5、弱さ
ショウが小学4年になっても、オレはショウのそばにいた。
そしてショウは、相変わらずオレと遊ぶのをやめることはなかった。
あの一件以来、正直ショウと関わるのをやめた方がいいのではないかと何度も考えたが、それはどうしてもできなかった。
しかし罪悪感も募って、ショウにあの後どうなったかを聞いてみると、
「うーんと、たまに宇宙人って言われるよ。でもぼくいつか宇宙行きたいんだよね。だから本当にそうだったらいいのになぁ。」
と、へにゃりと笑っていた。
そう返されるといよいよ何も言えず、オレは口をつぐむことしかできなかった。
そんな時、ある事件が起きた。
放課後、いつものように正門前でショウを待っていると、手足や顔のあちこちを傷だらけにしたショウが出てきたのだ。
「お前、その怪我どうしたんだよ!」
「…階段で転けただけだよ。そんなに痛くないし、大丈夫だから気にしないで?」
ショウはそう言ってニコッと笑い、歩き出す。
オレは不審に思い、本当はこういうことあんまりしないほうがいいのかもしれないが、と思いつつも、ショウを家まで送った後こっそり調べに回った。
どうやらショウは、クラスの男子と昼休みに喧嘩をしたらしい。
昼休みショウが絵を描いていると、相手の男子にからかわれたうえ、描いていた絵をぐちゃぐちゃにされた。そのことをショウが怒り、そのままつかみ合いの喧嘩に発展したらしい。
もしそれが本当なら、その男子はめちゃくちゃムカつく奴だな。
とはいえオレに何かできるわけでもないし、何よりそれをされて1番腹が立って辛かったのはショウか…
ショウは絵を描くのが好きだし、描いた絵をとても大事にしている。
特にお気に入りの絵は壁に飾ったりもしている。昔描いた「ウニみたいなオレの似顔絵」も、絵のコンクールで賞を取った桜の絵も、夏休み課題で描いた絵日記なんかも壁に飾っている。
ショウにとってはそれくらい絵はかけがえのないものだ。それをそんなふうにされたら、ショウが怒るのも想像できる。とはいえ、まさか喧嘩するとは思ってなかったが。
相手の男子とは、一応既に和解はしているらしいが…ショウは大丈夫なんだろうか…
喧嘩の翌日である休みの日。しとしとと雨が降る中、オレはショウの様子を見に行った。いつもは呼ばれたら行くようにしているが、どうしてもあいつのことが心配だった。
「おじゃまします」と言ってから家に入ると、ショウのご両親がいた。
2人はリビングやキッチンにいるものの、心配そうにショウの部屋を眺めたり、たまに様子を見に行っていたらしかった。
オレがショウの部屋に入ると、ショウは、自室のベッドで枕に顔を埋めて寝ていた。体に貼られた絆創膏が余計に痛々しく見えた。
「…コウくん?いるの?」
起こすのも悪いと思い、黙って起きるのを待っていると、ショウが枕から顔を上げてオレを見る。昨日よりかは傷はいくらか治っているように見えた。
「おう。…怪我、大丈夫か?」
「うん。まだちょっと痛いけど、でも大丈夫だよ。」
「そっか。早く治るといいな。」
昨日の放課後、ショウがオレに喧嘩のことを話したりしなかったということは、きっとそれにはあまり触れられたくないのだろう。
何か違う話を…と考えていると、ショウが口を開いた。
「…コウくん、いつもぼくと遊んでくれて、一緒にいてくれて、ありがとう。」
「え?お、おう…」
いきなり言われた言葉にオレは思わず間抜けな声をあげる。どうしたんだ急に。
「ぼくさ、ほら、昔からおっちょこちょいなとことかあるでしょ?だからね、きっとコウくんにも、それでたくさん迷惑かけてしまって、それはごめんねって思うんだけど…でも、コウくん、それでもいつもぼくのそばにいてくれるし、遊んでくれるから…それが本当にうれしいんだ…コウくんが友達でよかったなぁって、ぼく心の底から思うんだ。」
「…オレも、お前と友達でよかったって思ってる。」
乾いた喉と舌を動かして、それだけ言う。
ショウの真っ直ぐな言葉が、嬉しいはずの言葉が、今は辛かった。
オレといるせいで、ショウには他の友達ができていないかもしれないのに。もしかしたら今回も…オレとの件でなったのかもしれない…むしろ、その方があり得る話だ。いきなりそんな、なにもなしにからかいをして、絵をぐちゃぐちゃにするなんて、普通はしないはずなんだから…
それでもこうして今もショウのそばにいるのは、このままでショウを独りにしたくないのもあるが、それ以上にオレ自身がショウから離れられないからだ。オレが、もう独りになりたくないからだ。
オレって、なんて弱くて最低なんだろうな…
なぁ、ショウ。お前が思うほど、オレはそんな、「いい友達」じゃないんだ。ごめんな。
「コウくん、これからもよろしくね。ぼくがおじいちゃんになっても、ずっと友達でいてね。」
「…おう。」
オレが内心を悟られないように返事をすると、ショウは太陽のような眩しい笑顔を、無邪気にオレに向けたのだった。
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