはいけないと思い、すぐに部屋を出てるんるんとスキップしながらはなびの元へ急ぐ。

「おっ待たせ〜!」

「別に待ってないわよ」

「お母さんに言ってないよ〜」

「はいはい」

 そう言い、お母さんは奥に戻っていった。

 私は、はなびの方を向き

「はなび。ねねっ今から近くの川で水浴びしない?」

 と、提案する。

「水浴び?」

「うん! 汗でびしょびしょだから水浴びして涼もうかなって思って」

「いいよ」

「やったー! よし、じゃあ行こう!」

 私は、はなびの手を握り、近くの川に行く事に。



「気持ちいいね〜」

「な、何故服を脱いでるの!?」

「だってこの川貸し切りだからつい裸に……」

「恥ずかしいから服を着て!」

「え〜? 女の子同士だから大丈夫だって〜 あ、はなびも服脱いだら?」

「えっ?」

 私は、はなびのワンピースを脱がせようとする。

「私は……いいのっ!」

 必死に抑えるはなびだが、その抵抗も虚しく私はワンピースを脱がせた。

「きゃっ!?」

 かわいらしい声で裸になったはなび。

「あれ? 下着は?」

「……つけてない」

「…………。なんか、ごめん」

「別にいいわよ」

そうして裸のはなびは、もう一度ワンピースを着る。

「え〜? せっかく脱がせたのに〜」

「恥ずかしいって言ってるでしょ。私は服着たまま水浴びするの」

「一緒に裸になろうよ〜。開放感あって気持ちいいよ〜」

 私が駄々こねて言っても、はなびはワンピースを着たまま水浴びを始める。

「ん〜。確かに気持ちいいね」

「でしょー!」

 下着をつけていないワンピース姿のはなびは、水で透けてむしろ裸より色気を感じる。

「裸よりそっちの方がエロいじゃん!」

「もしかしてなつ、私をエロい目で見てるの?」

「当たり前じゃん!いいな〜スタイル良くて」

「なつも負けてないよ」

 そう言うはなびは、裸の私をまじまじと見つめる。

 まるで好きな人から熱視線を浴びているような感じがして恥ずかしい。

「どうしたの? 顔赤くなって」

「な、なんでもないっ!!」

 あれ? 私、今、顔赤い?

 私は思わず顔を覆う。

 すると、はなびは

「なつが私をエロい目で見てくるから私も脱ぐわ」

 と、ワンピースを脱ぐ。

 私は、覆った手の隙間から裸のはなびを見る。

「やっと裸になるの?」

「仕方なくよ」

 と、はなびは水浴びを続けた。

 裸になったはなびの姿はまるで妖精の国から訪れた美しい妖精のようだった。

「私も遊ぶー!」

 続けて私も水浴びを始める。

 しかしはなびの姿を見て気付く。

 あれ? はなびの体、なんか透けてない?



