第46バグ・対決フラウ
女神フラウのプライベート空間。
出雲と、彼に
そしてこちらに気付き、
「こんにちは、水上出雲」
声色からして余裕たっぷりな態度。
こちらの動向だけではなく、思考パターンの何から何までお見通しといった風だ。
「フラウ様。貴女には色々と聞きたいことがあります」
「そうでしょうね。ま、立ち話もなんだし座って頂戴」
彼女が指を鳴らすと、彼女の正面に高級そうなソファが出現した。
出雲は相棒への腕のロックを解き、特に遠慮すること無くソファに座った。
「急に何なんすかもう。全然話についていけないっす」
1人場の空気に置いていかれた天使がぼやく。
「貴女も座りなさいエイル。彼がここに来た理由ならすぐに分かるから」
「そ、そうっすか。フラウ様がそう言うなら」
渋々といった感じでエイルもまた出雲の横に座る。
単細胞の彼女も上司の命令には従わざるを得ない。
「で、話は何?」
「分かってて言ってますよね、それ」
「さぁ、何のことかしら?」
不敵な笑みを浮かべながら、ふてぶてしくとぼける女神。
どうしても自分のペースに持っていこうとする圧力が感じられた。
「じゃあ単刀直入に言います。本当はジャパルヘイムの存続なんてどうでも良いんじゃないですか?」
ひとまず言いたかったことをぶつける。
これには隣で座るエイルが我慢ならなかったのか、相棒に対して反論を返してきた。
「何てこと言うんすか出雲! ジャパルヘイムを作ったのはフラウ様っすよ! そんなことあるわけないじゃないっすか!」
「エイル」
必死にフォローするエイルに対して、フラウが冷たく彼女の名前を呼ぶ。
「はいっす!」
「ちょっと黙ってて貰える?」
「はいっす……」
敬愛する女神の言葉には天使は逆らえない。
相棒は親に叱られた子供のようにシュンとしてしまった。
「どうしてそう思ったのかしら?」
「最初の違和感は俺が案を出した時です」
「へぇ」と女神が呟く。
「自分で考えだした時はあれはとても画期的な案だと思ってました」
「事実そうだったじゃない?」
「そうですね。でも冷静に考えればおかしい。だって、あんな案は誰だって思いつく」
「は?」
天使が間の抜けた声を出す。
しかし出雲は無視して続けた。
「そりゃあ世界を作るなんて偉業、人間達が思いつくのは難しいでしょう。俺が言うのもなんですが、デバッカー達はまだまだ人生経験の浅い若者達ですし」
「……」
「でも貴女や下請けさん達は違う。世界を作れるほどの力を持っている者達なら、世界がおかしくなった時のノウハウを持っているはず。何なら他の神に聞いたっていいんだ」
違和感を煮詰めていけば、今まで何とも思わなかったことでも不自然だと感じることが多くあることに気付く。
「それこそ集まった俺達の世代だってこんなに若くする必要は無い。貴女が日本の神様であっても、若い人間を集める必要は無いですよね? 地形や天候に詳しい人、または論理的な思考の出来る30代、40代に募集を掛けても良かったのでは?」
「ふむふむ」
神が黙って頷く。
表面には出していないが、出雲の目には何故か嬉しそうに見えた。
「時給1250円ってところも、世界の改修に携わるということを考えれば安いぐらいだ」
「それは暗に今の待遇に対して不満を言っているのかしら?」
「いや、全然そんなことは無いですけどね。最初に通帳見た時驚いたくらいですし」
「うふふ、やっぱり変なところで健気ね。貴方」
(褒められているのか馬鹿だと思われているのか)
しかしながら、あまり悪い気はしなかった。
「他に何か言いたいことはある?」
「極めつけはエイルですね」
「私っすか!?」
エイルは叫んだ直後、間髪入れずに両手で口を塞いだ。
どうやら女神に「黙っていて貰える?」と、言われたことを気にしているようだ。
「良いわよ、エイル。今は喋ることを許可する」
上司の承認を受けた天使が口のホールドを解く。
途端、怒涛の勢いで言葉を放ってきた。
「私は何もしてないっすよ! ジャパルヘイムではちゃんと仕事はしてたっすし! あ、ひょっとして出雲の部屋にあった漫画を持ち出したのバレてるっすか! それとも机の中にあった中学生時代のアルバムを見て笑っちゃった件っすかね!?」
(こいつこんなことしてやがったのか!? あとでとっちめてやろう)
自爆した相棒の台詞を無視して話を続ける。
「違う」
「じゃあ何なんすか?」
「お前この前下界に来て家に来たろ? あれは何のためだ?」
「それが一体私と何が関係あるんすかー?」
「いいから答えろ」
「勝手っすねー」と不満を言いつつも天使が答える。
「出雲に今の状況を伝えるためっす」
「わざわざ下界に来てまで? ウィンドウの連絡用メールとかフラウ様の異能とか、もっと簡単な方法はあったんじゃないか?」
「あー、それもそうっすね。確かにフラウ様なら直接頭の中に伝えることも可能っすよ」
エイルがやや上の方を向きながら言う。
おバカな彼女でも不審な点に気付いたようだった。
「じゃあ最後の質問だ。お前を下界に使わせたのは誰だ?」
「フラウ様っす……」
天使が弱々しく言葉を紡ぐ。
彼女はこの間言っていた。
下界に降りる許可はフラウ様から貰っている、と。
裏を返せば、許可を貰わなければ下界に来てはいけないということである。
エイルの上司がフラウである以上、女神が何らかの意図を持って彼女を遣わしたのは明白だった。
「ここでフラウ様。貴女はエイルに命令したんじゃないですか? 『下界に戻った水上出雲に今の状況を伝えてきて頂戴?』と。で、なければ筋が通らない」
「そうね。合っている」
「で、でも、それがジャパルヘイムの存続に興味が無いのと何か関係があるんっすか!!」
テンションが上がりきったエイルが席を立って出雲に問う。
彼女にとって女神フラウは敬愛すべき対象。
それを出雲に問い詰められるのは不本意なのだ。
「しなくてもいいことをさせる。と、くれば何らかの思惑があるということだな」
「思惑って何すか?」
「さあ。それ以降は俺には分からない」
敢えて一拍溜める。
そして、出雲は雇い主の目に注目してゆっくりと丁寧に発した。
「だから教えて頂けませんか? フラウ様が考えていることを」
はっきりと問う。
隣の天使もまた女神へと意識を向けていた。
出雲が質問してから15秒ほどの時が流れた頃だろう。
女神は一瞬にんまりと顔に輝きを作り出すと、すぐに冷静な表情に戻してこう言った。
「貴方達は神が最も恐れるものが何かわかる?」
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