第12話 申し出

 村に戻った五人に、村長は眉を顰めた。


「倒してこなかった、ですと?」


 そう言うと村長はしばし瞑目した。五分ほど経ったろうか、沈黙に耐えられないと葵が言葉を発そうとした瞬間、村長は再び目を開いて五人を見据えた。


「あの洞窟のキノコはこの村で一番売れる、いわば村の目玉商品。モンスターがいる中で本当に安心して収穫できるのか、村人達が納得できなければ。しかし、村人達がモンスターのいる洞窟に行きたがると思いますかな?」


 確かに村長の言うとおりだろう。特にモンスターは既に自警団の村人を攻撃し怪我を負わせている。そんななかで村人達がモンスターを信用し攻撃しない、もしくは恐れないなど難しい話だ。

 葵は自分の判断が軽率だったと悔やんだ。せめて移動してもらえばよかった、と思ったところで葵は大きな声を出した。


「村長さん!モンスターに洞窟から出て行ってもらえばいいですよね!?」


 葵の勢いに驚いた村長や四人が一気に葵に視線を集中させる。


「そ、そうですな。別に倒さなくとも、あの洞窟が以前と同じように使えるのであれば村人達も納得しましょう。いくら中級モンスター達が今は出ないと言われても、自警団の歯が立たない強いモンスターが一匹いればそれだけで村人達は恐れをなして洞窟には近づこうとせんでしょう。」


 村長に言われて、葵は「そうですよね!」と頷く。葵の意図がわからない四人はキョトンとした表情で葵を見つめている。


「私達、魔王に会って来ようと思っています。だから、そこで魔王にあのモンスターを移動させてもらえるように交渉します。あのモンスターは魔王の指示であそこの洞窟にいると言っていました。であれば、魔王の指示があればあそこから移動するはずです!」


 それを聞いて村長はふむ、と頷き、芹也もなるほど、と同意した。


「それが確かに手っ取り早いかもしれません。しばらくご不便はおかけするかもしれませんが、魔王に会うのが近道だと思います。」


 葵と芹也の言うことに、ラークとアルスとフリージアは頷いた。


「確かにそれが一番早いわね。魔王城はスオウ様と違って移動もしないし。ただ、魔王城の周辺のモンスターは村や町の周りのモンスターと違って上級モンスターばかりだから強いわよ。」

「そうだな、ここで色々補給していった方が良いだろう。」

「薬草や魔法の瓶、食料もか。魔王城までの途中にいくつか街があるはずだが…確認して必要な分を割り出さねえとな。」


 五人の様子に村長は面食らった様子だ。


「うちの村のためにそこまでしてくださるんですか?なぜ?」


 葵は驚いた様子の村長ににっこりと微笑みかける。


「だって、フランツさんにはよくしていただきましたから。フランツさんの大事な場所、私は守りたいです。」


 そんな葵を見て芹也も微笑む。


「助けたのはこちらとはいえ、村まで案内してくれたりご飯を振る舞ってくれたり、優しくしてくれたのは間違いないです。そういう気持ちに報いたいと思うのは当然じゃないでしょうか。」


 ラークはそんな二人を見てニカッと笑う。


「俺たち三人は乗りかかった船ってとこです!こいつら二人放っておけねえですし!!」


 アルスもフリージアも頷いてみせる。


 五人を見て、村長は頭を下げた。


「よろしくお願いしたい!」


 そんな村長の姿を見て、五人は顔を見合わせて力強く頷きあったのだった。

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