第7話 出会い

 葵達四人は必死で走り続けて無事に街まで到着した。

 スオウの追撃がなかったとはいえ、葵は恐怖していた。あんなに強いスオウを倒さなければならないなんて、自分にできるのだろうかと葵は強い不安感と戦っていた。


 よろよろと四人は言葉もなく宿に向かっていた。疲労もあったが、葵以外の三人は自分たちの世界の神様があんなふうであったこともショックだった。

 

 四人ともどう言葉をかわしていいのかわからずに戸惑っていたその時だった。


「君!その犬はもしかしてトイプードルじゃないのか!?」


 突然若い男性の声に声をかけられ、葵はぱっと声をかけられた方向を向いた。

 そこには黒髪黒眼の、葵とそう年齢の変わらなそうな少年が戸惑った表情で立っていた。


「あの、そうですけど…あなたは?」


 葵はおずおずと答える。


「ごめん、俺は高田芹也。もしかして君もスオウに転移させられた人なの?」


 その言葉に、四人とも驚いて言葉が出ない。葵はかろうじて頷くことができた。

 その様子を見て芹也はホッとした表情をする。


「驚かせるつもりはなかったんだ。俺は一月ほど前にこっちに来て、スオウを倒したくてレベル上げをずっとしてたんだ。こっちでは見かけないトイプードルを見たから、驚いて声をかけたんだ。」


 そう言うと芹也は、「君の名前は?」とアンディに声をかける。声をかけられたアンディは元気よく、


「俺はアンディ!俺の飼い主は葵だ!あとこのでっかいのはラークで、こっちのねーちゃんがフリージア、このにーちゃんがアルスだぞ!」


 と、勝手に自己紹介を始めてしまう。さすがコミュ強である。

 その様子を見て芹也は驚いた顔をする。


「アンディ、君喋るのか!?」


 アンディは驚き顔の芹也に得意顔で答える。


「おう!こっちの世界では喋れるらしいぞ!」


 はあ、と、感心したように嘆息した芹也は、葵に視線を向ける。

 葵はドキリとした。芹也は鼻梁の通ったイケメンと言われる部類の顔立ちだった。そんな人に見つめられるのは緊張する。

 アルスもフリージアも美形だが、年の離れたお兄さんとお姉さんという感じだったし、何より葵が混乱していたのでときめきを感じる余裕がなかった。だが、同じ世界からやって来たらしい芹也は近しい存在に思え、現実感があった。


「君もスオウを倒すつもりなの?」


 芹也は葵に問いかけた。その言葉に、今日の出来事が一気にフラッシュバックしてくる。勝てるのだろうか、と、葵は思った。スオウを倒して帰りたい気持ちはあるけれど、あんな神様に自分が勝つことができるビジョンを思い浮かべることができない。


「倒せるなら、倒したいとは思っています。」


 不安も手伝って、曖昧な言い方になる。葵の答えに、芹也は怪訝な表情をする。


「でもまだ私レベルも低いしビショップだから火力もなくて…。倒せるか不安なんです。今日もスオウに会ってきたんですけど、何もできないで逃げ帰ってきたんです。」


 葵はスリングの紐をぎゅっと掴みながら答える。芹也はああ、と得心したように頷いた。


「君はビショップだったのか。それだと確かに厳しいかもしれないな。他の三人はなんのジョブなの?」

「お、おお、俺はアックス使いでフリージアが弓使い、アルスが剣士だ。」


 戸惑ったようにラークが答える。


「なるほど、ビショップ以外は前衛が多いのか。」


 芹也は少し下を向いて考え込むと、ぱっと顔を上げる。


「俺も仲間に入れてくれないか?俺はメイジなんだ。後衛が厚くなって、前衛の攻撃もやりやすくなると思う。」


 葵は戸惑ったが、アンディは嬉しそうにワンと吠え、勝手に答え始める。


「いいんじゃねえの?旅は道連れ世は情けって言うしな。少しでも人数増えたほうがスオウを倒せるんじゃねえか?」


 それを聞いた四人はそうかも…、と顔を合わせ、誰ともなしに頷いた。

 そして葵は芹也に向き直る。


「お願いします、一緒に行ってくれるなら有難いです。」


 葵がそう言うと、芹也はにっこりと笑う。


「ああ、よろしく。役に立てるように頑張るよ。一緒に帰ろう。」


 葵は芹也に、こくりと頷いてみせるのだった。

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