15、コンクール
コンクール当日。
ジリジリと焼けるような紫外線が降り注ぐ午前中、ぼくは家族と一緒にコンクールが行われる会場にやってきた。
「今年もすごい人ね…」
「初日ってこともあるのかもなぁ。それで、ショウの絵はどこにあるんだい?」
「ぼくの絵はDフロアの奥にあるけど、先に他の生徒作品も見ていこうよ。どれもすごいんだ。」
「それもそうね。じゃあAフロアから見ましょうか。」
会場にはすでにたくさんの人が訪れていた。ぼくは父さん達と一緒に生徒作品を見て回って行く。立体や絵画の大小様々な作品がたくさん展示されていて、どれも見ているだけで楽しい。
父さんと母さんも他の観客に混じって「ほお…」「これ、素敵ね」とじっくり作品を鑑賞していた。そんな様子を見るのも、ぼくは好きだ。
ABCとフロアを順に周って、ついにぼくの絵が展示されているDフロアの奥に到着する。
ぼくの作品の前には、既に何人かの観客が鑑賞していた。じっくりとぼくの作品を見て立ち去っていくその人たちを見て、ぼくは自然と頬が緩む。
ああ、嬉しいな。
やっと皆に、ぼくの大事な友達を見せることができた。
これなら皆、ちゃんと見てくれるんだね。これなら、ぼくにとってコウくんが大事な友達って、話す時よりももっと、ちゃんと伝わるよね。嬉しいなぁ。
この光景をコウくんが見たら、もっとびっくりして喜んでくれたかなぁ。
「父さん、母さん、これがぼくの作品だよ。」
ぼくが父さんたちにぼくの作品…「コウくん」を示す。
「おお、これはすごい…!」
「上手ねぇ…」
父さんたちは目を丸くして感心した声をあげる。
「へへ、ありがとう。」
「はー、すごいな。まるで本当に生きてるみたいじゃないか。見てくれよ母さん、この髪の毛とか目の感じ。写真みたいだぞ。」
「ふふ、もう、お父さんたら。はしゃぎすぎよ。」
父さんの反応に、母さんが口元を少し押さえて笑う。
「笑顔が素敵な子ね。」
「これのモデルは翔のお友達の子かい?」
「うん、そうだよ。
「コウくん…?」
名前を言うと、父さんと母さんは話すのをやめてぼくの顔を見た。
「うん。『コウくん』だよ。ぼくの、昔からの大切な友達。」
父さん達は、さっきと打って変わって黙ってしまった。
正直、この反応は予想していた。
父さんと母さんは昔から、ぼくとコウくんのことを気にしていたし、コウくんには言ってないけど、小さい頃に色んなところに連れて行かれて、みてもらったこともある。
だからそれ以降ぼくは、2人の前でコウくんの話はしていないし、似顔絵も見せないようにしていた。ただコウくんといたことはバレてたかもしれない。
でもその反応も、仕方のないことだなって今なら思う。それが普通の反応だよね。
というかそれを抜きにしても、学校で喧嘩しちゃったり、一時期友達をコウくん以外で作らなかったりでたくさん心配かけちゃったもんね。
あの頃は本気で、コウくん以外の友達なんていらないとか思ってたんだよなぁ。
だって、仲良くしてくれる子とそうじゃなさそうな子なら、仲良くしてくれる子を大事にしたいもの。
でも、コウくんもその時はぼくを叱ったから、そこは反省してるよ。
他に友達を作らないのと、コウくんと仲良くするのを続けるのは全く別のことだもんね。
でもさ、やっぱりぼくにとってコウくんも
大切な友達なんだ。タケちゃんや田中くん達と同じでさ。
見えないからって、今までのことや大事な友人の存在を、幻覚妄想として周りからないことにされるなんて、それはやっぱりなんかさ、嫌なんだ。
ぼくにとって、どれだけ大事な友達がいたのかが伝わらないのがさ、なんか悔しいんだ。
今回この絵を描いたのも、やっとコウくんを上手く描けるようになったからとか、コウくんをびっくりさせたかったからとか、色々あるんだけどね。
そういう、ぼくなりの反抗心みたいなものもあったんだ。
いつだったか、コウくんと話したりしてるのを見られて、「宇宙人」って同級生に揶揄われたことがあったよね。コウくん、それを気にしてたみたいだけど、ぼくは全然そう言われても構わなかったんだよ。
ぼくは本当はずっと、コウくんを色んなとこに連れてって、笑顔にしてあげられるような、そんな友達でありたかったんだ。
だからね、コウくんが笑ってくれるならさ、ぼくはきっとどんなことでもできるし、そのためなら「ヘンテコ」でも「宇宙人」でもいいって思ってるんだ。
今はもうコウくんはいないけれど、それでもね、この気持ちは変わらないよ。
このままコウくんとのことを誰にも伝えないままで、無かったことにして、「普通の人間」になるくらいならさ、ぼくはこれからも「ヘンテコな宇宙人」のままがいいんだ。
人からどれだけ変って言われてもね、諦めたくないんだ。コウくんと一緒にいた今までも、コウくん自身のことも、ぼくなりになんとか周りに証明したいから。
…こんなことを話してたら、コウくんまた呆れてたかな?
