第8話 彼の言葉
無事に芹也が仲間となった葵だったが、全員で話をして、とりあえずレベル上げに専念することになった。
レベルを上げると言っても一朝一夕で上がるものではない。葵たちは毎朝早くに起きて街の外へ出かけ、初めは街の近くからモンスターを倒し始め、レベルが上がるごとに少しずつ街から離れるようにしていった。
芹也は一人でレベル上げをしていただけあってレベルが五十あったので、最初のうちは芹也の魔法で一掃するだけで四人のレベルが上がっていたが、段々とそうはいかなくなり、ラークとアルスが前衛で敵を引き付けながらフリージアが弓で攻撃をしたり、葵が前衛二人を回復しながら戦う、ということも増えていった。
敵が弱くなってきたら違う場所へ移動、ということを繰り返していたが、敵が強くなってくるたびに葵はラークとアルス、フリージアを巻き込んでいることに罪悪感を感じるようになっていった。スオウの言っていた、三人にとっては現実の世界だから死んでしまうということが気にかかっていたからだ。芹也の強さを見て、日本から来た二人だけでスオウに挑む方が安全なのではないかと思い始めていた。
ある日の夕食後、食事を終え席を立とうとする葵に芹也が声をかけてきた。
「大沢さん、ちょっといい?」
葵ははい、と答えながら、なんだろうと思った。レベル上げを始めて二週間ほどが経っていたが、芹也から個人的に声をかけられたのは始めてだったからだ。
「ちょっと話したいんだけど、もう少しいいかな。」
芹也はそう言って、葵に席に座るよう促した。葵は素直に従って席に座る。
「なんだかこの数日、思い悩んでるように見えたから。俺でよかったら話してもらえないかと思って。」
言われて葵は少し悩んだ。芹也と出会って二週間ほどだが、真面目で細やかな人だということには気がついていた。だからこそ声をかけてくれたのだろう。だが、三人の命の危険があるということを口に出すのは怖かった。
「話し辛いかな。俺一応これでもだいぶ大所帯の部活の部長やってたし、後輩の相談に乗ったりするのは結構多かったから、大沢さんが話すことで楽になれれば、と思ったんだけど。」
そう言われて、葵は話すことを決めた。結論の出ない話だし、言っても仕方のないことかもしれないが、芹也がそこまで言ってくれるのなら話してみようと思ったのだ。
「あの、実は、高田さんに会う前にスオウに会ってきていたんです。そこでスオウに、ラークさん達三人はこちらの世界の人だから死んでしまうこともあると言われて。三人を巻き込んでいるのはよくないんじゃないかと思って悩んでいたんです。」
芹也はそれを聞いて、真剣な表情になった。
「スオウがそんなことを言ったの?」
「はい。私、この世界に来た時にスオウから絶対に死なないと言われていたから、この世界の人達もみんなそうなのかと思いこんでいたんですけど、私達日本人はプレイヤーだから死ぬことはないけど、三人はそうじゃなかったみたいで。私のことに巻き込んで死なせてしまったらと思うと怖くて。」
一気に言って、葵はふうと深い溜め息をついて俯く。思った以上に自分では苦しかったようだった。
「あのさ、大沢さん。多分、三人は自分達が死んでしまう可能性があることはわかっていると思うよ。彼らの親御さんとか、おじいちゃんおばあちゃんとかが亡くなったことがあるはずだから。でもその上で、君と一緒にいることを選んでるんじゃないかな。」
そう言われて葵はぱっと顔を上げた。
「でも…!」
葵の様子を見て、芹也は首を静かに横に振る。
「彼らは旅商人だし、命のやり取りをしている自覚もあるはずだよ。旅の途中で命を落とすことも分かっていてそういう仕事をしているんだと思う。そういう三人がキミと一緒にいることを選んでいるなら、君がそこまで気に病むことはないと思う。それに多分、俺一人の攻撃力でスオウを倒せるとは思えないし、三人がいてくれればスオウを倒すことも不可能じゃないと思う。ただそのためには、今みたいにレベル上げをし続けるのが必要だけど。」
芹也の言うことはそのとおりだった。葵はそれ以上は何も言えずに黙り込んでしまった。
「レベルを上げていけば、そんなに易易と死んでしまうことはなくなるよ。それに大沢さんはビショップなんだから、三人が死んでしまわないように君が頑張ることが肝要なんじゃないかな。」
そうか、と、葵は思った。
「私が強くなることも、三人を守ることに繋がるんですね?」
「うん、そうだよ。大沢さんのレベルが上って強くなれば、回復魔法の威力も強くなるはずだし、このゲームには復活魔法もあったはずだから、たとえ死んでしまったとしてもすぐにそれを使えば復活できるんじゃないかな。だからこそ、ビショップというジョブは重要なんだ。君が俺たちの要なんだよ。」
自分が仲間たちの要だと言われて、葵は気が引き締まる思いがした。とにかく今は、強くならなければいけない。そのことだけを考えようと葵は思った。
「高田さん、ありがとうございます。一人だったらきっと、ずっと悩んじゃってました。」
そう言うと芹也は優しくふわりと微笑む。その様子を見て葵の鼓動が跳ねる。芹也は二歳年上の高校三年生でお兄さん的存在でもあるけれど、どうしてかその表情に心を動かされてしまう。その感情がどこから来るのか、一体何なのか葵には分からなかったが、芹也は葵の心を動かす存在だということだけは確かなようだった。
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