12.1話 後悔と恐怖

後悔。

その一言に尽きる。


一条真一に放課後のストレス発散を見られた日から、私の人生計画は大きく狂ってしまった。

いや、彼のせいにするのはお門違いというものだろう。一条くんはむしろ被害者だ。

私の奇行を二度も目撃したのに、黙っていただけでなく、気狂いのような独白にまで付き合ってくれたのだから。


…何を血迷ったか。何とでも言い訳ができただろうに。

私は自分自身のなかだけに留めていた、馬鹿げた夢を彼にさらけ出してしまった。


人の口に戸は立てられぬ。ことわざの中でも、信用できるものの一つだと思う。

ひとたび人に話してしまえば、何かしらの形で漏れ出してしまうものだ。いくら口止めしようと、四六時中相手を監視でもしない限り、私の心配性すぎる性格では、少しも安心できない。


絶望の金曜日。けれど、私がいくら後悔に駆られて頭をかきむしっても、時間は非情だ。あっという間に月曜日が来る。


…一条くんは、私の事を誰にも言っていなかった。

そしてまた性懲りもなく、私に会いに来た。私のくだらない、最低な夢を、聞いた。止めなかった。

あろうことか、力になろうなどと言い出した。


あぁまた夢が遠のいた、と初めは絶望感に打ちひしがれていた。また死ぬまでの時間が、延びてしまった。

けれど彼の言葉はどうしてか、私の心に優しくしみ込んだ。


---


『つらいよね、我慢しなくていいんだよ』

『こんなに悲しい事はない…晴はお姉ちゃんの分まで、元気に生きるんだよ』


「うん!私、お姉ちゃんの分まで、頑張って生きるよ!」



反吐が出た。姉の死を悲しみ、私に激励の言葉をくれた友人や家族にではない。

姉の死を心底羨ましがっている私に。そして、優しいはずの周囲の言葉が、すべて鋭い刃となって体中を切り裂かれている錯覚に陥ってしまう自分に、反吐が出る。


けれど、彼の言葉は違った。私の最低な夢を知ったうえで、止めるでもなく、死までのつらさを少しでも軽減させたいだなんて、言ってのけた。

普通、好きな人の死は悲しむものじゃないのか?私を助けるということはつまり、私の死を願うという事だが、ちゃんと分かっているのか?



…過度に気にしすぎても仕方がない。

私の悩みの種だった六見さんの件を解決してくれたら、彼との関わりも切ろうと思っていた。

しかし一条くんのほうが一枚上手だったらしい。私が素をさらけ出し過ぎたのか、その魂胆を見破られていた。

それでもなお、彼は私を救う何かが他にあると、信じているようだった。



…欲張りだと言われた。もしかすると、人生で初めて言われたかもしれない。

笑顔が似合わないとも言われた。晴は笑顔が一番だね、と皆に褒められてきたのに。

見られたくない、聞きたくない自分自身の本性を、彼が見透かしている恐怖。


私は、一条真一に、すべてをさらし過ぎた。

ただでさえ恐ろしかった世界は、漏れ出てしまった自分の黒でもっと深い闇に包まれると思っていたのに。

なぜか少しだけ、世界は色づいた。


---


あの、地獄のようなショッピング施設での一件以来、六見さんが授業中以外に教室にいる時間がぐっと減った。

図書室を一度だけ覗きに行ったが、やはり七谷くんと一緒に勉強しているようだった。あれ以来私にノートを借りることはなくなったし、授業中の居眠りも多少減った。

計画通りに進む、私の人生。


それとは反対に、一条くんの様子はすっかり変わってしまった。

休み時間中、二村くんや三宅くんとだべってばかりだった彼は、一人机について何かをずっと書き続けたり、カバーの掛かった分厚い本などを読み漁っている。

一度二村くんがノートを盗み見ようとした時、ひどく怒っていたこともあった。


私の計画は変わらない。このまま、透明な空気のまま人生をやり過ごす。

一条くんがどうなろうと知ったこっちゃない。


それでも彼の変わりようは、無視できないほど誰の目からも明らかだった。

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