第14話 アンディ
五人は野営の準備とレベル上げをこなし、順番に見張りをすることで無事一晩を明かすことができた。
野営が初めての葵は見張りの順番を朝方にしてもらったのでまとまった睡眠を取ることができたが、それでも気を張っていたからか、朝から疲れてしまっていた。
「葵、大丈夫かあ?滅茶苦茶眠そうな顔してるぞ?」
スリングの中からアンディが心配そうな顔で葵の顔を覗き込む。
「うーん、ちょっとだけボーっとするけど、大丈夫。」
そんな葵に、四人は心配そうな顔を見せる。
「葵、しんどかったら少し休む?ちょっと休んでスッキリしたほうが楽になるわよ。次の街まであと一日かかるし。」
フリージアが心配して休むことを提案してくれるが、葵はすんなり頷くことができない。自分のせいで工程が遅くなるのも申し訳ないという気持ちがあったし、何より村の人達が、自分達が遅くなればなるほど特産品を収穫しに行くことができないということが気がかりだった。
「体を動かしていればそのうち眠気も飛んでいくと思うから大丈夫です!」
と言って、葵は杖を持っていない右腕をぐるぐると回してみせる。が、フリージアは心配そうだ。
「うーん、心配だけど葵がそこまで言うなら…。でも、調子が悪くなったらすぐに言うのよ。」
そう言うフリージアに、芹也も同意する。
「あんまり無理して、逆に時間がかかっては本末転倒だからね、大沢さん。無理しすぎずに、俺たちに頼ってくれていいから。」
心配そうな二人に、葵は素直に頷いてみせた。すると二人はホッとした表情になる。スリングのアンディも、ホッとしたようにため息をついた。
「ありがとうございます。自分でも集中できてないなって思ったらすぐに言いますね!」
葵がそう言うと、ラークもアルスも静かに頷いた。その様子を見て芹也も小さく頷く。
四人がホッとした様子なのを見て、葵は少し考え直していた。ちょっと無理をしてでも早く魔王城にたどり着いたほうがいいと思っていたが、そうではないと気がついたのだ。特に自分は回復職だから、自分が倒れていては四人に迷惑がかかる。体調を整えるためにも、今日も野営とはいえ早めに休んで、明日に疲れを残さないようにしなければいけないと思った。
夕方、葵はまた早朝の見張りにしてもらって自身は早めに休むことにした。レベル上げも順調に進んでいたし、少し疲れが溜まっていることを自覚していたので、四人に伝えて早めに休み、見張りは今回も早朝にしてもらうことにしたのだった。
敷物を土の上に敷き、その上に置いた簡易的な寝袋に入って寝ようとしたその時だった。スリングで丸まっていたアンディがトコトコと葵の横にやってきて、ちょこんとお座りをしたのだ。葵は何事かと体を起こす。
「葵、昨日うまく寝られなかったんだろ?」
アンディは心配そうにそう言うと、ぐいっと頭をすりつけてくる。
「横で一緒に寝てやるよ。少しは安心だろ?」
得意げに言うアンディを見て、葵はふふっと笑ってしまう。そしてなんとなく、まだ気を張っていた自分の余計な力がスッと抜けたのを感じた。アンディは守られるばかりで戦えないが、それでも葵を思って横に来てくれたことが嬉しかった。葵はアンディが可愛いと思い、ギュッと抱きしめようと手を伸ばしたが、途端にするりと腕の中から逃げ出されてしまう。
「やめろよー!そういうことするなら一緒に寝てやんねえぞ!俺はもう赤ちゃんじゃないの!」
アンディはぷりぷりと怒っているが、葵にとってはその姿さえも可愛い。葵は「ごめんごめん。」と謝り、また床につくことにした。その様子を見てアンディはまた、改めて寝袋の横にやって来て丸まる。葵はアンディの小さな、そして穏やかな呼吸を聞きながら、安心して眠りに落ちていったのだった。
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