無自覚な使役

「やぁやぁ来てくれたね雪白くん。それと夜司さんに天城さん。あと、白鷺くんと咲宮さんだね。文芸部全員集合とは嬉しいね。もちろん先日の件は忘れていないよ」

彼が座る椅子の前には5人分のお茶とがあり、つまりは彼を囲むように座るということらしい。

「どうぞ」

春ねぇに連れられ僕と静は一人のソファもどきみたいなものに座り、残りの3人は長いソファにかける。

ぺりぺりぺり、とカレンダーが剥がされる音がする。今日から夏の到来、7月だ。

「結論から言えば、僕らは君たちに協力しよう」

おぉ、と喜びの声が上がる。だがそれだけですまないのもまた事実。彼は続けて言う。

「だがそれだけでは生徒会の運営がままならないのでね。少し手伝ってもらいたい」

「まぁそれくらいなら。……いいよね?」

みんなに確認をとるが誰も止めない。いいということで僕は彼の提案を飲んだ。

「それなら、早速だが解決して欲しい事案がある。これは別にやらなくても構わないんだが、最近生徒会箱に同様の要望が入っていて見過ごせなくなってしまった。暑いとは思うがよろしく頼むよ」

受け取った数枚のプリントが束ねられた用紙を持って生徒会室をあとにする。

「それで、事案ってなんだ?あんまりいい感じがしないが」

用紙をペラペラと捲る。書かれていたのは未使用教室の無断使用者についてだった。

「空き部屋って使っちゃダメだったの?」

「校則では一応ダメだけど、みんな気にせず使ってるね。暗黙の了解みたいなものだよ」

「私は家ですればいいと思うけどね」

「友達と勉強とかしないの?」

百奈の些細な疑問は夜司の心を抉ったのか、しゅんとして天城さんのそばに寄る。触れ合うことで得られる癒しがあるらしい。

「行けば分かるでしょ」

確かにそうだ。百聞は一見にしかず、見た方が早い。

「うわぁ」

特進科のある棟の3階。そこはかつての教室の趣を残した実質的な自由空間。一部は物置だったり、一部は文化系の部活が使ったり、また机を合わせて雑談を交わす生徒の姿もある。

「思ってたより賑やかだね」

「何も問題があるようには思えないんだが」

もう1ページめくると、5時になるとその迷惑な輩が現れるらしい。

「じゃあ待とう。ちょうどあそこ空いてるし」

百奈が指した席は5人分の椅子がある。

「にしても、ほんとに夜司さんは天城さんが好きだな」

「はいっ。その通りです」

「えっ、そうなの?」

「ダメなんですか。そういうのセクハラって言うんですよ」

いや当たりが強いな。こんなのもセクハラになっちゃうの?堅苦しい世の中だなぁ。

「そうなんですか。なんだか、懐かしいような新鮮な気持ちです」

しかも天城さんも心做しか嬉しそうなのが少し悲しい。僕も頑張らないと。

と、勇気のない決意を持っただけで別に行動には移せない。

「そういえば風ちゃんって、未来が見れるんだよね。それなら、いつ来るか分かるんじゃないの?」

言われてハッと気づいたのか、寄り添おうとしていた手が止まる。

「そうでした。私としたことが」

「頼みます」

「言われなくても」

なんで僕には冷たいんだ?僕は夜司さんの好感度をあげる方が大事なのかもしれない。

「あっ、見えました」

傍から見ると完全にヤバい発言だが、文集を知っていることで別に違和感は無い。隣の席の子が変な目でこちらを見ているのがいたたまれなくて次からはどうにかしないとなと思ったり思わなかったり。

「ちゃんと5時に来るみたいです」

「あと1時間か。宿題でもしとく?」

「だね。夜司さん、特進科だよね。ここの問題教えてくれないかな?」

特進科という響きを聞いて嬉しかったのか少し誇らしげに胸を張る。

「そうですね。そこまで言うなら教えてあげます。英語ですか、ちょうど私の得意教科ですね」

少しだけ塩対応が緩くなって良かった。

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