 数分間、汗でびしょびしょだった体を水浴びで涼ませた。

「気持ちよかったし楽しかったね〜」

「うん。とてもそう思うわ」

 はなびは、長い髪を靡かせて可愛らしく言った。

 美麗な顔のはなびだが、たまに見せる可愛らしい顔を見て私はドキッとする。

「さ、さて体を拭いて家に帰るよ!」

「タオル、持ってきたの?」

「うん」

 私は、自分のタオルで体を拭く。

 次いではなびもタオルで体を拭く。

「私が背中、拭いてあげようか?」

「あ、それならお願いできるかしら」

「任せて!」

はなびは、私に向かって拭きやすいように背中を向けてくれる。

「じゃあ、今からごしごしするよ~」

「痛くしないでね」

「分かってるって~」

それから私は、タオルで、はなびの背中を拭く。

「どう?」

「とても上手ね」

「でしょー! 背中拭きのプロって言われてるからね!」

「ふふっ何それ」

「あははっ」

この時間は二度と忘れないことだろう。

そして、はなびとの思い出は大切に頭の引き出しに閉まっておこう。

そう、思った。



気温がまだまだ蒸し暑い中、体を拭き終わった私たちは帰路に着く。

「もうすぐ昼ご飯の時間だね。お腹ペコペコだよ~」

「確かにお腹が空いたわね」

二人のお腹の虫が鳴り止まない。

「お母さんが流しそうめんを用意してくれたから急いで帰ろう」

待ちきれない私は、はなびの手を握り急ぎ足で家に帰る。

「たっだいま〜!」

「やっと帰ってきたのね。もう用意できてるわよ」

 目の前には、立派な竹で作った流しそうめんセットが用意されている。

「へえ〜。初めて見た」

 興味津々に流しそうめんセットをまじまじと見つめるはなび。

「流しそうめん見たことないの?」

「空想上の食べ物と思ってた」

「何それ。流しそうめんは実在するよ。私は、ほぼ毎日流しそうめん食べてたから」

「ほぼ毎日って……」

「ここ、近くにコンビニやスーパーとかないから育ててる野菜を使った料理や流しそうめんが多かったかな」

「田舎って感じがしてとても良いと思うわ」

「そうかな〜。都会に上京して分かったけど都会の方が絶対いいよ〜」

「でも田舎は自分探しの旅にぴったりだと思う」

 はなびは、遠くの山を見て言った。

 自分探し……。

 はなびは、その為にここに来たのか。

 はたまた私に会うために来たのか。

 はなびと出会ったあの時に発した彼女の言葉が未だに理解できずにいる。

 心の奥底に靄がかかっているみたいで変な感じがする。

 なんか、モヤモヤする……。

 そんな複雑な感情を押し殺してはなびと一緒にいる。

 私は、はなびと友達以上の関係になりたい。

 これは、おかしな事なのだろうか。

 今の私にはさっぱり分からなかった。

 そんな事を考えていたらはなびが唐突に言った。

「なつと初体験したい」

「えっ!?」

 は、初体験って……。

 驚きを隠せない私に対して、はなびはきょとんと首を傾げる。

「流しそうめん初めてだからなつと体験したいなあって思って」

「あ……そういう事」

「どういう事だと思ったの?」

「べ、別に……なんでもない」

「おかしななつ」

 えっ!? これ、私がおかしいの?

 確かに勘違いした私が悪いけど『初体験』って言葉を言ったはなびも悪いと思う!

「何やってんの。さっさと始めるわよ」

 お母さんの言葉で我に返る。

「う、うん」

 はなびの気持ちは分からないけど今は流しそうめんに集中だ。

 私は、煩悩を捨てようと流しそうめんを夢中になって啜る。

「これが、流しそうめん……」

 初の流しそうめんで感動するはなび。

 そんなにしたかったんだね。

「普通のそうめんだよ」

「いや、普通のそうめんでも流しそうめんだと特別になるのよ」

 と、はなびは目をキラキラと輝かせながらそうめんを啜る。

 大袈裟だなあ……。

 そんな楽しい一時はあっという間に過ぎ去り、辺り一面夕焼け色に染まる。



「もうこんな時間か……」

「早いね」

 私たちは、沈みゆく夕日を見ながら縁側に座っていた。

 夏の涼しい風と共に風鈴が鳴る。

 ミンミンゼミの鳴き声とひぐらしの鳴き声が遠くから聞こえてくる。

 まさに夏の風物詩といった感じだ。

「たまにはこういう雰囲気もいいかもね」

「都会は夜でも騒いでるからね。それと比べて田舎は静か」

 近くに駄菓子屋があるくらいだが、田舎も悪くない。

 都会に染まりきった私にぴったりだ。

「ねねっ流しそうめんの時、自分探しって言ってたけどどういう事?」

 私は、ずっと気になっていた疑問を払拭しようとはなびに質問する。

「…………」

 でも、はなびからの返答がない。

「はなび?」

「まだなつに言う頃合いじゃないから言えない……」

 はなびはそう言い、体育座りで顔を埋める。

「はなび……。分かった。私に言いたくなったらいつでも言ってね」

 何故か怯えているはなびを私は優しく抱きしめる。

「うん……」

 それからはなびは、一言も話さずゆっくりと目を瞑り、眠りについた。

「風邪引くから私の部屋の布団で寝よう」

 私は、はなびをお姫様抱っこで部屋まで連れて行く。

 はなび、意外と軽いな……。

 力に自身がない私でも軽々とお姫様抱っこができた。

 ちゃんと、ご飯食べてるのかな……。

 はなびの体を心配しながら部屋に着き、はなびを布団で寝かせる。

 まるで子どもみたい……。

 見た目では私より年上に見えるけど同い年なんだね。

 でも今のはなびは年下に見える。

 守ってあげたいな……。

 これは、はなびを妹だと思っているのか分からないが、そんな気持ちが芽生えた。

「明日も一緒に遊ぼうね」

 明日は、毎年お盆に開催される祭りがある。

 そこで、はなびと一緒に遊ぼうかなと思っている。

 明日の夜が待ち遠しいな。

 私は、はなびの手を握り、明日の祭りのことを考える。

 とても期待が膨らむ。

 すると、はなびの手が一瞬、透けて見えた。

 気のせいかな……?



 本当は、はなびと夜ご飯を食べてお風呂に入りたかったけど、ぐっすり寝ているから仕方ない。

 私は、寝る前の準備を済ませ、布団で、はなびと一緒に添い寝をする。

 布団が一個しかなかったから添い寝したけどいいかな?

 はなびの美麗な顔が目と鼻の先にあって、すごくドキドキする。

 私の心臓の鼓動がはなびに聞かれないか心配になったが、疲れていて私はすぐに眠りについた。



 明日が、楽しみだ。


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