第31バグ・終わりとこれから
「これぐらいで良いっすよ。ありがとうっす!」
エイルの感謝を受け取るや否や子供達が穴から離れる。
落とし穴と呼ぶには小さな穴だったが、例の物を埋めるには充分過ぎる大きさだった。
「はい出雲」
「ん」
エイルから瓶を受け取って穴の中へ放り込む。
あまりにも適当な捨て方に、自分でも自然と笑いが込み上げてきた。
「こういうの性格出るっすよね」
「良いんだよこれで。よし、埋めてくれ」
今度は出雲の号令で少年少女達が穴に向かって土を入れていく。
6人で行ってくれたこともあり、小さな穴は瞬く間に地面へと同化した。
「本当に良かったんすか? バグの発生原因が分かんないなら食べて消滅させた方が良かったんじゃ」
「無くしたことでまたどっかで生まれても困るだろ。それならリセットを迎える明日まで隠しておいた方が良いさ」
「ただ、それはそれで普通に他所で発生する可能性もあるっすが。ま、その時はその時っすね」
あの事件から2週間以上。
彼が残した村の子供達を手助けしながら色々試行錯誤してみたが、結局マヨネーズのバグの全容は掴めなかった。
分かっていることは主に4つ。
・食べれば消滅する
・調味料を販売する、もしくは強奪すれば自己増殖する
・増殖したマヨネーズの品質や消費期限は、オリジナルが作られた時の状態と同じになる
・人殺しの経験のある人物が服用した場合即死する
エイルと出雲が4番目に引っ掛からなかったのは、残虐係でいた頃の設定がリセットされているからだろう。
このマヨネーズの存在は危険だ。
食用から金稼ぎ、更に殺人まで容易に出来る。
(バグだらけの世界でも、こんなものは存在していいわけがないよな)
「これの調査と村の立て直しには随分時間を取られたっすね。今月全然バグを見つけられてないっすよ」
「そうなんだよなー。今から報告書を書くのが
「代わりに書いときましょうか?」
「フラウ様を怒らせたくないから遠慮しとく」
「馬鹿にしてます?」
「してるけど」
出雲が淡々と返答した途端、エイルがきーきー喚きながらぽこぽこと叩いてきた。
その光景が愉快だったのか、作業を手伝ってくれていた子供達の顔には笑顔の花が咲いていた。
(家族を失った悲しみも時間が癒してくれているみたいだな。ま、そんな思いですら明日にはリセットされてしまうんだが)
リセットは一部の例外を除いて何もかもを白紙に戻す無機質な処置だ。
と、今までの出雲は思っていた。
(だけどマイナス感情をもゼロにしてくれることを考えると、そこまで悪いものでもないのかもしれないな)
センチな気分に浸っていたものの、いい加減馬鹿天使の攻撃を鬱陶しく感じる気持ちの方が強くなってくる。
「私がいないと何にも出来ないくせにっ!」
とある文句に出雲の怒りに火が着く。
彼は急いで反転し、勢いを保ったまま思い切りエイルの頬を引っ張った。
「そういうことはもっと使えるようになってから言え!」
「むうう、
その一言で醜い喧嘩のゴングが鳴った。
ヒートアップした仕様もない喧嘩は相当馬鹿馬鹿しい様子だったのが、出雲達を包む笑い声はさらに大きくなった。
商業係の最後の日。
村には子供達の笑顔が満たされていた。
そして、緑を取り戻した畑と明るい雰囲気の村を見守るように、村の近くの高台には墓が並んでいた。
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