でもそれだけ、ぼくにとってコウくんは大事なんだよ。なくしたくないんだ。
「…そうか…この子が、コウくんか。」
ぼくが黙って2人を見ていると、しばらくしてから父さんが先に口を開いた。そして「コウくん」をまた見つめる。
「…優しそうな子だね。」
父さんはそう言って目を細めて笑った。これは予想外だ。思わずぼくもつられて笑う。
「うん、コウくん、すごく優しいよ。…怒ったら怖いけど。」
「はは、そうなのか。」
「そうだよ。怒ったらね、鬼みたいになるんだよ。ちょうど、こんな感じ。」
絵の中に描いてある、似顔絵のうちの一つを指差す。そこには鬼のツノを生やしたコウくんが描かれている。
それを見た父さんは愉快そうにさらに笑った。
「はは、それは怖いなぁ。怒らせないようにしないと。」
「うん。でも、いつもはよく笑ってるよ。」
そう言って笑い返しながら母さんの方を見ると、母さんはどこか暗い顔をしていた。
「母さん…?」
「…この子が…いつも翔のそばにいてくれた子なのよね…?」
「うん、そうだよ。」
「…翔が昔、コウくんは幽霊っていうから…お母さんてっきり、そういうものがいたとしても、もっと恐ろしくて危険なものだと思っていたの…人間じゃない、翔に危険を及ぼす存在だって…」
僕は昔の母さん達を思いだす。そうだね、怖がって、心配してたような感じは確かにあったかもしれない。
幽霊とか、言ったらあれだけど、いいイメージあんまりないもんね。怖いイメージはなんとなくぼくもあるよ。コウくんは違うけど。でも実際、他の幽霊ってどんな感じなんだろうね。
「でも、違ったのね…この子はあなたと同じよね…幽霊になる前は、どこかで生きていた、誰かのお子さんで…普通の子供だったのよね…私…あなた達に、悪いことをしてきてしまったわ…謝って済むことじゃないけれど…ごめんなさいね…」
母さんは悲しそうに「コウくん」の顔を見つめている。父さんもなんだかしょんぼりしていた。
「そうだな…父さんも、翔の話をもっと早くにちゃんと聞いて、信じてあげればよかった。ごめんな。」
「…そんな謝らないでも、大丈夫だよ。今、父さん達がぼくたちのことをわかってくれたから、それでぼくら、十分だよ。ありがとうね、父さん、母さん。」
「…そう…じゃあ、せめて一言お礼を言いたいわ。うちの翔のお友達でいてくれて、ありがとうございますって。」
「そうだね。翔、コウくんは今ここいないのかい?」
「…うん…ちょっと前にね、多分成仏しちゃった。」
「…そうか。」
ぼくの言ったことを聞いて父さんは悲しそうな顔をする。母さんに至っては少し泣いてしまっていた。
「大丈夫、お互い笑ってお別れしたからさ。父さんも母さんも、そんな顔しないで?」
ぼくは明るく笑って見せる。
湿っぽいのは無しだよね。だってそんな事になっちゃったら、コウくん心配性だから、また気にしちゃって戻ってきちゃうかもしれないし。
大丈夫、ぼくは泣かないよ。だから安心してね、コウくん。
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