閑話・月例デバッカー会議①
「出席率悪くない?」
出雲は円卓に突っ伏しながら呟いた。
今日は1ヶ月に一回行われるデバッカー会議の日だ。
会議は異世界ジャパルヘイムではなく、女神フラウが管理する元の世界の空間にて行われる。
本日ばかりは普段接することの無い同僚と顔合わせて報告する日なのだが、何故か今日は出雲を含めても二人しか出席していなかった。
「
少しだけおどおどしながら喋ったのは、もう一人の参加者である女子高校生の
歳は出雲の一個上の16歳で、大人しい性格だが仕事は正確なことで評価を得ている子である。
突出して可愛い訳では無いが、さらさらとしたボブカットの髪や美しい白い肌などは、目を見張るものがあった。
彼女が話題に上げた鳥居は女子大学生のバイトである。
かなり高飛車な性格で、見た目も何処かのご令嬢のよう。
美に命を掛けているだけあって、コスメの入手は会議よりも遥かに重いのだろう。
「そうなんですね。まあ、俺達が能動的に金を使える日って今日ぐらいなんで、気持ちは分かりますが」
バイトが稼いだ給料は月例会議の日に女神に申請することで、元居た世界の物資を購入することが出来る。逆に言えば、今日を逃せば来月まで欲しいものが手に入らないということである。
出雲が雇っているエイルも、この日ばかりはこれといって仕事はない。
今頃スナック菓子でもつまみながら、天使仲間と共に話に花を咲かせている頃だろう。
「
「あの人仕事大好き人間だからなー」
社もまた変わり者だ。
大学を卒業したばかりのフリーターだが、三度の飯よりも仕事が好きという変態だ。
出雲と同性ではあるが、彼の考えていることをちっとも理解が出来なかった。
「あと
「御手洗さんは――特に連絡は来てないようですね」
「あのー」
二人でウィンドウを開いた時、何処からか弱々しい声が聞こえてきた。
「僕居ますよ」
「うわぁ!? 何でそんなところに居るんですか!!」
椅子から乗り出し周囲を見渡すと、背後に男が立っていた。
ちょうど話題にあがった御手洗である。
「いやぁ、目立ちたくなくて」
生気の無い表情をしながら言う。
猫背が特徴的な彼は存在感の無さも強烈だった。
「そんなところで立っている方が目立つと思いますけど」
「えー、そうかなー」
「俺達もやりにくいんで、座っていただけると助かります」
「あーそう。仕方ないか」
苦笑しながら彼は定位置の席へと着いた。
彼は大学生のはずだが、どうやって日々の生活を過ごしていたのか見当もつかなかった。
「それじゃあ今月の打ち合わせですが、何か報告すべきことはありますか」
バイトメンバーの最年少者でありながら出雲が仕切る。
この場に居る水無月や御手洗だけでなく、他の面子もまたリーダー向けの性格ではないせいで、消去法で出雲が司会を担当しているのだ。
「私から一つ」
水無月が小さく手を挙げる。
「はい、どうぞ」
「私は今月残虐係でしたが、どうにもバグが多い気がしていて。毎日多種多様な異常が発生していたのですが、何か原因に心当たりはありますでしょうか?」
「ちなみにどんなことをやられてました?」
この仕事には固定化された作業方法がないと、なれば個人のやり方にも色々ある。
彼女の着眼点が他の人がまだ実施していない新規開拓したものであれば、バグが見つかるのも納得出来るのだ。
「別に、普通です」
ちょっとだけ言い淀む少女。
「普通とは?」
「で、出店の食べ物に髪の毛を混入させたり、わざと通行人の足を引っかけて転ばせていました」
(しょうもなっ!!)
「自分でも悪戯レベルだってことは分かってます。でも、私血を見るのが苦手で!」
地味にテンパった水無月が叫ぶように言う。
水無月の慌てた様子は何処かの天使と違ってとても可愛らしかった。
「まあ仕方ないですよ。人には向き不向きありますし」
バイトの同僚として背一杯のフォローを入れておく。
決して下心があるわけではない。決して。
「あ、ありがとうございます。それでその、毎日仕事をしててバグが多いなと」
「でもそのレベルだと水無月さん以外やってなさそうですし、バグが多くなるのも当然という気がします。あ、あくまで僕個人の考えなので恐縮ですけど」
意見を述べたのは御手洗。
出雲も同意するように「うんうん」と頷いた。
「俺もそう思います。なので、今のところは気にする必要がないと思いますが、一応気には留めておきましょうか」
「そ、そうですね。私も周知はしておきます」
「それじゃあ他に何か報告はあります? 俺は特にないです」
出雲が促すと、他のメンバーも首を横に振った。
「では今回の会議はこれで終わりにしましょうか。最後に係のローテーションを回して解散にします」
ウィンドウを操作して円グラフに似た図を回転させる。それぞれの係が記された円が回り、矢印が個人の名前を指す。
出雲の次の役目は残虐係だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます