第22話 正体

 村に戻るまでの数日間で、葵達はとうとうレベル99になっていた。上級モンスター達は恐れをなして寄ってこないので戦わずに済んだ。しかし中級以下のモンスター達は襲ってくるのでそれらに対応していただけだが、それでも蓄積されるとそれなりの経験値になるのだなと葵は驚いていた。


 村に戻ると、五人はまっすぐ村長の家に向かった。日の高いうちに会いたかったのもあるが、モンスターがいなくなったことを早く伝えたかったのだ。


 村に戻るまでの間、念のため葵達は村の洞窟に立ち寄っていた。魔王が本当にモンスターを退かせてくれたのかを確認したかったのだ。

 結果はというと、魔王は約束を守っていた。洞窟のどこにもモンスターの姿は見えず、五人はホッと肩を撫で下ろしたのだった。


 村長は、葵達が訪ねてきたことを聞くと喜んで会ってくれた。


「それで、洞窟のモンスターはいなくなったのですか?」


 村長は心配そうに葵達に尋ねる。


「はい。先程洞窟にも立ち寄ってきましたが、どこにもモンスターはいませんでした。魔王は約束を守ってくれたんだと思います。」


 葵がそう答えると、村長はホッとした様子でため息をついた。


「あなた方が村を出て行ってから、本当にモンスターがいなくなるのか不安で不安で、夜もよく眠れていなかったんです!やっとこれで枕を高くして眠ることができますな。」


 そう言って村長はホッホッと嬉しそうに笑う。その様子を見て、五人はホッとしたし嬉しくなったのだった。


 せっかく村に戻ってきたが、五人はここで困ってしまった。レベルも上がりきって、あとはスオウに会うだけだが、肝心のスオウの居場所がわからない。そもそもスオウは気分で世界中を回っている。神出鬼没なのだ。どうやってこちらからスオウに会えばいいのか、五人はさっぱり分からないのだった。


 とりあえず今日はフランツとマリーの顔も見たかったし、二人の家に顔を出して、また新たな街へと向かうことにした。フランツとマリーは五人と一匹の来訪を心から喜んでくれ、一晩泊まっていくように強く勧めた。五人はその厚意に甘えることにして、にぎやかに夜を過ごした。


 そして五人と一匹は翌朝村を出た。とりあえず行ったことのない街へと向かうことにして、歩き始めたその時だった。


「やっほー、みんな。元気にしてる?だいぶ強くなったみたいじゃない?」


 スオウだった。葵達の目の前に、スオウが立っていた。驚いた葵達だったが、全員武器は構えなかった。


「スオウ!あなたに聞きたいことがあるの!」


 それは葵の意志だった。どうしてもスオウと話をしたいという葵は、渋る芹也をどうにか説得してスオウと話すことを許してもらった。


 スオウは、不思議そうに目を丸くして葵を眺める。


「聞きたいこと?なに?」


 葵は緊張で喉がつっかえたようになった。だが、必死で絞り出す。


「あなたが、倒されたいって思ってるって魔王から聞いたの。どうして!?」


 葵のその言葉を聞いたスオウは、一瞬驚いた様子で目をさらに丸くする。

 そして、言った。


「そう、聞いたの。あいつはお喋りだね。」


 そう言うスオウに、葵は問いかける。


「どうして倒されたいの?なんの理由があるのか知りたい。魔王の力も、あなたを倒さずに取り戻す方法はない?」


 葵がそう言うと、スオウははあ、とため息をついた。


「意外に君は知りたがりなんだね。教えたら君はどうするの?」


 そう言われて、葵は頭を振った。


「わからない。興味本意なのかもしれない。でも、こんなところに突然連れてこられて、理由も分からずに誰かを倒すことを私はしたくない。それに、そういうことをした張本人から理由を何も知らされないなんてフェアじゃないと思う。」


 葵がそう言うと、スオウはうーん、と唸って頭をかいた。


「なるほどね、そう来たか。まさかフェアじゃないなんて言い出すとは思ってなかったよ。」


 スオウは続ける。


「わかったよ。教えてあげる。でもその代わり約束してくれない?この話を聞いたら必ず僕を倒すって。」


 スオウの眼光が鋭く光る。葵は言葉が出ない。そうまでして倒されたいのか、なぜ?という気持ちで心が支配されていく。


「そうじゃなきゃ教えてあげない。」


 スオウは悪戯そうに微笑んでみせる。


「どうしても、倒されたいの?」


 葵は聞いた。その言葉に、芹也が「大沢さん!」と咎めるような声を出した。


「だって!魔王だって倒されたくないから私達と戦わないって言っていたのに。どうしてスオウはそんなに倒されたいの!」


 葵が層叫ぶと、スオウは苦笑する。


「君さあ。僕を倒したいの、倒したくないの、どっちなの?倒さなきゃ帰れないんだよ?」

「帰りたいよ!でも!どうして倒さなきゃいけないの・・・。」


 葵がそう言うと、スオウは困ったように笑い、そして話し始める。


「君をここに連れてきたのはきっと間違いだったんだろうね。でもごめん、そうだとしても君には僕を倒してもらわなきゃ困る。僕はね、この世界のバグだから。」


 スオウの言葉に、葵と芹也は耳を疑った。


「バグ?」


 芹也の言葉に、スオウはゆっくりと頷く。


「そう。そしてこのまま僕が存在すると、この世界は崩壊する。だから君達には僕を倒してほしいんだよ。」


 スオウの言葉に、葵も、そして芹也も、その場にいる誰もが言葉をなくして佇んでいた。

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