9、カンナギ
「あー面白かったぁ〜。」
クーラーのきいた自室で、ショウは読んでいた漫画を閉じて満足げに声を上げる。
最近、学校課題をした後にいつも読んでいた漫画を読み切ったらしい。
アニメはともかく漫画を読んでいるのは珍しいことだった。何の作品を読んでたんかな、となんとなく気になってオレはこっそりタイトルを見た。
「ってこれ、『カンナギ』じゃん!」
「コウくんもこれ知ってるの?」
「知ってるっつーか、オレ好きだったから読んでたぞ。単行本も持ってた」
『カンナギ』は昔連載されていた当時の人気漫画作品だ。オレは途中からその作品の存在を知ってハマり、その後リアタイして読んでいたし、学校で友達とよく話したりもしていた。
でもまさかショウがそれを読む日が来るとは思わなかった。
「はえーそうなんだ。これ部員の田中くんから借りたんだ。結構巻数あるから5巻ずつとかで借りてたんだけど、面白くてすぐ読み切っちゃったよ。」
田中くんにオレは会ったことはないが、ショウの話でよく出る名前だ。漫画やアニメ周りでよく話すらしい。
オレは心の中で、ショウに「カンナギ」をお薦めしてくれた田中くんに感謝した。
ショウが持っている本の表紙を改めて見る。どうやらこれが最終巻らしい。オレが買ってる時で確か最新巻は13とかまでだった。まさか30巻まで続いていたとは。内容が気になりすぎる…
「コウくんはこれどこまで読んだ?」
「オレは13巻まで。内容で言ったら、ヤマトがヤタ国王を救いにジャキを倒しに行くとこまでだな。」
「あーあそこかぁ!あそこすごく良いよね、読んでてぼく、ずっとドキドキしてたよ。あとヤタ国王がかっこいいよね。」
「いいよな国王。脚と翼を折られても国民を守って、ジャキに向かって啖呵切ったとこがオレ好きだ。でもあの後どうなったかはまだ読めてないから、結末知らないんだけどな。」
「そうなんだ…借りたこれ読む?って、それはだめか…」
「だめだな。まぁ、気にすんな。ショウが話して感想とか聞かせてくれたらオレはそれで良いし。」
「うーん、でもなぁ…あ、ちょっと待って。」
ショウがそう言ってスマホで何かを調べ始める。
「やっぱり!コウくん、朗報です!この作品、過去に全話アニメ化してます!」
「えっ!マジ?」
ショウが笑いながらスマホの画面を見せる。そこには確かにアニメの絵柄の「カンナギ」が映っていた。マジじゃん。
「マジです!そしてスマホからでもそれが全部観れます!なので今から一緒に『カンナギ鑑賞会』をしませんか!」
「…する。」
数時間後。
「……『カンナギ』のアニメ、すっっっげぇいい…」
「めちゃくちゃよかったね…まだ漫画1冊分しか見てないけど…でも満足感がすごい…」
「マジでそれな…」
2人してベッドの上のスマホ画面から目を離し、放心したように天井を仰ぐ。
ショウ曰く、スマホからも観れるらしいとのことで、ベッドにスマホ立てかけて置き、その前に2人して座って視聴していた。便利な世の中だ。
なぜテレビで観ないのかというと、今日は休みの日でショウのご両親がリビングにはいるからだ。ショウのご両親は、きっとオレとショウが仲良くするのをよく思わないだろう。だからそれを考えての自室でスマホ視聴だった。
「カンナギ」のアニメはスマホの小さい画面でも戦闘シーンなんかは迫力満点で、キャラが動きや声やOPも全部が最高だった。
これがあと漫画29巻分もあるのか…
「…やばい、めちゃくちゃテンション上がるな。」
「わかる…ていうかコウくんすっごい見入ってたよね。」
「お前もな。」
「まぁね。1番最初の戦闘シーンもだけどさ、日常シーンもめちゃくちゃ作画良かったよあれ…料理のシーンとかさ。お腹空いてきちゃったな…」
「戦闘シーンかっこよかったな…確かによかったな。あれ美味そうだったなぁ…あと主人公の声、オレが思ってたのまんまでびっくりした。」
「あ、それはぼくも思った。皆すごいあってたよね、声優さん。」
「マジでそれな。」
顔を見合わせて笑い合いながらぽつりぽつりと感想を言い合う。すごく、楽しいし嬉しい。
そうしていると部屋の外からショウのお母さんの声が聞こえてきた。
「翔ーご飯の時間よー。」
「あ、はーい!じゃあコウくん、また明日続き観ようね!」
「おう。また明日な。」
ショウが笑いながら部屋を出ていく。
好きな作品がアニメ化するなんて思いもしなかったし、久しぶりに好きな作品を誰かと一緒に観たり話したりした。でもそれ以上に、ショウがオレも楽しめるように考えたりしてくれたのが、その気持ちが何よりも嬉しかった。
「…本当、いい奴だな、あいつ。」
そういえば以前も、オレが新作の映画の広告を見て「これ、面白そうだな」と何気なく言ったら、ショウは翌週に2人分の席を予約して映画に連れて行ってくれたことがある。
その時あいつはオレの分の代金まで払ってくれたのだ。席代だけとはいえ中学生からしたら決して安くない、貴重な金だ。
オレが申し訳なくなって謝ると、
「ぼくがコウくんと一緒に観たいだけだよ、気にしないで。」
とショウは笑って言っていた。
友達が増えても、前と相変わらずオレと接してくれる。それどころかそこまでしてくれるんだから、優しい奴だ。本当に。
あいつには、この先もずっと笑顔で幸せであってほしい、そう思いながらオレはショウの家を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます