第6バグ・文字化け
「いやぁ、やっぱりエリスさんの料理は絶品っすね。特にこの野菜スープなんて特に!」
「縺オ縺オ縲√お繧、繝ォ縺輔s縺ッ繧医¥鬟溘∋縺ヲ縺上l繧九°繧峨%縺」縺。繧ょャ峨@縺?o」
「だって本当に美味しいっすもん。私もエリスさんをお嫁さんに欲しいっすよ」
「繧ゅ≧縲√お繧、繝ォ縺輔s縺」縺溘i」
楽しそうに談笑する女子二人組の様子を見ながら、話に挙がったスープを一口啜ってみる。
野菜の甘みとうま味が口一杯に広がり、口の中が幸せに染まった。
エイルが喜ぶのも納得の出来だ。
(こんな出来た嫁を持って俺は幸せだな)
「って、何でお前は普通に会話出来てるんだよ!」
立ち上がって叫ぶ。
終始聞き取れない言葉が飛び交っていて頭がどうかなりそうだった。
買い出しが終わり日中の畑仕事をして、皆で夜飯を作ったところまでは普通だった。
食卓に着いてご馳走を食べ始めた瞬間から、エリスの言語能力が頓珍漢なものへと変貌したのだ。
「むしろ出雲は分かんないっすか?」
「分かんねーよ! ずっと『ほにゃらにゃら』にしか聞こえないわ!」
「こんな時のためにちゃんとテキストウィンドウが表示されるようになってるでしょ。読んでくださいよ」
「何を馬鹿なことを」と呆れたように青髪が言う。
彼女の言う通り、不可解な言語に遭遇した時のために、デバッカー権限で日本語に翻訳されたテキストウィンドウが出ることがある。
そんなことは勿論分かっている。
だが、分かった上で聞いているのだ。
「テキストウィンドウも文字化けしてんだよ!」
「それは知らないっすねー」
「最初の質問に戻るが、何でお前は会話出来てるわけ?」
「そりゃあ私は優秀ですからねー」
全く回答になっていなかった。
今ほどこの馬鹿天使をぶん殴ってやりたくなったことも無い。
「菴戊ィ?縺」縺ヲ繧九??」
「出雲が馬鹿って話っすよ」
「繧?縺??∽ココ縺ョ荳サ莠コ縺ョ縺薙→謔ェ縺剰ィ?繧上↑縺?〒?」
「あー、失言だったす。そんなつもりで言ったわけじゃないっす。ごめんなさい」
「全然分かんねぇ。頼むから会話に入れてくれよ……」
自分だけ置いて行かれたような感覚が己を支配する。
実際には置いていかれたのではなく、彼女達が斜め先を走っているだけなのだが妙な孤独感があった。
しかしながら、負けてばかりも居られない。
こんなことでへこたれていてはデバッカーなど続けれれるはずがないのだ。
「ところで体はどう? 体調悪かったりはしない?」
「螟ァ荳亥、ォ縲ょ撫鬘後↑縺?o」
「『大丈夫。問題ないわ』って、言ってるっす」
「そうか。それは良かった」
「蠢??縺鈴℃縺弱h」
「『心配し過ぎよ』ですって」
「いちいち通訳が必要な夫婦の会話って何?」
机を叩きたくなる衝動を必死に堪える。
元からこうだったのであれば諦めもつく。だが、設定とはいえ嫁が突然変貌するのは脳に来るものがあった。
(そもそもエイルの手助けが必要な状況が屈辱的過ぎる)
「仕方無いでしょう。こればかりは誰にも非は無いっすよ。それとあと何か失礼なこと考えてないっすか?」
「……いや別に」
(最近冴えてんなこいつ。何か悪いもんでも食ったか?)
「変な間があったっすけど」
「気のせいだろ」
軽く流して正面に座る嫁へと視線を向ける。
狂っているのは言語能力だけで見た目は朝から変わらない。
そもそも毎日可笑しくなってるだろ、と言われればそれまでなのだが。
たかが言葉が通じない。
たったそれだけの事実であれこれ騒ぐのは大人げなかっただろうか。
「ごめんな。色々気が動転してて」
エリスが首を振って応える。
言葉が通じなくともコミュニケーションが取れる良い例だった。
少しだけ良い気持ちになったところで、彼女が焼いてくれた川魚を一口含む。
塩加減が絶妙で肉のうま味がダイレクトに伝わってきた。
「エリスの作る料理は絶品だな。本当に美味しい」
照れ隠しをするように右手を振るエリス。
「こんな頼りない俺と結婚してくれて本当ありがとな」
怒涛の攻めに耐えきれなくなったのか、エリスは頬を真っ赤に染めながら俯いた。
反対に、彼女の隣に座るエイルはにやけ顔が前面に出ていた。
あまりの気持ち悪い表情に、つい添え物の柑橘系の果物を天使の目に向かって絞ってしまう。途端、悲鳴を上げながら陸に上がった魚のように飛び跳ねていた。
「どうしたのエリス?」
さっきから一言も発しないエリスが気になり声を掛ける。
(何か変なこと言ったかな)
「......これ」
「ん? 何」
小声で喋るエリスに向かって聞き返す。
何となく日本語のようなイントネーションだったが、言語機能が回復したのだろうか。
「これよりもすがらに一緒なればぞ」
「いや日本語だけどさ!」
「これからもずっと一緒だからね」という文言が可愛らしいフォントでウィンドウに表示される。
しかしながら、古風な言語に可愛らしさの欠片も無かった。
結局彼女の言葉は次の日まで戻らなかった。
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