第21話 強く
魔王との話が終わり、葵達五人は魔王城を出た。
とりあえず村の洞窟にいるモンスターは退かしてもらえるとなったので、そのことを報告しに村へ戻ることになった。スオウを倒さねばならないが、スオウは居場所が特定できないこともあり、とりあえず村へ戻りがてらレベル上げをしていこうということになった。
ただ、葵は複雑だった。倒したモンスターは復活する。だが記憶などを完全に維持して復活するわけではないと知ったこと。魔王がモンスター達と共に世界を支配しようと目論んでいるわけではないということが分かったからだった。
命を一方的に絶つようなことをしていいのだろうか、葵はそう思うようになっていた。
そんな気持ちを抱えたものだから、モンスター達と遭遇するたびに自分からは攻撃できず、つい仲間の回復や補助魔法ばかり使うようにしてしまう。ビショップなのでそうしていてもおかしいと思われずに済んでいたが、とうとう戦闘中にラークとアルスが取り逃がしたモンスターが葵のところまで攻撃しようと走ってきて、葵は攻撃できずに固まってしまった。フリージアが弓を放ち、芹也が攻撃魔法を放ったので葵は怪我をすることもなく難を逃れたのだが、葵はその場にへたり込んでしまった。
「大沢さん!?」
驚いた芹也達が葵に駆け寄ってくる。葵は黙ってアンディをぎゅっと抱きしめた。
今のは中級モンスターだった。一撃くらえば、死ぬことはなくても大怪我になっていたことは確実だろう。それなのに、動けなかった。殺してしまう、瞬間的にそう思ったら体が硬直して動けなくなってしまった。
「ごめんなさい。」
葵の口からこぼれ出たのは謝罪の言葉だった。どうしていいかわからない、モンスターを倒しレベを上げて、そしてスオウを倒さないといけないのに。躊躇いが仲間の命を脅かすかもしれないのに。わかっているのに、葵は動けなかった。
葵は悔しかった。自分がこうやって揺らいでしまうことが。簡単に揺らいでしまう自分は弱い、と思った。だからこそ、謝罪の言葉が口をついて出たのだ。
「大沢さん、ちょっと休もう。これじゃ野営の番を大沢さんに任せられない。」
芹也の言葉に、葵は改めて悔しさを感じた。芹也の言うとおりだとも思った。こんなふうでは、葵が番をしている時に襲われたら大怪我をしかねない。
「すみません、ちょっと、混乱していて・・・。」
そう言って葵は息をはあっと吐き出した。そうすることで自分を落ち着かせようとしていた。
「どうしたの?魔王城ではスオウを倒すって言っていたのに。」
芹也は困惑した表情で葵を見つめている。二人の様子に、フリージアが割って入る。
「葵、もしかしてだけど。モンスター達の復活について何か思うことがあったんじゃない?」
葵はその言葉に息を呑み、そして頷いた。
「そう、です・・・。」
フリージアはその様子を見て、やっぱりねと頷く。アルスとラークも、納得したように頷き、芹也はハッとしたように葵を見つめる。
「モンスター達にも家族がいるかもしれない、あんなふうに喋る魔王やモンスター達を見たら、彼らにも悲しむ誰かがいるのかもって思ったら怖くなって。今のは中級モンスターだから話せませんけど、それでももしかしたらって。ごめんなさい、こんなことで揺らいじゃだめだってわかってるのに、私。」
葵がぎゅっと拳を握りしめながら一気に話すのを、四人は切ない気持ちで見ていた。そしてモンスターにまで思いを馳せるような人間をこの世界に移したスオウを、なんで罪作りなのだろうと思っていた。
そんな葵に、アルスが諭すように言う。
「確かに彼らにも家族や群れがあるのかもしれない。でもこの世界では、上級モンスターほどの知性を中級以下のモンスターは持っていない。だから魔王の指示が中級以下のモンスターには届かない。統率が取れないんだ。そうすると、どうしても人間を襲うモンスターは出てくる。そういうモンスターは、葵の気持ちはわかるが戦わなければならない。」
「兄さん!今言うことじゃないわ!」
フリージアがアルスを咎める視線を投げかける。だが、ラークもフリージアには同意せず首を振った。
「フリージア。葵は同情とかそういうのがほしいわけじゃないと思うぜ。お前だって旅商人としてこの世界を俺と巡ってきて、モンスターがどういう生態かはわかってるはずだ。」
そして、葵に告げる。
「葵。葵の気持ちはわかった。だがその様子でいられたら安心して後衛を守ってもらうことができない。それだと元の世界に帰れないぞ。」
葵は口をギュッと噛んだ。わかっている。わかっているのだ。そして自分が情けなかった。自分よりもっと戦闘に命をかけて戦っている三人に申し訳なかった。
「大沢さん・・・?」
葵は泣きそうな気持ちを振り払い、ぐっと顔を上げた。心配そうな芹也と目が合う。葵は黙って静かに頷いた。
「心配かけてごめんなさい。私、スオウに会いたい。どうしてこんなことをしてるのか、倒されたいのかちゃんと聞いて戦いたい。だから。」
ぐっと言葉に詰まる葵を、芹也とアンディは心配そうに見つめる。
「だから、次からはきちんと戦います。」
四人の顔をしっかりと見つめて、葵はそう宣言したのだった。
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