第20話 復活とは

 村の洞窟に居たモンスター。それがスオウの差金だと魔王から聞いて、五人は絶句していた。言われてみれば確かに、モンスターはそのようなことを言ってはいた。魔王よりも強い者から指示されている、というようなことを言っていたことを葵は思い出していた。あれはスオウのことだったのか、と。


「でも、どうして?どうしてあなたはスオウの言う事を聞いているんですか?いくらスオウが強いと言っても、モンスター達はたくさんいますよね?数で押し切ることもできるんじゃないですか?」


 葵が純粋に疑問を口にすると、魔王は頭を振った。


「魔王のワシがモンスターたちの中で一番強い。だが恐らくお前達よりワシは弱い。ワシらは本能的に強い者を避けるようにできている。今でさえ逃げ出したいのを我慢しているほどだ。スオウの強さは知っているだろう?ワシらが束になってかなう相手ではないよ。」


 魔王が自嘲気味にそう言うのを見て、葵は少し胸が痛んだ。


「それにしても、スオウはどうしてあそこにモンスターを居させるよう指示したんだろう。」


 芹也が不思議そうに呟く。魔王はそれを聞き、ため息をついた。


「恐らくは愉快犯の部分と、お前達をここに誘うためだろうな。」

「えっ。私達を?」


 魔王の返事を聞いて、葵はつい声を出した。スオウの考えが理解できなかったのだ。いや、今までスオウの行動を理解できたことがあっただろうか。思いつきで行動しているようにしか見えないし、そんなスオウの思考を理解できるわけもなかった。


「そうだ。スオウは倒されたがっているからな。ワシを襲ったときもそうだった。『モンスター最強のあなたなら、僕を倒すことができるでしょう?』と言ってワシの前に現れたのだからな。」


 それを聞いて葵は更に混乱した。倒されたい?なぜ?でも確かに、こちらの世界に呼ばれた時、スオウは自分を倒すことでしか元の世界に戻れないと言っていた。あれは葵達向こうの世界の人間に諦めさせるためだとばかり思っていたが、そうではなかったとしたら。


 ただ、純粋に、自分を倒してほしいという意味だったのだとしたら。


 だとしたら、今までのスオウの行動、意味がわからないと思っていた思考を理解できるのではないか。


「スオウは、消えたいと思っているということ…?」


 そこまで呟いて、葵は首を傾げる。


「待って、でも倒したとしても復活するんだよね?だったら倒されても無意味なんじゃ?」


 葵の呟きに、魔王が答える。


「確かに、ワシらもスオウも倒されてもまた復活する。だが、すべてを維持したまま復活するわけではない。」


 魔王の言葉に、五人は不思議そうな顔をする。


「新たに生まれ変わる、と言ったほうが近しいか。新たに役目を負った新しい自分が生まれる。だが、倒される前の自分は消滅している。それがワシらの生態だ。」


 葵はそれを聞いて絶句した。

 だって、つまり、それは―。


「死と変わらぬ、そう思ったか?」


 魔王は力なく微笑んだ。葵は言葉なく頷く。


「まあ確かに、お前達の価値観ではそう感じるのだろうな。だがワシらにとってはそれが当たり前だ。」

「待てよ。俺らはあんたがスオウ様に倒されたとばかり思っていたが、つまり話を聞く限りあんたはスオウ様に倒されたわけじゃないのか?スオウ様との記憶を持っているということは、そうだろ?じゃあなんでスオウ様はあんたを倒さなかったんだ?」


 ラークが不思議そうな声を上げる。魔王はその様子に苦笑する。


「簡単なことだ。力でワシを圧倒し、殺さずにおけばいいだけのことだ。スオウからしたら、ワシを倒してしまえばまた新たなワシが生まれ、また戦わねばならなくなる。力で圧倒しワシがスオウを倒せぬと分かってさえいれば、ワシをスオウの支配下に置くのは造作もないことよ。」


 ラークはそれを聞いてなるほど、と呻くように呟いた。


「どうして、スオウはそこまでして倒されたいんでしょうか。」


 葵は考えていた。いちいち異世界から自分達を呼んだり、この世界の魔王を屈服させてでも自分自身を倒してほしいと願う、その意味は、と。


 魔王は静かに頭を振った。


「わからぬよ。あいつの考えていることはワシには一つとしてわからぬ。今のあいつが消えたいと思っていることだけしかわからぬ。」


 だが、と魔王は続ける。


「恐らくはなにか理由があるはずだ。それが何なのかは分からないが。あいつなりにこの世界の事を想っているのは間違いないからな。」


 魔王の言葉に、葵は不思議な気分になる。スオウが、この世界の事を想っている?本当に?


「今はまだ分からぬだろう。さて、村のモンスターだが。退かしても構わぬ。恐らくスオウはワシとお前達を引き合わせるのが目的であろうからな。これ以上あそこにあいつを置いておいても意味はなかろうて。」


 魔王は続ける。


「だが、お前達がスオウを倒してくれることが条件だ。さあ、どうする?約束してくれたなら、すぐにでも退かそう。」

「わかりました。」


 葵は答えた。スオウの意図はわからないことが多いが、スオウを倒すことがこの世界のためになるのなら。そしてあの村のためになるのなら。自分達のためになるなら。

 スオウに会って聞くしかないと思った。なぜ、そんなに消えたいのかを。

 自分には想像もつかない、何かを抱えたスオウに会わなくてはいけない。葵は強くそう思ったのだった。

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