文集の中身、再び。
仲違いが無くなって話は文集へと舞い戻る。
彼女が捨てた文集は、原型のこそ留めてはいるが1部は通り雨でも浴びたのか、滲んだ跡が見受けられた。
「これから、文集は僕が持ち帰ることにするよ」
また夜司さんのような力を持った人に捨てられようものなら、その時こそ本当に僕は彼女を救えない。一生忘れたまま。
そんなのは嫌だ。
「異議なーし」
「まぁ茜が部長なんだから妥当なんじゃね?」
「……私のせいね」
彼女は自分を責めてまた俯く。彼女が入部してからこんな調子なのであまり部の雰囲気は明るくない。
「切り替えていきましょうよ。とにかくこの文集の謎を文化祭までにははっきりしないといけないんですから。そこでいい成果が出せればきっと許してくれますよ」
「そ、そうね。やりましょう」
彼女はやっと顔を上げてくれた。いくら赦したとはいえ、彼女の中に罪悪感が残って言うのは確かでそれは簡単には取っ払えない。もちろんそれは僕達だって。
「じゃあそろそろ始めよう」
先日やっと補習の呪縛から解放された静が集まったことで久しぶりに全員が集まっている。椅子が足りなくなったので、ソファでくつろいでいる。
「それで、文集の中身は読んだのか?」
「一応読みはしたんだけど……」
「なんかあったのか?」
曖昧な返事に静もいぶかしげな顔になる。
「見てもらえれば分かるよ」
「なんだこりゃ」
僕は読み進めていた文集のページを開く。懸命に書き連ねられた文章なのは明白なのに、なぜかそこには空白がある。消した跡もなく上書きされたわけでもない。ただそこにあったのに見る事ができない。
「あれ、でも私が見たときはこんな空白、、っ!」
「大丈夫?」
突然彼女は頭を掛けて腰を下ろす。隣にいた天城さんが倒れそうになった彼女を支える。
「たぶん、気のせい。でも、雨音さんが支えてくれたのでOKです」
が、天城さんはそれを許してくれないので静がいたソファに無理矢理座らせる。彼女も仲良くなりたいというほどなので、彼女には逆らえないらしい。
「でも最後の一文ははっきり書いてるね」
「全員を見つけて儀式をすれば、この不可思議はなくなる」
「ということは、とりあえず全員見つければいいってことだろ?」
「まあ、そういうことだね。あとは儀式に協力的になってもらわないと」
まあ、そっちのほうが難しいかもしれないけど。天城さんみたいなタイプはともかく、夜司さんみたいな力をみんなが持っているとしたらそれを簡単には手放してくれない気がする。今回、たまたま運が良かっただけかもしれない。
「それで、その能力をもっている人っていうのがこの三人?」
彼らが見つけた人々の一覧には三つの能力が書かれている。
「忘我、千里眼、服従。でもこの本には七人を見つけないといけないって書かれていたよね」
「うん、だから当分はこの服従の能力者を見つけないと」
服従、明らかに他二つよりも驚異的な気がする。人によってはとんでもないことになってしまいそうな感じがとても怖い。
「それで、具体的にどうするんだ」
「そういう時は行く場所があるじゃんか」
「?」
なので、僕はある部屋の扉を叩くことにする。
トントン。
「どうぞ」
扉を開けたるは麗しき少女。長い黒髪、頭に天使の輪を描いた生徒会副会長様です。
「お久しぶりです茜くん、次休部にしたら廃部にしますからね」
「久しぶり、春ねえ」
その笑顔を見るのは久しぶりで、でもその張り付いた笑顔の裏側を知りたくないので詮索はしない。
「そうだよ白雪くん、彼女の言うことはもっともだ。行かないなら休部申請を出してくれ。彼女の頼みが無かったら気づかずに廃部にしてしまうところだったんだから。だから、あとでちゃんと彼女にお礼を言うように」
「ちょ、会長!」
慌てて訂正しようとする彼女を見て会長は満足そう。人をからかって楽しむなんて趣味の悪い会長だ。だけど、今はそんないたずら好きに手を借りないといけない。
「……いいですか?」
「ん?あぁ、それで生徒会室まで来るほどの用とは何かな」
「この学校で起こっていることについてです」
「やっぱり記録は本当だったみたいだね」
彼はデスクの引き出しから一冊のファイルを出す。タイトルは2012年度日報。そう書かれた紙が黄ばんだセロハンで留められている。
「ということは、会長も分かっているんですか?」
「まあ、ある程度は。さすがにそちらの文集とは比べものにならないが概要くらいはね。それで、七人の能力者を見つけるっていう話だけど。はっきり言って当時の会長達の気のせいとしか考えられない。あまりにも非現実的だ」
そうなるよね。だから彼女を連れてきた。これで信用してくれれば万々歳だ。
「そう言うと思っていたので彼女を呼びました」
「夜司です」
すると会長はふむ、と唸る。
「君は今年から特進科に転科した子だったよね。なんでも五年ぶりで先生方も大いに喜んでいたよ」
「そうですか」
あくまでも彼女は素っ気ない。その対応には会長も苦笑い。
「で、彼女がこの戯言まがいのことを信頼に足るものにできるっていうのかい?」
「そうです。お願い、夜司さん」
「ちゃんと約束は守ってよね」
僕は頷く。約束とは天城さんと遊ぶ口実を作るというもの。ほんとに彼女は天城さんに執心みたいだ。
彼女は目を瞑って椅子にもたれかかる。数分もしないうちに彼女は目を開ける。
「会長は、来月誕生日ですよね」
「まあ、そうだが」
そこには、はっきりと驚きが見て取れる。
「その誕生日に妹さんからパスケースが貰えます。仲が良いみたいですね」
「……今日はもういい。来週また来てくれ。彼女の言ったことが本当なら私も君たちに協力するよ」
「どうでした?」
部室に戻ってそうそう天城さんから尋ねてきた。
「会長の未来を夜司さんが見て、来週それが本当だと分かったら協力してくれるそうです」
「わたし、頑張りました。褒めてください」
「?これでいいですか」
「はい、大満足です」
性格が変わりすぎというか天城さんの記憶が無いのをいいことにやりたい放題な気がするが、まあいい。
とにかく来週にならなくては何も始まらない。
その週末はいつもとは違って、少し長く感じた。
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