第10話 小手調べ

 五人と一匹はフランツに連れられて山の向こうの村に無事到着した。道中、時折モンスターが出てきたものの五人の連携で難なく倒すことができた。


 村に着いた五人と一匹は、フランツの家に招待された。妻のマリーはフランツから経緯を聞いて心配したりホッとしたりと忙しそうだった。そして助けてもらったからお礼がしたいとフランツがマリーに伝えると、五人と一匹に満面の笑みを向けた。


「うちの人を助けてくださってありがとう!無茶ばかりするものだからいつも心配していたの。あなた達が助けてくれなかったら今頃どうなっていたか。ぜひ今日はゆっくりして行ってね。」


 そう言うとマリーは、おもてなししなくちゃ!と台所へ駆け込んで行った。

 そんなマリーを見てフランツは苦笑する。


「うちのが張り切ってすまんね。もう子どもたちも巣立ったもんだから、あいつの料理の腕をふるうのが俺だけになっちまって張り合いがないって言ってたから今日は張り切ってるんだろう。まあでも、あいつの作る飯はかなり旨いぞ!楽しみに待っててくれ。」


 フランツはそう言うと、そういえば、と、ラークを見た。


「さっき情報がどうとか言ってたな。村の酒場なら色々情報が手に入ると思うぜ。夕飯まではまだ時間もあることだし案内しようか?」


 言われてラークは葵と芹也の二人を代わる代わる見る。葵と芹也は顔を見合わせて、それからラークに頷いた。それを見てラークは改めてフランツに視線を戻して頷く。


「お願いするよ。」


 ラークがそう答えると、フランツはニカッと笑って答える。そして台所のマリーに声をかけて、五人を案内してくると伝えた。

 葵たちはフランツについて村の酒場へ向かった。外はもう少し赤くなっていて、それが夕方なのだと実感させた。


 フランツに案内された酒場はすぐそこだった。村自体がそんなに大きい村ではないようなので、教会や雑貨屋など生活に必要な施設はコンパクトにまとまっているようだった。


 こんな小さな村で新しい情報が手に入るのだろうかと、葵は少し不安になった。だが、そんな葵の不安を見抜いたのか芹也がこっそりと小声で「こういう村だからこそ独自の情報網があったりするんだよ。」と耳打ちしてきた。なるほど、と葵は唸る。確かに街から離れた村で事件が起きている、というのはRPGではよくある話だ。事件が起きていては欲しくないが、街にいては分からない情報があったりする可能性はあるのかもしれない。


 葵はそう思い直すと、酒場の入り口をくぐる。そして酒場の様子を見て街の酒場との人数の違いに驚いてしまう。やはり街の酒場はもっと大勢の人々がいて、ごった返すという言葉がぴったりなくらいだった。だが村の酒場は、その半分くらいの人数だろうか。落ち着いた雰囲気なので聞き込みをするには良いのかもしれないが。


 ラークやアルスは酒場の様子に驚いた様子もなく、近くにいる人たちから順々に声をかけていた。殆どの人からは警戒心からか特に変わったことはないと言われたが、一人の男性からは話を聞くことができた。

 それは、この村の近くの洞窟に強いモンスターが住み着いたようだという話だった。男性は最近気づいたという。聞けば、最近村の近くに出る低級モンスターの数が減っているようだが、村の周りの木が傷んでいたり、あまり見たことのない足跡を見たりすることがあり、その足跡が近くの洞窟に続いているのを見たのだという。

 基本的に村には自警団がいて、モンスターの退治は彼らが請け負う。だが、それは中級くらいのモンスターまでで、低級モンスターの数が減り続けるほど強いモンスターは上級のモンスターである可能性が高い。そういうモンスターが近くに住んでいるとなると、近隣の村まで何かを買い付けに行ったりすることが難しくなる。今は人を襲っていないが、今後はわからない。村長には話をしてあるが、これからどうなるか…と彼は困った表情を見せた。


 その話を聞いて五人は顔を見合わせる。スオウの情報ではないが、困っている人々をほうっておくわけにもいかない。それに上級モンスターは、レベル70くらいあれば倒せるはずだった。芹也は既にレベル75になっているし、他の四人もレベル70になっている。倒せないことはないと判断したラークは、


「ここで小手調べといこうじゃねえか?」


と、不敵に笑ってみせる。四人は頷き、酒場の彼に頼んで村長に会わせてもらうことにした。村長にそのモンスターを討伐させてほしいと頼みに行くのだ。そのモンスターを倒すことで大量の経験値が手に入れば更に強くなることができる。五人はそれを期待し、村長に会いに行くのだった。

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