第42バグ・エイルの逆襲
「2日振りに会ったのに何でいきなり頭を絞めるんすかぁ!? 頭おかしいんすか!?」
「そうよ出雲! こんなお人形さんのように可愛い外国のお嬢さんに暴力を振るったりして!! 国際問題になったらどうすんの!」
「そうっす! 土下座するっす!」
「ほらみなさい! 謝りなさい!」
母とのタッグで怒涛の反撃に出てくる馬鹿天使。
母親に気に入られ調子に乗っているのか、味噌汁片手に更に文句をぶつけてきた。
「大体出雲は何時もそうっす! 私をすぐにぼろ絹のように扱って。興味が無くなればすぐポイするのは最低っすよ!」
「まあ出雲!? そんなことをしていたのお前!?」
「そうっす、そうっす。この前なんか(ゾンビに)えっちするのを勧めてきたこともあるんすよ!!」
「出雲っ!? 本当なの!?」
「それにさっきみたいにすぐ叩いてくるっす!」
「お前暴力まで……。母さんは、母さんは悲しいわ。何てお詫びをすれば良いのか」
母親のこちらを見る目つきが現在進行形で変わってきている。
最初はまだ埃を見るような目だったが、今はテイッシュで捕まえた害虫を握り潰す時のような瞳をしていた。
「いやいやこいつ盛ってるだけだから。信用しないで!」
「でも一応──」
更に火に油を注ごうとする天使の口を急いで防ぐ。
確かにそこそこ事実ではあるが、これ以上母親に誤解されるのは不味い。
「あとで美味いラーメン屋連れてってやるから、これ以上話をややこしくするな」
青髪天使の耳に口を近付け、親に聞かれないような声量で言う。
「ほんとっすか!?」
「本当だ本当。だから頼む!」
「仕方ないっすねー」
同意が取れたことにほっとしてエイルから離れる。
ご褒美に釣られたラーメン大好き天使は、すっかりとご機嫌になっていた。
「エイルさん大丈夫? 本当に息子に変なことされてないの?」
(頼むぞエイル。上手くやってくれよ!)
「あ、はい。少し大袈裟に言い過ぎてたっす」
(よし、ナイスだ!!)
「そうなのね、安心したわ。ところで、エイルさんは息子とどういう関係なのかしら?」
頬に手を当てた母が聞いてくる。
エイルはというと、言葉を選んでいるのか人差し指を唇に当てていた。
「エイルさん?」
「あ、すみませんっす。ちょっと考え事をしてたもんで」
(よし! 咄嗟に下手なことを言うよりかは全然良いぞ! 成長したな!)
「そうっすね!」
何か思い付いた少女が左手の手の平に右拳を乗せるモーションを取る。
あまりに不要な行動に、出雲のストレス値がやや上がった。
「
出雲は全力で馬鹿の頭をひっぱたいた。
★
「中々良い店っすねー」
テーブルを挟んだ反対の席。
醤油とんこつラーメン大盛りトッピング全部乗せを1口食べるや否や、エイルはそう言った。
「だろ? 家から近いしそんな高くないしでお勧めの店だ」
「ちょくちょく通わせて貰うっす」
「そんな頻繁に天使が下界に降りてきて良いのかよ」
醤油ラーメンの麺を啜る。
深く濃い味わいが脳に直接響き、口の中が幸せで溢れた。
エイルではないが、久し振りに食べる味は本当に幸福で胸が一杯だった。
「フラウ様の許可は貰ってるっす」
「そ、そうか。てかお前、母さんの飯も食ったのに良くそんなに入るな」
この店に来る前、この大馬鹿天使は出雲家の夜ご飯を平らげているのだ。
この細い身体の何処に収納されているか全く分からなかった。
「ラーメンは別腹っすよ」
「化け物め」
「失礼な。私は天使っす」
彼女と話していると、唐突に出雲は時が止まったかのような感覚を覚えた。
そして数秒後。
店内BGMがバラードから軽快なポップに変わったタイミングで、何故か自然と頬が緩んだ。
2日振りの相方とのやり取りが心底楽しかったのだ。
「あはは、何だか懐かしいっすね。別れたのはつい最近なのに」
「そうだな。俺も同じこと思ったよ」
その言葉を皮切りに、僅かにしこりが残っていた雰囲気が一気に柔らかくなる。
それからラーメンを食べ終えるまで会話が発生することは無かった。
だが、心地良い空気のおかげで、気まずいどころかむしろ気持ち良かった。
「それじゃあ、そろそろ本題に入ろうぜ」
どんぶりの上に箸を置いてエイルの目を見る。
「わざわざ家にまで来たんだから何かあるんだろ?」
「そうっすね」
エイルもまたこちらを見据えてくる。
彼女の目は真剣そのものだった。
「残念ながらジャパルヘイムは初期化リセットすることになったっす」
「初期化リセット?」
聞き覚えの無い単語。
しかしながら、ロクでもないことだけは分かった。
「完全な初期状態に戻すってことっすよ」
「つまり俺達がやったことも全て?」
「そうっすね。デバッグする前に戻るっす」
「マジか……」
自分達のやってきたことが無に帰す。
しかも、話はそれで終わらない。
同じデバッグ作業をしてしまえばまた更にバグるのだ。事態は出雲が想像しているよりも遥かに深刻だ。
「だから考えるっすよ!」
エイルがお冷のコップをテーブルに叩き付ける。
「考えるって何を?」
「そんなの勿論決まってるじゃないっすか!」
何故か店員呼び出しボタンを押してから、エイルはにんまりと笑って口を開いた。
「私達の仕事が無駄にならないようにする方法っすよ!」
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