第17バグ・聖都爆破作戦
聖都ヴィンデルは異世界ジャパルヘイムの中でも1、2を争うほどの宗教都市である。
都市のシンボルである中央大聖堂は、文字通り街の中心に位置している。100メートルを超える高さと厳かな造りは、まさに圧巻ともいえる出来だ。
また、様々な装飾が施されており、人工物でありながら神秘さを併せ持つのも特徴的だった。
出雲の世界にも似たようなものが沢山あるが、実際に間近で見る建物の雄大さは胸に響くものがあった。
「すっげーな」
人間はあまりに壮大なものを見ると溜息が出るらしい。
今まで村や森、山、洞窟といった自然に囲まれていたせいで、心の何処かで人工的な建物が恋しくなっていたのかもしれない。
「っと!?」
大聖堂に見惚れていると、正面から来た宗教信者にぶつかりそうになる。
すんでのところで左に回避することは出来たが、突発的な行動に勢いが抑えきれずそのまま尻もちをついてしまった。
「何やってるんっすか、もう」
隣に居た天使が手を差し出してくれる。
「すまん」
出雲は遠慮なく彼女の手を借り立ち上がった。
「それにしても人が多いっすね」
「それだけ大聖堂がこの都市になくてはならないものってことだろ」
「街の外からも来てるっぽいですからね」
言われてみれば多種多様な格好をした人物が多い。
一般市民や役人に始まり、質素な服を着た宗教信者であろう人間。それから荷馬車を引いた行商。明らかに位が高い人までもが大聖堂に出入りしていた。
街に誇れるものがあれば自然と人も集まる。
聖都ヴィンデルは宗教都市であるが、観光都市でもあるということだろう。
「外の様子は大体把握しましたし、そろそろ中に入るっすか」
「そうだな」
二人並んで大聖堂の中へと入っていく。
真っ先に飛び込んできたのはスケールの大きさを感じさせる巨大な紋章。三角おにぎりのような形をしたオブジェクトはとてつもない威圧感を放っていた。
「これまた中も凄いっすねぇ」
「…………」
言葉を失うとはこのことだ。
生で見る芸術はここまで人を麻痺させる力があるのだろうか。
「流石にここをやっちまうのは何だか気が引けてくるな」
「ダメっすよ。ここんところくな成果をあげられてないんすから」
出雲のぼやきに対してエイルがすかさず突っ込む。
今日二人がここに来たのはとある計画の下見だった。
中央大聖堂爆破計画。
それが名誉挽回とばかりにエイルが考えた計画だ。
先日の不死者の思わぬ反撃により、『新生神の御使い』には人手がなかった。
ミミックが吐き出したスケルトンは全て粉々に散った上に、在庫が無くなったのだ。異なる怪物の呼び出しも出来なかったのは、完全に予想外だった。
つまり今の組織にはメンバーがエイルと出雲、ミミックしかいないことになる。
この面子の少なさでは村を襲うのも難しい。
そのため考えられたのがこの爆破計画だ。
火薬を仕掛けて壊すだけなら人手はあまり要らない。ミミックを引き連れ、その場で爆弾を出して貰えば済むことだ。
何よりこの計画の素晴らしいところは、街の象徴である大聖堂を壊すということは世界に轟く大悪事ということだ。
ジャパルヘイムの心の拠り所をぶっ壊す。
最早天使とは一体なんなのかと、疑いたくなるようなほど残忍な作戦だ。
「一通り観終わったっすね。意外と見るところが多くて楽しかったっすね」
「観光に来たんじゃないんだぞ」
「分かってるっすよ! そこまで馬鹿じゃないっす」
(どうだか)
エイルのことはさておいて、見るべきところは確認出来た。
警備は比較的手薄。
九つの大きな柱を壊せば簡単に崩壊することだろう。
(あとは夜間の警備体制を確認すれば、って)
「隠れろエイル!」
「とんこつぁ!?」
天使の首を腕で挟み無理矢理柱の影へと連行する。
「いきなりなにするんすかぁ?」
「黙ってろ」
「ぅう、うヴぅ!」
エイルの口を右手で抑え、こっそりと今入ってきた人の方を見る。
煌びやか鎧を身に纏い、入り口近くで司祭のような人間と話をしている人物には見覚えがある。
普段から輝かしいオーラを放っている人間だ。間違いようが無い。
(鳥居さんだ)
「どうしたんすか突然?」
エイルが口のロックを無理矢理下に外し、小声で聞いてくる。
「鳥居さんがいた」
「鳥居さんって出雲の同僚の?」
「そうだ」
「それなら何で隠れる必要があるんすか? 情報交換とかして友好を深めるのも立派な仕事っすよ」
エイルが抜けたことを言う。
肩肘張って正論ばかり述べる彼女より、こっちの方が良い意味で似合ってるな、と内心出雲は思った。
「馬鹿。鳥居さんは今正義の味方係だぞ。悪いことを生業としている奴が、正しいことをするのが仕事の人と話せるか」
「あー、それはそうっすね」
青髪天使が納得したように首を縦に降る。
「それなら向こうから出ましょうか。あっちは死角っすし」
「賛成」
意思の疎通を行いこそっと場を離れようとする。
「あらぁ。そこにいるのはもしかして、水上君じゃあなぁい?」
が、2人の行動はいつの間にか移動していた女性によって止められた。
声を掛けてきた
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