第27バグ・売買テクニック

 出雲が行ったことは酷く簡単だった。


 まずはプアに必要な分の金を渡す。

 そして、その金を使ってプアが出雲からマヨネーズを購入する。

 たったこれだけで、持ち金を消費せずにマヨネーズの在庫が増えていった。


 更に増えた在庫はエイルと手分けをして街で売り払うことで、在庫を保ったまま金だけを増やせるという訳だ。


 ゲームのバグとしてはそこそこありがち。

 しかし、非常に楽で容易な金の増やし方だ。


 ただ残念ながらここはゲーム世界では無い。

 物資を売り払うのにそこそこの手間が必要なのが、欠点らしい欠点だった。


 だが、この手法はよりも遥かに素晴らしい利点がある。


 それは多種多様な人物に増殖したマヨネーズを試せること。

 かなり規模の大きい人体実験となってしまうが、マヨネーズの効果を試すにはうってつけというわけだ。


 しかし問題もある。

 マヨネーズの謎の力で罪の無い人間を殺してしまう可能性だ。


 殺害した人間が復活させることが出来るのは残虐係のみの特権で、本来商業係にはそんな権利は無い。

 だがそこは未知の物体に対する調査という名目で、女神様の下請けに予め依頼しておくことで回避出来た。

 『もしマヨネーズが原因で人が亡くなった場合は復活させてくれ』と。


 効能が分からない商品の調査をしながら金も得る。

 まさに今の状況に適した方法だった。


 プアの助力がそこまで必要じゃないのも強みだ。

 最初の在庫を増やすところだけ協力して貰えれば、別段彼は必要が無い。

 「エイルと協力すれば最初から最後まで彼の力は必要ないのでは?」と、思い売買を試してみたものの、何故かエイルとのやり取りでは在庫は増えなかった。

 どうやら身内の中での売買は無効のようだった。


 かくして出雲達は、最初にプアが持っていたより額よりも多い金を手に入れた。

 当初の予定では、この金を使って食料を買い込み彼に渡したところで、出雲の作戦は終わるはずだったのだが。


「是非村に来てください。何の恩返しもしないままでは、私の気が済みません!!」


 と、号泣しながら体を掴まれたとあっては断るわけにもいかず――、

 今は彼の住む村へと向かっていた。


「はぁ、辺鄙へんぴな場所っすねー」


 エイルが荷台の上で呟く。

 自然と吐き出した彼女の感想に、出雲もまた納得するように頷いた。


 左右を山脈に囲まれた高地。

 しかも石が多く水はけが良すぎる土地なのか、山間部だというのに周囲の木々はまばらだった。

 唯一の道も斜面に加えて岩がごろごろしているせいで、とても上りにくい。

 もう少し道が荒ければ馬車が利用出来ないレベルだ。


「こんなところで作物が育つんすか?」

「それが意外といけるんですよ。今年は降水量が少なく育ちがかなり悪いですが、例年通りなら芋や野菜は十分すぎるほど取れています」

「へー」


 プアの話を聞いたエイルが相槌を打つ。

 どうやら土地自体は見た目以上に豊かなようだ。


「着きました。あれが村です」


 プアが指し示す方向には確かに集落らしきものがあった。


 きのこのような家が並んでいて見た目には面白い。

 恐らく木造ではなく粘土で出来た家だろうか。


(デザイナーズトイレっぽいなぁ)


 失礼な感想を抱きながら馬車を走らせていると、ようやく村へと到着した。


 馬車が村の入口を通過してもこれといって出迎えは無い。

 プアの指示に従い馬車を家の横につける。そこまで来てもやはり人の姿は無かった。


「もしかしたらみんな飢えかけているのかもしれません! 申し訳ありませんが、私は一足先に食料を運んできます!」

「私も手伝うっす!」


 危機感を覚えた男と正義感に燃えた天使が馬車から降り、颯爽と駆けていく。


「俺も行くか」


 出雲もまた荷台から持てる限りの食料と水を手に取り、彼らとは異なる家へと歩みを向ける。


「ごめんくださーい。プアさんと一緒に食料を持ってきた者なのですがー」


 家の前で一声掛けるものの反応は皆無だ。

 入口に掛けられた暖簾のような布のせいで中の様子が分からない。

 と、くれば取れる行動は1つなわけで。


「すみませーん?」


 入口の布をめくって中を覗く。


 内部はござが敷かれただけの寝床と焚火場たきびば

 あとは棚と小さな椅子があるだけのしょぼい構造だ。


 そして、やはり人影は見当たらなかった。


「誰も居ないですかね」


(出掛けているのか? それともまさか既に亡くなったか?)


 不穏な疑念を抱きながら一軒家を後にし、その他の家を巡っていく。

 しかし、何処の家を見ても人っ子1人いなかった。


「誰もいないな」


 本当に人がいない。

 ここまで人が見つからないとなると、本当に住民がいたのかどうかも怪しくなってくるほどだ。


「出雲!」


 一旦馬車の元へと戻ると、丁度天使もまたやって来た。


「エイル、誰かいたか?」

「いや、全然見当たらないっす!」


 恐らく全力で探し回ったのだろうエイルが息を切らしながら答える。

 その時だった。


「うわああああああっっっっ!!」


 プアの叫び声が空気を震撼させた。

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