第13話 魔王について考える
五人は村で必要なものを買い込み、フランツの家で一晩を過ごした。フランツとマリーはにぎやかな食卓に喜び、旅立つ朝には残念そうに、しかし優しく送り出してくれた。
フランツとマリーとの別れを経て、五人と一匹はとりあえず魔王城の方向へ向かうことにした。魔王城へは歩いて二週間ほどの距離だということだ。更に、魔王城に向かう途中の街からは一週間ほどかかるという。魔王城の周辺は上級モンスターが多く、とても一般の人々が普通の暮らしを営むことができる環境ではないということだった。
葵は緊張を覚えながら歩を進めていた。まだ魔王城の途中の街まですらたどり着いていないが、ダチュラファンタジーのストーリーを思い返すに魔王は邪悪で世界を我が物にしようとする恐ろしい存在だ。そんな存在と対峙して、果たして無事でいられるのだろうか。とそこまで考えて葵ははたと気がついた。
(あれ?でも世界を征服するような魔王だったら、もう私達を攻撃してきてもいいような?あそこの洞窟のモンスターも全然やる気なかったし。もっと世界征服を企むような魔王だったら、好戦的なモンスターを置いていてもおかしくないよね?)
そうなのである。あそこの洞窟でもっと好戦的なモンスターと戦っていたら、葵たちはもっと疲弊していただろう。だが現実は違った。驚くほどやる気のないモンスターがいて、戦うなんて面倒くさいと戦闘にもならなかったのである。
「さん、大沢さん!」
思考の渦に飲み込まれて、葵は芹也が呼んでいることにも気がついていなかった。
「あ、は、はい!なんでしょうかっ!?」
驚いた葵は素っ頓狂な声を出し、スリングのアンディに「葵うっさいよ。」と耳を塞ぐポーズをされる。
アンディにごめんと謝ってから、葵は改めて芹也に向き直った。
「すいませんぼーっとしてて。何でしょう?」
「うん、そろそろ夕方になるから今日は野宿になるよって伝えたかったんだ。馬車に乗れば速いんだけど、レベル上げもちまちまやっていきたいしね。今日はこのあたりで野宿の準備をして、ご飯を食べるまでレベル上げかな。大沢さんはそれで大丈夫?」
芹也に心配そうに聞かれて、葵は「はい!」と元気に答えてみせる。
「今日はまだモンスターに会ってないですし、元気なので!大丈夫です!」
それを聞いて芹也はほっとしたように微笑む。
「よかった、ぼんやりしてたから疲れてるのかと思って気になってたんだ。元気ならよかったよ。」
そう言われて葵は慌てる。
「あ、ぼんやりしてたのはちょっと色々考え事してて…!魔王の事とか…!なんであんなやる気のないモンスターを配置してたのかなとか…!」
葵がそう言うと、芹也は「確かに」と、考え込む雰囲気だ。
「そもそも魔王が世界を征服しようっていう雰囲気じゃないのが気になる。だからやる気がなくてああいうモンスターを、念のため配置してるのかもな。なんだか結局スオウの手のひらの上、って感じで気に入らないよ、俺は。」
そう言った芹也の表情は暗い。今までに見たことのない表情だ。葵は心配になって「あの…!」と声をかけた。
「私、頼りないかもしれないですけど仲間ですし!何か思うことがあるなら話してください!私で良かったら役に立てるかもしれませんし…!」
葵がそう申し出ると、芹也は驚いた表情をしたものの、困ったように笑う。
「ごめん、心配かけちゃったな。俺のことは大丈夫だよ。大沢さんが気に病むほどのことじゃないよ。」
「でも…!」
葵がそう言い募ろうとすると、芹也は優しく、しかしきっぱりと拒絶の意図をもって葵に向かって頭を振った。
「ごめん、気持ちは嬉しいよ。でもこれは多分俺が…俺自身がなんとかしなきゃいけない問題で、他の誰かにどうにかしてもらうことじゃないんだ。」
そう言う芹也は、諦めのような、苦しそうな笑顔を見せる。
葵はそれ以上追求することもできず、
「わかりました。でも何か辛いことがあるんだったら、話したいと思ったら話してくれて良いんですからね、私はいつでもウェルカムですから!」
と言って胸を張る。
葵のそんな姿に、芹也は吹き出して笑ってしまう。葵もつられてしまい、二人でクスクスと笑いあった。ひとしきり笑いあうと、芹也は「ありがとう。」と葵に微笑みかけたのだった。
そして葵は、そんな芹也に少しだけときめいてしまうのだった。
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