第19話 魔王との出会い

 コンドルが去って行ってしまい、取り残された五人はお互い顔を見合わせていた。


「もうモンスターは出てこない、と言っていたわね。」


 フリージアがポツリと呟いた。ラークがそれに応じて頷く。


「とりあえず進むしかないな。あのコンドルの言うことがどこまで本当かは知れんが…引き返す道理もない。」


 葵達五人は確かに、と頷く。ラークとアルスが念のため先導しながら、魔王城に向かうことになった。

 

 魔王城への道中、五人は無口だった。本当にモンスターに襲われないかわからないので警戒を怠らないようにしていたのもあるし、何かを託したかのようなコンドルの言いぶりも気になった。

 ただ黙って黙々と歩いて、とうとう魔王城にたどり着いた。


 魔王城は禍々しい雰囲気はあるものの、モンスターたちは何も言わずに葵たちを遠巻きに見送るだけだった。コンドルの言ったとおりだ、と葵は思った。

 魔王城に入ったはいいもののどこに魔王がいるのかわからない。五人は困ったが、葵はこの城のモンスターに聞いてみることを提案した。四人は渋い顔をしたが、だがそれ以外に方法があるわけでもない。結局五人はちょうど通りかかったコウモリ型のモンスターに声をかけた。


 モンスターは声をかけた瞬間驚いた表情を見せたが、


「うーん、この五人がコンドル様を。」


 と呟くと、「こちらです。」と案内する仕草を見せた。

 五人はこんなに簡単に案内してくれることに驚いたが、黙ってモンスターについていった。


 モンスターが案内してくれた部屋に入ると、そこは大きな広間で、奥の方に人型のモンスターが疲れ切った表情で大きな椅子に腰掛けていた。


「あれが、魔王?」


 葵は小さく呟いた。驚いたのだ。ゲームの魔王といえばラスボスで、大きな体だったり威厳があったりするはずなのだが、あのモンスターからはそういったものが一切感じられない。ただただ疲れきった、なんというかしょぼくれた感じだ。


「魔王様。」


 葵達を案内してくれたモンスターが奥のモンスターに声をかけると、気だるげな顔をあげる。やはり彼が魔王なのだ。葵に緊張が走る。


「彼ら、コンドル様と戦闘しコンドル様を倒した者にございます。我々の助けになってくれましょう。」


 モンスターの言葉に、葵は戸惑った。魔王たちの助けになるとはどういうことだろう、と首を傾げる。そんな様子には気を留めることなく、魔王はふむ、と、五人を見つめた。


「わかった。この五人とはワシが話そう。」


 魔王がそう言うと、モンスターは広間を下がる。広間には、葵達と魔王の六人だけとなった。

 魔王は遠い目をして話し始める。


「何から話したものか。」


 そう言う魔王の言葉に、五人は耳を傾ける。


「まず、ワシは魔王だ。まあ今はそうは見えんかもしれんが。この世界を支配するために産まれた。産まれたときはもっと強大な力を持っていた。だが、今は見ての通りだ。」


 魔王は自嘲気味に笑ってみせる。五人は戸惑い、顔を見合わせた。


「この世界の神と戦い、力を失ったのだ。お前達も知っているだろう、スオウというあの神だ。」


 葵は言葉に詰まる。


「ワシはこの世界を支配するために産まれた。それだけの力も持っていたはずだった。だが、突然現れたスオウにワシはすべての力を奪われた。今のワシは空っぽなのだ。」


 魔王は無気力な様子で首を振った。


「お前達、スオウと戦うのだろう?なぜわしが知っているのかって?この世界にはモンスター達がたくさんおるだろう。あいつらからわしの元へ情報が入ってくるのだよ。なあ、スオウと戦うのなら、ワシの力も取り戻してはくれないか?」


 そう言われて、葵はぐっと言葉に詰まる。魔王はこの世界を支配しようとしていた存在だ。だとすれば。


「あなたに力を返したら、あなたはこの世界を支配しようと動くのではないですか?」


 葵は硬い表情でそう問いかけた。魔王は驚いたように目を丸くしたが、次の瞬間、ゆっくりと頭を横に振った。


「いや、今の状態を見てみろ。わしらがスオウに支配されている状態だ。これが支配されるということかと骨身にしみてわかった。わしらは世界を支配するなどせんよ。その気を無くした。」


 魔王はそう言うと、ふう、と息を吐いた。その様子を見ていた芹也が言う。


「なら、何故あんな小さな村の洞窟に上級モンスターを置いているんですか。あれでは村の人々は生活が立ち行かなくなります。」


 魔王はああ、と言うと呟いた。


「あれはスオウの差金だよ。」


 魔王の言葉に、五人は息を呑んだのだった。

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