第9話 悩みは尽きない

 芹也と話をして少しは吹っ切れた葵だったが、心の奥底では自分が前衛に立って他の仲間を守る方がいいのでは、その方が三人の命を守れるのではという気持ちがあった。


 そんななんとなくモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、葵はレベル上げのための戦闘を続けていた。五人の連携はうまく取れていたし、少しずつ芹也とのレベルの差も縮まってきていて、街から半日ほど離れた場所でレベル上げをしても問題ないくらいの強さにはなってきていた。

 だが葵はどこかで、自分が前線で戦う剣士にジョブチェンジして戦えば、という気持ちを捨てきれなかった。だから休憩中などにぼんやりとしてしまって、1番身近にいるアンディに心配そうに顔を覗き込まれたりしていた。アンディも心配はしているが、自分にはどうにもできないので葵の側にただいることしかできないのだった。


 そんな中、五人がいつものようにレベル上げのための場所を探しているときのことだった。木々の向こうからうめき声が聞こえてきた。魔物かと警戒した五人だったが、「助けてくれ…!」という言葉が聞こえて声のする方向へ走った。

 

「どこにいますかー!返事してください!」

「おおーい、ここだ!こっちの崖の方だよ!」


 葵が大声で声を上げると、葵の後ろ側にある崖の方から声がする。振り返って崖に向かうと、崖の斜面にある出っ張りに壮年の男性がうずくまっていた。幸い崖は高い崖ではなく、男性のいる出っ張りの少し下あたりに小さな小川が流れている。


「すまない、助けてくれ!薬草を取りに来たら足を滑らせてそのまま滑り落ちてしまったんだ。足をくじいたらしくて動けないんだ!」


 男性は必死で声を張り上げる。それを聞いた五人は顔を見合わせて頷く。


「わかりました!そのままじっとしていてもらえますか!?浮かせます!」


 芹也はそう言うと、


「サーフェイス!」


 と呪文を唱えた。みるみるうちに男性の体が浮き上がり、葵たちのところまで運ばれてくる。


 男性は浮かんでいる間中きょろきょろと不安そうにしていたが、地面に到着するとホッとした表情を浮かべる。だが次の瞬間、「イテテテテ…!」と足首を押さえた。

 その姿を見た葵は慌てて男性にヒールをかける。滑り落ちた時にできたらしい擦り傷なども同時に綺麗に治癒されていく。どうやらくじいた足首の痛みも消えたようだ。男性は足首をぺたぺたと手で叩いて見せる。


「お嬢さん達、ありがとう!このまま魔物の餌にされちまうかと思ったよ。俺はフランツ。この山の向こうの村で薬屋をやってるんだが、この辺りで質の良い薬草が採れるというので来てみたんだ。だが夢中になって摘んでるうちに足を滑らせて落っこちちまった。本当に助かったよ!礼をしたいから良かったら家まで来てくれないか?」


 フランツと言った男性は人の良さそうな笑顔で葵たちに礼を言った。


「山の向こうか。たしか小さな村が一つあったな。多分魔物の強さはこの辺りがピークで、村に向かえば向かうほど魔物は弱くなるだろうし、スオウ様についての情報収集もしたいから行ってみるか?」


 と、ラークが四人に提案した。スオウは相変わらずの神出鬼没で情報がなかなか集まってこない。

 街での情報収集では目新しい情報が入ってこなくなっておりそろそろ限界があるように感じていたし、別の場所で情報収集してみるというのはアリだと葵は思ったので、葵は同意する。そんな葵の姿を見て、他の三人も同意した。


「フランツさん、道案内よろしくお願いします。」


 アルスがまだ座り込んだままだったフランツに手を貸して立ち上がらせると、フランツは嬉しそうに、


「よし!任せといてくれ!うちの女房の作るスープは絶品だから、是非それを飲んでいってくれ!」


 と、張り切るのだった。

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